第七赦喪事 再会
【
俺たちは狭い裏路地をくぐり抜けながら、表の通りへ出た。大きな建物に入れば誰かいるかも知れない。俺たちは「
病院へ向かって走っている途中、誰かいるような気配がしてふっと後ろを振り返り、建物の隙間を覗いたが誰もいなかった。どうやら気のせいだったようだ。
しかし、この一瞬の判断ミスがのちに大失態を招くとは今の俺たちは想像すらしなかった。
この付近を探索していたしゃもじ人間の一人が俺たちの姿を見て、クイックイッと右手を振りながら「GO!」とサインを出した。複数のしゃもじ人間が静かに後をつけていく…。
病院の前にたどり着いた。
それにしても不気味だ。病院全体が禍々しいオーラを放ち、まるでホラー映画に出てくる幽霊の棲み家や悪魔の根城ようだ。病院の入り口の自動ドアが開かないので、仕方なく夜間通用口からドアをギイッと開けて入る。
この世界の建物はどこもかしこも、しんとしているが病院は特に静かだ。病院独特の静けさも相まってそれが更に緊張感と恐怖を感じさせる。今にも何か出てきそうな雰囲気だ。
一階、二階とフロアの探索を一通り終えた俺たちが三階の階段を上り終えた時、どこかから話し声が聞こえた。人数は三人くらいか。何やら人間がヒソヒソと寄り集まって話し合っているような声だった。
しゃもじ人間ならば声を発することはない。間違いない、俺たち以外にもこの世界に人間はいたんだ。俺は歓喜のあまり大声で清水に呼びかけた。
優一郎「清水、清水! あっちに誰か人間がいるぞ!」
清水「本当か!? よし、すぐに行こう!」
俺たちは声がする方へ向かった。声がしたのは病院のスタッフルームからだった。ドアを開けるとそこには三人の男女の高校生が座り込んでいた。三人のうちの一人は俺がよく知る人物、橋本はるかその人だった。
優一郎「はるか!? 無事だったのか!」
はるか「優一郎!? 無事だったのね!」
俺とはるかは感動の再会を果たして抱き合いそうになったが、すぐさまはるかと一緒にいた二人に静止された。
「しぃぃぃぃ…。ヤツらに見つかったらどうするんですか…!?」
眼鏡をかけた気の弱そうな、小柄の男子高校生がそう言った。
彼の名前は「
友達同士ならアニメやゲームの会話で盛り上がるが、初対面で尚且つ自分とタイプの異なる相手と会話をするのは苦手なようで、少しもじもじとしている。
「そうよ…。気持ちは分かるけど、再会のラブシーンなら後でやってほしいわ…」
と、派手な化粧に丈の短いスカートを履いたヤンキー女子が言う。
彼女の名前は「
彼氏がいるのだが、しゃもじ人間と化した家族や友達から逃げ惑い、彼氏の家へ助けを求めに行くも、既に彼氏もしゃもじ人間と化していたため、そのことがショックでちょっとした人間不信になっているようだ。
はるか「ああ…、ごめん…」
はるかが俺から少しだけ離れると、三人はゆっくりと立ち上がった。
優一郎「はるかもあの木の板で出来た、しゃもじ人間に追われてここに来たのか?」
はるか「うん。朝起きたら、世界がおかしいことになってて、家族も友達もみんなしゃもじ人間に変わってた。それで、ヤツらから逃げる途中でこの人達と出会って一旦ここへ避難して三人で今、これからどうしようかと話し合っていたところだったの。
それぞれ事情を聞いてみたら、みんな同じ状況でヤツらから逃げてきたんだって…」
優一郎「そうか…、それは大変だったな…」
それしか言葉が出てこない。テニスの練習で思うように上手くいかなかったり、卒業後の進路のことで悩む彼女をいつも慰めてあげているように、突然未知の化け物に襲われて恐怖に怯えている彼女を慰めてあげたいものだが、今は状況が状況だ。
俺自身もしゃもじ人間に追われている恐怖とこの世界から脱出する手がかりを探すことで頭の中がいっぱいで、今はそのぐらいの言葉しかかけてやれなかった。すまない。
俺たち五人はそれぞれ軽く自己紹介を済ませた。
今は一人でも人数が多い方がいい。かくして俺たち五人はこの世界から脱出するため、協力してこの世界に残った人間と手がかりを探すことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます