第九赦喪事 一生

第九赦喪事だいきゅうしゃもじ 一生いっしょう


 俺たちの目の前に現れた一人の人間の男…。


 彼の名は「三村剛みむらつよし」。35歳、宮高の体育教師で剣道部の顧問。がっしりとした体格のよい、絵に描いたような熱血漢だ。

 体育の授業や部活動においては古風な熱血的スパルタ指導をすることで評判だが、根は正義感の強い温厚な紳士であり生徒たちから慕われている。


 さらに空手三段・柔道三段・合気道三段・剣道三段と日本武術のスペシャリストで、特に顧問をやっている剣道に関しては高校時代に全国大会でベスト3に入るほどの腕前で、業界に一躍その名を馳せたこともある。彼が来たからにはもう安心だ。


三村「お前たち、ケガはないか?」


 三村がこちらへ近づく。


「あそこにも人間ガいたかァァァァァァ………? 人間は誰一人として逃がさンッッッッッ! きぃーーーエエエエェェェいぃぃぃっ…!」


 複数のしゃもじ人間たちが三村に向かって襲いかかる。


三村「メンッ! ツキッ! ドォォォォォ!」


 三村は手に持っていた竹刀で襲いくるしゃもじ人間たちを一網打尽にした。


「やりやがったなァァァァァァァ!」


 また複数のしゃもじ人間が三村に襲いかかった。


三村「せいっ! とぉっ! ドォリャぁぁぁ!」


 三村の正拳突きや回し蹴りでしゃもじ人間たちが吹っ飛び、最後に残ったしゃもじ人間の一人を、三村は一本背負いで投げ飛ばした。

 さすがは、三村だ。強い。しゃもじ人間たちは大方片付いた様子だったので、俺たちは一安心して三村の元へと駆け寄った。


全員「先生っ!」


三村「よかった。お前たちが無事で何よりだ」


 三村は軽く自己紹介をし、俺とはるかも他の三人の紹介と今までの経緯を簡単に説明した。やはり三村も、俺たちと同じような状況でこの世界に迷い込んだらしい。

 学校に出勤したら教師が全員しゃもじ人間と化しており、ヤツらを振り撒きながら逃げて病院の付近で身を隠していたら俺のたちの声が聞こえたので、ここに駆けつけてきたそうだ。


 一通り説明が終わると、三村が突然眉をしかめた。


三村「待て…! どうやらまだのようだ…」


 嫌な予感がしたので後ろを振り向いた。


「ばぁぁぁかガァ…! 人間ごときに倒されるモンかァァァァァァ………!」


 しゃもじ人間たちがゆっくりと起き上がる。


山口「ああぁぁぁ…、ダメだぁぁぁ…! やっぱり僕たちは逃げられないんだぁぁぁ…!」


雅「いちいちうるさいっ、山口っ! だったら逃げればいいだけじゃん!」


はるか「山口君! アイツらに捕まってもいいの!? 私は絶対に嫌だから!」


 山口がまた泣き喚き出したので、はるかと雅は厳しく諭した。


 しゃもじ人間たちはまた、カタカタと小刻みに震えながら両手を上げ、一斉に襲いかかってきた。くそっ、三村ほどの腕の立つ男の攻撃を食らっても足止め程度にしかならないんじゃ、もうヤツらからは逃げるしかないじゃないか。



 俺たちは病院の駐車場へと逃げた。どこかに車はないだろうか…。


清水「あっ…!? あそこに一台救急車が…!」


 清水が救急車を発見した。ここが現実世界ならいけないが、状況が状況、それに今この世界にいる人間は俺たちだけだ。悩んでいる余裕はなかった。


三村「先生が運転をする! お前たちは後部座席へ乗れ!」


 三村は運転席へ乗り、俺たちは急いで後部座席へと乗り込んだ。全員乗ったことを確認すると、三村は救急車を走らせた。


 後ろからしゃもじ人間たちが追いかけてくるのを見ながら、俺たちは病院をあとにし、一安心してため息をついた。



優一郎「ところで先生…、この後どうする? 俺、疲れてなんだか少しお腹が空いてきたな…」


はるか「私もちょっと…」


雅「あたしも朝から食べてない…」


清水「そう言えば俺もそうだ…、ずっと逃げっぱなしだったからな…」


山口「僕は大丈夫ですが、みなさんに合わせます」


三村「それなら商店街へ向かおう。あそこなら、何かあるかもしれない。まずは、食料と物資の調達、それから情報の入手だ」


 満場一致で俺たちは商店街へ向かうことにした。


三村「あれっ…!? 使えない…!?」


 三村がカーナビをつけようとしたが使えない。スマホの地図アプリを使おうとしたが、しゃもじ人間から逃げることに夢中でスマホを家に置いてきてしまった。


清水「ダメだ、電源がつかない…」


山口「僕もです」


はるか「私も」


雅「あたしも」


 他の四人がスマホの電源をつけようとしたがつかないらしい。三村も俺と同じくスマホを家に忘れたそうだ。


三村「しょうがない…、商店街で充電器でも手に入れよう」


 とりあえず、今は商店街へ行こう。三村の言う通り、商店街へ行けば何かあるかもしれない。俺たちは街の様子を伺いながら、商店街へ向かった。


 辺りがだんだんと暗くなる。現実世界の時間で言うと17時を過ぎた頃だろう。


 空は薄暗い青色になり、ホラー映画の霊界のような不気味な雰囲気を、世界全体が醸し出していくのを肌で感じた。

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