第六赦喪事 邂逅

第六赦喪事だいろくしゃもじ 邂逅かいこう


 あれからどれくらい時間が経ったのだろうか…? 意識はまだある…、どうやら俺はまだ生きているらしい…。


 俺はどうかあれが夢であるようにと願いながら、恐る恐る目を開けた…。うっすらとだが見える…、誰か目の前にいる…。



「気がついたか…」



 目の前のヤツが喋った。ほんの一瞬だが、そいつがしゃもじ人間に見えてしまった。



優一郎「うわぁぁぁ! しゃもじ人間だぁぁぁ!」



 俺は思わず飛び起きてその場から逃げようとしたが、すぐにそいつに取り押さえられた。


「待て! 落ち着け! 俺はヤツらじゃないっ!」


 よく見ると普通の人間だった。歳は多分俺と同じくらいの高校生、キリッとした顔立ちのイケメンだ。


優一郎「何だぁ…、驚かせるなよ…。」


 俺は安心感とやっと普通の人間に出会えた喜びで、ため息とともに少し涙が出た。


「俺の名前は清水忠義しみずただよし。お前は?」


優一郎「俺は藤之宮優一郎。あんたはどうしてここに?」


清水「さあな…。朝、目が覚めたらこの世界にいた…。いつもと同じ家で眠って、いつもと同じ家で起きたはずなのに、気づいたら俺の周りはあの変な木の板で出来た人間だらけだった…。家族も友達も彼女もみんな変わっちまってた…。」


優一郎「そうか…俺と同じだな…。」


清水「それで、人間を探しながらヤツらから逃げていたら、お前とここで偶然出会ったという訳だ。ここで出会ったのも何かの縁だ。お互い仲良くしようぜ、藤之宮。」


優一郎「ああ…そうだな、清水。」


 いつもなら人見知りであまり積極的に交流の輪を広げる俺ではないが、同じ絶望的な境遇に置かれたもの同士、俺と清水は不思議と気が合い、妙な信頼感と頼もしさを感じた。


 清水は、「東京都立杉並第三高等学校とうきょうとりつすぎなみだいさんこうとうがっこう」の高校二年生。俺と同じ歳で意外と近くに住んでいた。

 背が高く、サッカー部のエースでイケメンだ。パッと見た感じ、少しとっつきにくそうなヤツだが、根は思いやりのあるいいヤツのようだ。



優一郎「清水…、これからどうする?」


清水「そうだな…、ここにいつまでも止まっていても仕方がない。この街を探索して少しでも多くこの世界に迷い込んだ人間を集よう。それから、この世界を脱出する手がかりを探すんだ。」


裕一郎「そうしよう。ところで、俺にも彼女がいるんだがまだ見当たらないし、しゃもじ人間にもなっていないみたいなんだ。もしかしたら、俺の彼女もこの世界に迷い込んでいるかも知れない。」


清水「分かった。じゃあまずは、お前の彼女を探しに行こう。」


 俺と清水は、はるかを探すことにした。屋上から階段を一歩一歩ゆっくりと、ヤツらが近くにいないか気配を探りながら下りていく。入り口にたどり着くと、俺は右側、清水は左側について辺りを確認した。


清水「よし、今のうちだ!」


 俺たちは雑居ビルを出て表の通りを目指した。ほんの少しだが、こんな絶望的な状況下でも懸命に生きていこうと前向きに決意することができた。

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