推し活駅

ガブロサンド

第1話

隣の少女の観察から少年の朝は始まる。


郊外の住宅地に隣接する白玉駅。そこは毎朝、通勤通学の電車待ちで込み合っている。

少年はここから2駅離れた高校に通っており、名前は加藤純という。隣の少女は東海林玲子。席が近いからと親しくなってから、よく純に構いに来るようになったクラスメイトである。


いや、構うと言っていいものだろうか。


「あああの二人見て! 絶対両片想いだって! ああちょっと気まずくなって目逸らした! じれったい! だがそこがいい!」


小声で、しかし早口で、いつものように純に熱弁し始めた。

玲子は強火のカプ厨である。しかもそのへんの他人で妄想する厄介なオタクであった。


「この駅最高! 毎日押しカプ見れて最高! 通学してるだけで推し活できるなんて恵まれすぎてるなあ~。この駅絶対カプ厨スポットだよ!」

(俺なんでこんなやつが好きなんだろう……)


純は内心自虐する。理由なんて決まっていた。外見がドストライクなのである。


『電車が参ります――――』


アナウンスが流れた。


「あっねえあの女子二人見て!」


玲子が次のターゲットを発見した様だ。

ホームの端の方に立つ、二人の女子高生。他所の学校の制服を着ている。

片方は黒髪で片方は金髪だ。向かい合って、何かしゃべっているように見える。


「あの二人は価値観の違いで喧嘩してるのね……でも実はお互い似てるって気づくんだわ。ほら手を差し出してる!最後には手を取り合って互いを認めて……」


そんなことにはならなかった。


黒髪の方が、金髪を線路に突き落としたのである。


「きゃあ!」

「おい!」


電車が近づいてくる音がする。純は咄嗟に、走り出した。


「大丈夫か?!」


線路に降りて、純は金髪に声をかける。頭打ったりはしていないようだ。

ホームから、玲子が手を伸ばしてくれた。他の客も手伝ってくれて、二人はなんとかホームに上がった。


駅が騒がしい。後のことは駅員さんに任せることにして、学校サボる口実になるだろうかと純は考えていた。


「びっくりしちゃった……」


玲子がつぶやいた。純を見て、少し顔を赤らめながら言う。


「ふふ、でもかっこよかったよ」


純は嬉しいような恥ずかしいような気持がして、誤魔化すように目を逸らした。




―――そんな二人を、遠くからニヤニヤしながら見つめる二人組がいる。そしてまたその後ろにも、二人組を見つめる二人が……。

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推し活駅 ガブロサンド @gaburo

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