第7話―奇妙な出逢いIV―

どうして初めて会った奴とカレーを食べているんだろう。しかも家に招かれてだ。


「どーしたの?顔をまじまじ見たりして」


「いや、なんでもない」


なんでいるか?

それは…お互いに有無を言わさず譲れない善意を押しつけた結果でこうなったFQA終了。

んな奇妙な出逢いがあるか話だが、残念なことに先程それを繰り広げていた。

来る前に役目み放棄したテーブルを本来の役目に戻したのを挟みながら話をしている。

向かいにいるのは同じ思春期であるが思いのほかに男女の気まずい特有な雰囲気は起きなかった。もし向かいにいるのが容姿が優れていたら俺も下心丸出ししていたかもしれないが。

手入れをしていない髪と地味めな格好。


「んー、とてもおいしい!

もう匂いだけで只者ただものじゃないのは予想していたけど想像を超えた美味」


「そ、そうか……なら良かった」


いつ以来になるか。

誰かのために料理を振舞ってあげることは。俺が作るようになったのは姉の笑う顔が見たくて、もっと褒めてもらいたくて図書館で本を調べたりテレビなどのレシピを見たりして研鑽を重ねていた。

それも……思い出の中になっていたのも。


「あれ、照れている?

トトトッ!?どうして泣いているの。なにか傷ついてしまった。その、ごめんなさい。

私こうした感情の機微とかさ苦手で雑だから知らず知らずに……」


活力的だったのが花がしおれるようにシュンとなり須津結真は眉をひそめた。

性質的には何を落ち込んでいるのかと揶揄からかわれたりされると思っていたが逆の反応をするとは。


「ハアっ?違うしぃ!泣いてなんかいないし。

それと失礼なこと言っていないから傷ついていない。それにだ!照れていないからなぁ」


すると須津結真はニヤニヤとした顔で――そうことにしてやるよ、と楽しげに言ったのだ。

こうして意図を汲んだと滲み出ていて恩着せがましい気がしてイラッとした。

しかし誰かと食事をすることが、心に静かに響くものがある。それでいて熱くなるものある。

こみ上がってくるものは目頭にも伝わっていき勝手に流れたんだろう。

こんな現象か自然なことを虚構ではなく実体験させられる日が訪れようとは思いもしなかった。


「「…………」」


しばらくして会話は途切れてしまった。しかし気まずさとか重たいとは感じなかった。

どちらかといえば穏やかな風が肌に触れるような心地にさせられる心地よさだった。

こんなことは、あまりなかった。沈黙でいられるのは苦手で嫌いだからだ。何故なのかと今までを想起してみて結論するのは、気づくから……自分が一人でいることに真実を。

学校や外でも遊ぶ相手は困ることはいなくても心から許せる仲は少なかった。

友達の定義は分からなくなった。どこか格付けして接したり、さぐり合うようにした損得、それと一言で話が合うといっただけで近づくコミニュケーション。


(そうか。俺は泣いていたのは……本音ほんねを言い合える人が欲しかったのか)


そんなこと求めていたことさえ今になって気づくほど見ようともしなかった。愚鈍だ。

また涙が流れはいないかと思い須津結真が目が当分は離れると判断して袖でさりげなく拭いた。


「ねぇ。それで貴方が通っている学校は蒼波そうは高校よね」


「どうして知っているんだ」


「制服しているから」


なんだよ貴方って。急に敬語を使われてビビったよ。本当なら通っているかなんて聞かなくても知っているならわざわざ聞かなくてもいいだろうに……いや、なにか考えがあるんだろう。

尋ねようかと思ったが脱線するのがオチだろうから、やめておくとして別の話でもするか。


「もしかして、お前も同じなのか……

同じ蒼波高校の?」


「当たり!そう、何を隠そう私も同じく蒼波高校に通っているのよ。びっくりしたでしょう」


まるでクイズに正解したような軽快な返しだった。わずかに目は泳いでいた。


「ああ素直に驚いたな。

それで、疑問なんだが下手な探り合いはやめて単刀直入に尋ねさせてもらうが、須津結真もしかして引きこもりなのか」


本来からデリケートに慎重になって尋ねるものではあるが須津結真に直接にこうして聞くのが一番だと感じたからの選択。


「やだな。どうしてそう思ったのかな」


ややぎこちなさの笑み。


「ランニングしていただろう。

学校の部活のほとんどは民間で委託して指導している時代とはいえ、わざわざ帰宅してランニングする殊勝な生徒がいるとは思えない。

ならグラウンドなり体育の授業でやればいい」


まるで疑問や謎を次々と埋めていく作業しているようだ。探偵ドラマの影響かもしれないが、リアルで淡々とやるのは思った以上に恥ずかしいものだった。


「ふーん。でも違うかもしれないよ」


やれやれと降参するように両手を挙げてみせた須津結真。なかなか小洒落こじゃれた反応をするものだと一種の感心をする。

ここで苦しくなった相手の反論をくつがして決定打を与えるものだけど、それは敵と味方に分かれていた対峙する場合での話だ。


「ああ、須津結真そう本人の口から言うんだから本当なんだろうな。

でも悩みを聞いてくれる相手も必要じゃないのかな。少しは楽になるはずだ」


追い詰めて自白されることは必要はない。

容易に踏み込むべきではないデリケートな件に、根拠もなく解決しようとする自己満足を持ち合わせてはいないからだ。


「――でも、そんなこと突然そんな優しく言っても突き放すんでしょう!」


「助言めいたこと言うかもしれないが突き放すなんてことはしない。まあ、そんなこと急に言っても困るよな。

忘れてくれ、それじゃあ俺はそろそろ…お暇させてもらうから」


ゆっくりしていたせいで午後十時にと回っていた。いくら門限がないからといっても高校生なら帰宅しないと問題になりそうな時間だろう。

腰を上げてカバンを手にしようとすると――


「まさか当てるなんてね……そうだよ。

私は不登校者」


自虐的めいた声で言ったのだ。カバンを手にしようとして伸ばした手を引っ込めて椅子を引いて席に戻る。

呟くほどの小さな声だった。


「「………」」


それと吐露したのを戻せないことに後悔しているのか須津結真は顔を伏せたまま黙っていた。少なくとも聞いてほしいから吐き出したのだろう。なら勝手に帰る訳には

いかなそうだ。


「ちょっと…イジメがあってね……

それで不登校の経緯いきさつです」


弱々しい声だった。


「……そうか」


あれだけ明るくて騒がしかった奴がこうして沈んだ表情になる。それほど傷つき安易にそれを聞いても解決しない。

なら深く聞かないし語った範囲まで話さないことにしようと決めた。が聞いて思い浮かぶ気の利いたものが出てこない。


「ねぇ、どうして見知らぬ人にそこまで優しくなれらの貴方は?」


上目遣いになって尋ねてきた。


「……あのなあ。どこが俺が優しいと思ったんだよ。視野が狭すぎじゃねえのか」


「はぁ!?私の視野は千里眼レベルですぅぅ」


まるで小さな子供じゃないか。


「また、ふざけたことを。

貴方じゃない!俺は九戸政実くのへまさざねという名前があるんだ」


「へぇ、そう。だったら私のことフルネームで呼ばないでもらいたいものだね」


「そうかよ分かったよ須津ぉぉぉ!!」


「叫ぶ意味あるのッ!?」


俺と須津結真の出逢いは最悪なものだった。

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