第八赦喪事 追跡

第八赦喪事だいはちしゃもじ 追跡ついせき


雅「気をつけてね。あたしたちがここに隠れる時、ヤツらが何人か上の方へ上がっていくのを見たよ」


 スタッフルームのドアを静かに開けて、外の様子をじっくりと見ながらそーっと出た。


清水「病院の中にもヤツらがいるなら、病院を出た方がよさそうだな」


はるか「そうね、清水君。ここにずっといるのも危ないわ」


山口「でも、出る途中にヤツらに見つかったらどうするんですか? それにもしも、ヤツらに捕まったら…」


雅「どの道ヤツらに囲まれてることには変わりないじゃん! 男なんだからしっかりしなよ!」


 雅は弱気な山口を少し厳しく諭した。


 ゆっくりと歩きながら階段の方へ向かった。外の様子が気になったのでふと窓の外を見た。


 しゃもじ人間が大勢、入り口の前に立っている。何やら会話をしているようなので、黒い文字を目で追ってヤツらの会話を聞き取った。



「おい、ここかァ…?」


「あァ、間違いない…。人間の男が二人、ここへ入っていくのを見タ。表通りを走っているのを見かけたから、こっそり後ろをツケテいたんダ…」



 そうか…!? 「あの時」感じた気配はヤツらのものだったんだ! 俺と清水はヤツらにこっそりと、あとをつけられていたんだ! まずいぞ…、下からヤツらがやって来る!


優一郎「みんな、入り口にヤツらが大勢いる! 非常口の方から出よう!」


 俺たちが非常口へ向かおうとしたその時だった…。「ドン、ドン、ドン…」と、洋太鼓のような足音が後ろの廊下の方から、四階へ向かう階段の方から、俺たちを挟み込むように聞こえてくる…。ヤツらだ…。



「ひぃ〜〜〜っひっヒッヒッヒッヒッヒ………」



 黒いおどろおどろしい文字が背後から肩をかすめるようにして、俺たちの目の前に現れた。後ろを振り向くとヤツらが五、六人ほどいた。


「ひっひっひっひっヒィィィイーーー! 見てたぜぇ…、見せつけてくれるじゃねえかYO………」


「感動の再会のシーンが終わるまで、待ってやってたんだぜぇ…。そろそろフィナーレといこうかァァァ!」


 ラッパーや街の半グレのような服装をしたしゃもじ人間が、頭の上の黒い文字と共に身振り手振りで言葉を現しながら話しかけてきた後、カタカタと小刻みに身体を震わせて襲いかかってきた。



 俺たちは必死で非常口に向かって逃げた。しゃもじ人間の足音と両手をバタバタさせる音が病院のフロア中に響き渡る。


 非常口の階段を急いで降りて、病院の裏口へと向かいドアを開けようとするのだが開かない。ドアノブを掴んでいる手元を見てみると、「ガチャ、ガチャ」と黒い文字が現れている。まさか、裏口の鍵をかけられている?


 次の瞬間、俺たちは顔がゾッと青ざめた…。



「あっひゃっひゃっひゃっヒャーーー! 俺たちが裏口の鍵を閉めたのさァァァーーー! お前らを逃すわきゃァねえだろォ…、ボキャぁぁぁ!」



 黒い文字がジワァーっと裏口の扉に浮かびあっがてきた。ヤツらは、壁や扉があっても文字で俺たちに語りけてくる。裏口がダメなら、夜間通用口だ。



 俺たちは急いで夜間通用口へと向かったが、外からヤツらがゾロゾロと入ってきた。「ドン、ドン、ドン、ドン…」とヤツらの足音が行進のようにフロア中に響き渡る。上の方にいたヤツらも下りて来て、完全に囲まれてしまった。


 ヤツらが「ドン、ドン」と迫って来る。


山口「うわぁぁぁ! やっぱり、僕たちは助からないんだぁぁぁ!」


 山口は絶望感のあまりに叫ぶ。


雅「泣いてる暇があるなら、少しは抵抗しろよ!」


 雅はその辺にある書類や落ちているものを投げて抵抗する。はるかもそれを見て同様に抵抗する。俺と清水の二人は目を合わせて頷いた。


 お互いに覚悟を決めたという確認の意味だった。初めて会った者同士なのにも関わらず、やはり妙に気が合う。この極限状態が否応にも手を取り合おうという心理にさせるらしい。


優一郎・清水「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺と清水はヤツらに飛びかかった。しかし、ヤツらには攻撃が通じていない。ヤツらに押し返され、ヤツらが「ドン、ドン、ドン」とさらに近づいてくる。


はるか・雅「誰か助けてぇぇぇ!」


 恐怖のあまりにはるかと雅も抱き合って叫ぶ。もう絶体絶命のピンチだと思ったその時だった。


「パリィィィィィン!」


 入り口の自動ドアが割れる音がした。


 そこには、俺のよく知っている男が立っていた。

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