第十一赦喪事 犠牲
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辺りはすっかり真っ暗になった。元々薄暗く不気味な世界だが、この世界にも日没があるのか、今の時間帯はさらに暗く不気味だ。現実世界で言えば、18時を過ぎた頃だ。
山口「何にも見えないや…、灯りをつけてと…」
三村「待て‼︎」
山口が懐中電灯をつけた瞬間、三村が凄まじい勢いでそれを取り上げて灯りを消した。
山口「うわぁ‼︎ 先生、なにするんですか⁉︎」
三村「灯りをつければ、我々の位置をヤツらに知らせることになる! 暗闇に目を慣らしながら慎重に進むんだ」
山口「そうですね…、すみません…」
山口はしょんぼりしていたが、三村の言う通りだ。
俺たちは暗闇の中、壁伝いに足元を確認しながら慎重に前へ前へと進んだ。最初は本当に真っ暗で何も見えなかったが、少しずつ目が慣れてきてだんだんうっすらと見えるようになってきた。
山口「うわぁっ…‼︎」
雅「もぉ…、今度は何⁉︎」
最後尾を歩いていた山口が足元にあった小さな箱に気づかずにつまづいた。
山口「いたたたた…、すみません。何か迷惑かけてばっかりで…」
雅「いい加減にしてよ…‼︎ ヤツらに見つかったらどうすんのよ…‼︎」
山口・雅「………‼︎」
山口と雅が後ろを向いて何かに怯えている。気になって二人が見ている方へ目をやると、オバさん風のしゃもじ人間たちがいるではないか⁉︎
最悪だ…、ヤツらに見つかってしまった。
「あんたらァァァァァ…‼︎ そこにおったんかいナァァァァァ…‼︎」
「さっき光が見えたんで路地に入って、音がする方へ来たら…、案の定ここにいたザマァーすねェェ‼︎」
「そろそろ観念セイヤァァァァ‼︎」
真っ暗な路地におどろおどろしい白い文字、ヤツらの発する言葉が浮かび上がる。真っ暗な空間に白い文字だと、昼間見る黒い文字よりもさらに不気味で恐怖を感じる。
山口「うわあああぁぁぁ…‼︎」
雅「山口っ‼︎ あんたのせいだからね‼︎」
はるか「ケンカしている場合じゃないよ、早く逃げよう‼︎」
俺たちは真っ暗な路地をがむしゃらに走り、途中にあるゴミ箱を蹴り飛ばしたりしてヤツらを妨害しながら逃げる。
路地をジグザグに走りながら駆け抜け、商店街の通りに出ると、しゃもじ人間たちが後ろから追いかけてきていた。
反対の出入り口にはヤツらはいないようだったので、俺たちはそこへ向かって全力で走った。だが、走っている途中、山口がバテて立ち止まってしまう。
山口「ハァ、ハァ、もう走れません…」
清水「山口‼︎ もう少しで商店街を抜けられるんだぞ‼︎」
雅「本当に見ててイライラする男だね‼︎ 少しは頑張りなさいよ‼︎」
はるか「山口くん、あきらめないで‼︎」
三村「山口っ‼︎ 先生の腕につかまれ‼︎」
山口「あ…、はいっ…‼︎」
山口は三村の頑丈な腕につかまり、ゆっくりと走り出した。俺たちもまた走り出した。しかし…、
山口「ああっ…‼︎」
山口が足をつまづかせ、転んでしまった。しゃもじ人間たちがどんどんと押し寄せて来る。
「よっしゃぁぁぁ‼︎ まずは、あのメガネのガキからやァァァァァァー‼︎」
山口「早く行ってください…、僕はもうダメなんです…」
三村「ここまで来て何を言っている⁉︎」
次の瞬間、しゃもじ人間たちが一斉に山口に向かって飛びかかった。
「しゃもぉぉぉッッッ、ホォォォッッッ‼︎」
三村「山口ーーー‼︎」
三村が山口を庇ってヤツらの前に立ち塞がり、ヤツらは一斉に三村にのしかかった。三村はヤツらにもみくちゃにされる。
三村「お前たち、早く行けぇー‼︎」
はるか「で、でも…⁉︎」
三村「いいから、早く行けぇー‼︎ 先生も後で追いつく‼︎」
俺たちはコクリと深くうなづいた。
三村「それから、このラジオも持っていけ…、何かの役に立つかもしれん…‼︎」
俺は三村が投げたラジオを受け取った。
優一郎「先生、後でまた会おう…‼︎」
そう言うと三村はニヤリと笑い、のしかかっていたヤツらを勢いよく蹴り飛ばして起き上がった。
三村「さぁ来い…、化け物‼︎ 何人でも相手になってやる‼︎」
だが、さっき戦った時もヤツらには足止め程度にしかならなかった。いくら三村でも、一人でヤツらを相手にし続けていたら…。
そう思い、俺とはるかは心配になって三村の後ろ姿を見つめていた。
清水「行こう…、先生なら大丈夫だ‼︎ きっと戻って来る‼︎」
はるか「そうね…、先生がくれたチャンスを無駄にしてはいけない‼︎」
雅「山口…、先生はあんたのために一人で頑張ってるんだからね‼︎」
山口「すみません…、先生…‼︎」
優一郎「そうじゃない、俺たちのためさ‼︎ 早く逃げよう‼︎」
俺たちは申し訳ない気持ちになりながらも、商店街をあとにした。
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