第四赦喪事 転界
【
急いで家を飛び出した俺は、すぐに学校へと向かった。全速力で力いっぱい走った。帰宅部で普段、運動不足なせいか息が切れ切れだったが、しゃもじ人間に捕まったら殺される! そんな恐怖から休まずに走り続けた。
普通は危ないヤツに襲われたら警察に通報するか交番へ行くものだが、学生の本能というヤツか、何か困ったことがあったらまず学校へ相談する、とりあえず学校に向かえば何とかなるだろう、そんな考えが頭の中をよぎり、警察に通報とか考える余裕もなく学校へと無我夢中で走った。
必死に走り続けた結果、なんとかしゃもじ人間を振り切って学校へと辿り着いた。
優一郎「はぁ、はぁ、ここまで来ればひとまず大丈夫だろう…」
俺はゼエゼエと息を激しく切らしながらゆっくりと歩いて教室へ向かうことにした。
俺の通っている高校は「
偏差値は中の上といったところで、東大や京大へ進学希望の生徒が集まる特進クラスもある。彼女は特進クラスの東大志望、俺は普通科の文系クラスだ。ここまで格差がありながらも、彼女は俺の何を気に入ったのだろうか改めて不思議に思う。
俺のクラスである、二年四組の教室の前へと着いた。
この学校の中も雰囲気はしんとしている。まるで人間の気配が無くなったかのように。いつもなら登校中の生徒たち、朝練終わりの運動部員たち、スクールカースト上位のヤツらがワイワイガヤガヤ騒いだりして、賑やかなはずだ。
俺は段々と嫌な予感がしてきた。まさかこの学校の人間も、みんなしゃもじ人間になってしまったのではないのかと。
俺はそーっと、教室の中を背伸びしながら遠目でのぞいた。半透明の窓ガラスでうっすらとしか見えないが、教室の中に担任の「
しばらく様子を見ていたがみんな微動だにしない。まるで俺だけ授業に遅刻して、みんなを待たせているかのような雰囲気だ。
少し嫌な予感がしつつも、中の様子が気になる好奇心が勝った俺は教室のドアを開けたが、嫌な予感は見事的中し、俺は背筋が凍りついた。
担任の織田もクラスのみんなもしゃもじ人間になっていたのだ。ドアを開けた瞬間に全員が俺の方を向いた。
「ガタガタガタガタ…!」
席に着いていたヤツは全員立ち上がった。
優一郎「はっ…?」
「カタカタカタカタ…」
教室にいたヤツらは、一斉に身体を小刻みに震わせながら両手を上げた。
「人間だ! 人間がいたぞーーー!」
担任のヤツの頭の上に黒い文字が浮かんだ。
担任のヤツが「ドドドン、ドドドン」と左右に飛び跳ねながら足音を鳴らした。それを合図にして、一斉に生徒のヤツらが襲いかかってきた。
俺は必死で逃げた。ヤツらもさっきと同様、手足をバタバタさせて「ドドドン、ドドドン」と足音を鳴らして追いかけてくる。
他の教室の前を通ると、ドアが「ガラガラッ!」と勢いよく開いて他の教室からもしゃもじ人間たちが出てきて一斉に俺に向かって襲ってくる。
職員室へ逃げ込もうとドアを開けたが、職員室の教師たちも既にしゃもじ人間と化しており一斉に俺に襲いかかってきた。もはやこの学校に逃げ場はないと悟った俺は学校から逃げることにした。
優一郎「ここもダメか! 体育館裏から逃げよう!」
体育館の裏へ逃げ込んでヤツらを振り撒いた俺は、遠目で少し様子を見ながらフェンスへと恐る恐る近づいた。
ヤツらは顔の辺りに手を当てて、キョロキョロとした動作をしている。おそらく俺を見失って探しているのだろう。そのキョロキョロとした動作をする際にも「キョロ、キョロ…」と黒い文字が現れていて、妙に気持ち悪い。
今の内に逃げようと後ろを向いた瞬間だった。ヤツらの一人が偶然目の前にいたため、見つかってしまった。
「逃げられると思ってんのかヨォォォォォォォ!? おぉぉぉい! こっちに人間がいたぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
ドーンと大きな黒い文字を頭の上に浮かべ、「そいつ」は大きな足音を鳴らしながら左右に飛び跳ねていた。
皮肉にも「そいつ」の制服の着こなし方は、いつも俺にちょっかいを出してくるヤンキーの「
ヤツらが一斉に集まって来たので、俺は急いでフェンスを駆け上り学校から脱出した。
優一郎「くそっ! どこか上手く身を隠せる場所はないのか?」
逃げながらふと思った。
そう言えば彼女は無事なのだろうか? はるかのことが心配になったが、今は身の安全を確保することが最優先だ。
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