第五赦喪事 混沌
【
走りながら街を見渡していた。やはりどこもかしこもしんとしている。まさかこの街の住人、いやこの世界の人間全てがしゃもじ人間に?
そんな不安が頭をよぎったが、この世界に自分以外人間が一人もいないと決めつけるのはまだ早い。俺は藁にもすがる思いで一縷の望みをかけ、交番へ向かうことにした。
交番に辿り着いた俺は早速、大声で警察官を呼んだ。
優一郎「すみません、お巡りさん! 助けてください! 変なヤツらに、しゃもじ人間に追いかけられているんです!」
「しゃもじ人間?」なんて説明でちゃんと相手に分かるのか? と、自分でも疑問に思ったが、今の俺にはヤツらの見た目や特徴を的確に説明できる言葉を考えている余裕もなかった。
交番の奥の方から警察官が出てくる音がした。ようやく助かったかと淡い期待を寄せたのも束の間、その期待はすぐさま恐怖に変わった。
警察官もしゃもじ人間だったのだ。
「しゃもじ人間っていうのは、こういう顔したヤツらのことカなアァァァァァァ………?」
俺はまた全速力で逃げた。
「待てェェェェェェェ! 人間ハ、逮捕ダぁぁぁぁぁぁぁ!」
警察官のヤツがしゃもじの形をした警棒を持って、追いかけてくる。
「何イィイィイィイィ? 人間ダとぅぅうぅうぅ?」
「人間だ! あそこに人間がいるぞ!」
「人間は一人残らず…、捕まえろおおおおおおおオオォォォ!」
騒ぎを聞きつけ、しゃもじ人間と化した商店街のヤツら、街のヤツらがみんな一斉に出てきて俺を追いかけてくる。ヤツらの足音がたくさん重なり合って、段々大きな音になっていく。
細い路地を見つけたので、そこへ入り込みヤツらを振り撒くことにした。
複雑に入り組んだ路地を必死に走りながら、何とかヤツらを振り撒くことに成功した俺は、近くに人気のない四階建ての雑居ビルがあったので、そこの屋上から街の様子を見てみることにした。
もう体力が限界で息が切れ切れだったが、一歩一歩ゆっくりと階段を踏み締めて屋上を目指す。
屋上へたどり着いた俺はしゃがみ込んで両手を膝につき、呼吸が整うまで少し休憩した。
呼吸が落ち着き、柵の方へ近づいて街を見下ろした俺は、目の前に広がるこの世のものとは思えない、まるで世界の終わりを見ているかのような光景に絶望した。
「人間はどこへいったアァァァァァァ!」
「こっちにはいないゾォォォォォォォ!」
「絶対に捕まえてやるゼェえぇえぇえぇエェえぇっ!」
「街中の端から端まで探し出して………………、必ず見つけだせえぇえぇえぇえぇえぇえぇエェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
ヤツらが発する言葉、頭の上に出てくる黒い文字が街中をびっしりと覆い尽くしているのだ。洋太鼓ようなヤツら足音があちこちで重なり合って、地震のように大きくなっていく。
四面楚歌とはまさにこのことなんだろうな。
俺は絶望のあまり頭をふさぎ込んで床に膝をつき、その場に倒れた。もうどこにも逃げ場がない…、どうすればいい…。洋太鼓のような足音だけが耳に響きわたる。
「ドドドン、ドドドン、ドドドン、ドドドン、ドドドン…」
俺は気を失った。
気を失う寸前、誰かが来たような気がしたが、もうそんなことはどうでもいい…。
夢なら早く覚めてくれ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます