第2話―リア充はカラスと踊る―

須藤に馳走させてやってから、ついでに明日の分もと作ってやることにした。

その後もくだらない談笑で数時間と暮らしていた。

俺は奴の家を後にしようとカバンを持ちリビングを出ようとソファーから床に降りた瞬間に須藤は眉を下げた。


「えっ、もう帰るの?」


「……おいおい、もうこんな時間の間違いの間違いじゃないのか?

なんだって、もう外は夜になっているしな」


あまり時刻を見ていなかったので確認してみれば長居をしていたことに遅まきながら気づく。

時間を忘れるほどの会話。

それに楽しいと感じるなんて時間を気にして壁の時計を見れば午後九時と過ぎている。


「ふーん。なら玄関まで送ってやるわ」


「本当かっ!?まさか見送ってもらえるのか」


玄関さえも見送ってくれないと思って一言。

それだけの言葉を残して出ていこうとしたつもりだったが見送るため来てくれるとは。

でも外は真っ暗で引きこもりな彼女には厳しいのではないのだろうか。


「とことん失礼な人種だな。

明日の分まで作ってくれて、これぐらいはするの普通は……。

あっ!もちろん受けた施しは後で返すので。私がいつか偉くなったらね」


頬を掻きながら照れくさそうにして補足をするようにして言った。どこで補足する必要があったんだと思う。

その頬をよくよく見れば薄く赤くなっていた。


「ああ、そうだよな。でも須藤。

それ偉くなる前提かよスゲーなぁ。

自信の限界なしかよ」


そう茶化しながら俺は、軽はずみな言動で返して見せた。こうすることが何かの変化へと向かおうとするのを軌道修正。ムードメーカーな様になっていて上手く演じているはずだ。

演じたのは、そんな小さなお礼をされて嬉しいかったなんて顔には出したくはなかった。

ドアを開けて、そのまま廊下に出て歩く。

上がりかまちに腰を下ろして靴を履きはじめる。

いつもなら雑に履いているのだが、ここを少しでもいたいと無意識の思いから行動している。

居たいだけで勝手にこんな行動しているのか。


「バイバイ。まあ、でも帰ってもラインとかあるしオンラインゲームすればいいよね。

離れても心は常にオンラインにあり」


「フォースかよ。ああ、さようならだ。

また気が向いたら来てやるよ」


こんなセリフをいきなり言うのは最近スターウォーズでも観たんだろうか?

俺が生まれた時には上映されていて中学には完結した作品。

SFなんてあまり関心なかったのだが無性に視聴したくなった。

あとで動画サービスでも観て知識を披露して驚かせてやろうか。

あと俺はラインは教えてもいないしオンラインゲームなんて遊んだことなんて過去形。

そもそもゲームといえばソーシャルゲームの一本だけでオンラインを遊ぶ金銭的な余裕がない。


「そう気障きざに言いながらも明日だって来てしまう九戸政実くのへまさざねであった。フッフフ」


クスクスとムダに上品と笑ってきやがった。

それが嘲笑やイタズラの類ではなく親しみ向けられたもので――


「なら来ない!」


へそを曲げて家を後にした。

こんなことを言い放ってしまったけど単に素直なれない言葉。

どうせまた明日にも行くだろう。

夜は慣れている。

なかなか眠りにつけない時分じぶんがフッとした感があって、そのときには夜道の外を出る。

目的もなく、夜風を当てに。けど自分の家を出て徘徊するのと須津すどの家を後にするのとはではないかが違う。

そう違うのは――


「賑やかな場から離れると寂しくなる。

こんな当たり前な感傷みたいなの……

はは。まだ残っていたのか」


子供のときにあって成長して、いつの間にか消えていた感情。

そう忘れて消えたものと思っていたが違うようだ。


(これはアレだ。

孤独で夜風を浴びにいくのは限られた空間の家より果てしなく広がる空間がこの寂しさを紛らしていたんだ)


きっと、こんな考え方をしているのは世界で俺ぐらいだろう。

環境や経験から人格が構築したことで味わう感情。

誰かといる共有めいた思考は一向に進まないが一人となればはかどる。

それで新しいこと発見して自分を見直したりして小さく人格が変わっていく。

また他にも不可視な感情を探る。

須津とした他愛のない話が、これだけの時間を費やしたかと。

確信の域ではない。

きっと俺は、本音ほんねを語れる相手が欲しかったのだ。

機嫌を損ねたり学校生活に支障をきたすような危険性に怯えたり信用していいか半信半疑を抱けない。

そんな気が置けない相手が欲しかったことに。

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