プレジュディスそのリア充はリア充じゃない

立花戦

第1話―リア充は引き籠もり少女とカレー食べる―

高校生になっても一人の時間はさびしい。

起きては寝るといった生活の絶対のライフサイクルにはれ塞がる心をはずむ事があるわけがない。

いつも孤独と寂寥感だけで生きてきた。

心を離れずみ広がる負の情動。

この負は隣り合わせで生活の大半を収めるほどに侵食されていた衣。

まるで洋服のように、その不気味な衣を脱しようと試みて抗ってみせたが自分の意思では脱げれない。

必死に挑んだり逃げたりしたが離れることは無い。

人物なら物理的な距離で会わない。

でも負の感情からは距離という概念的なものをもたず襲う。

次第に抗うこと諦めて受け入れた。

人を頼ることも捨てた。

だけど、捨てたはずの希望。

その負だけであふれるくさりを破ってくれた救世主な存在が目の前にいた。


「うんま!

マジで上手いし美味いんだけどコレェェは。

こんなカレー初めてなんですけど」


「……」


「これは赤道面での自転がどう角度で調整しようと抗って合わせようとするような。

そのため推力を少なく上昇しようとするロケットのそんな努力の結晶……そんな美味しいしさがある」


スプーンの手を止めずに口を運ぶのは部屋着のネズミ色のスウェットした女の子だ。

花の女子高校生、と世間での大人はそう称されるはずの年頃の女の子はボブヘアーを長く放置のボサボサであった。

お世辞でも花の女子高校生と言いがたい。


「うんま、うんま」


独特な味の評価はあったが、とりあえず舌鼓したつづみを打っていることだけは分かった。


「うまい!まじでウマい」


このボキャブラリーを捨てた奴の名前は須津すど結真ゆま


「うめぇー」


俺の同級生であり今は気の置けない存在だ。

テーブルを挟んでカレーを食べている須藤の顔を何時までも豊かな表情をまじまじ見続けるのは失礼にあたるだろう。

そろそろ手を動かして食べ終えて皿を洗わないとならない。


(このあと須藤の家を出てから帰宅するまでの時間はプライベートの時間は確実に減る。

時間が少なくなるのはやむを得ないとしても料理や掃除までするメリットはない)


「んっ!?み、水」


いや、須津家から冷蔵庫の食材らを拝借しているから食費の負担は無い。

これはメリットないのは適切じゃない気がする。


(ウィンウィンな関係?

でも食費の負担は一日だけならともかく、週に何回もなら俺の分も追加で余計な負担にならないか?)


「さあーて。間、髪と容れずに再開としますか。またパクパク食べるぞ」


うーん、ご相伴しょうばんにあずかる……いやいや俺が夕食を作ったんだ。

これは持ちつ持たれつの関係として成り立っているはずだ。

まあそのへんを後で細かい食費などを調べればいいか。もし負担が大きいなら折半するか俺がたまに食材も払って作るとしよう。


(いくらなんでも料理を作ってやってるんだから食材の費用は全額負担なんた横暴で品性下劣なことまでは落ちたくないし。

うん、そう。これは対等な立場としての判断)


「これが料理だけ、、、、取り柄だけリア充のカレーとは思えないね。おかわりしよう。

知っているかいカレーの代表的なスパイスに含まれるターメリックの和名はウコン。

その栄養は肝機能の強くさせるばかりか抗酸化作用もあって美容にもいいとされる。

これぐらいなら私は知っていたさぁ」


なるほどターメリックの和名はウコンなのか初耳だったなあ。

……そんなことよりも須津の奴はスルーされてもメゲていないようだ。

うるさくて、まともに考えに浸かることも出来ない。


「お前なぁ、もう少し女の子らしく食べれねぇのかよ……まあいいけどよ。

カレーは多めに作っておいたんだ。だから空腹の動物みたいな食べ方するなよ」


頬杖をついて指摘してみせる。

この須津結真という女の子は、スウェットや無造作な髪を整えばそれなりに容姿が整う。

それなりだが。

つややかな黒髪のボブきめ細やかな肌。

……磨こうすれば一応は美少女の部類にと入るとは思うが本人があまり容姿を磨こうとしないため陰キャのイメージが強い。

陰キャ――陰気なキャラクター、または社会性に乏しいとも指すこともある。

スプーンですくったカレーを食べると自画自賛になるが相変わらずの美味だ。


「空腹じゃないし、私はこうして三大欲求の一つの食欲。その欲求に従って今に至るのよ。ハァー、これだからリア充は!」


「はいはい、知っている。俺はリア充だよ」


「ねぇ、テキトーにあしらって無い?

クノヘのくせに偉そうだぞ」


「それでも無視しないだけでも感謝するんだなぁ。

それと誰のために作ったと思ってやがるんだよ。まったく……ハァー、疲れる」


冗談なのかねたんでいるのか判断できない。分からないが妙にリア充というワードに噛み付いてくる。

須藤が語っていたがリアルな充実とした生活を過ごせていると定義であるらしい。

そもそも自分のことをリア充なんて思ったことがないのだ。

須津いわくスクールカースト上位とか叫んで距離をあるように扱って見下すと主張してくる。

たしか前にこう言われた――その位置にいる、高校一年生の中心的な人物の九戸政実くのへまさざね

――そんな風に言われた時は、何を言っているんだと感じたが話をしているうちに隔絶としたものがあることは理解した。

けど、隔絶はともかく隔たりはあるのは確かに薄々とは感じていた。


「ふふっ、リア充っていうのは無駄にエネルギーある種族だからね。

それよりも今更な疑問なんだけど、なにゆえカレーに豆とかキノコがあるの」


銀のスプーンですくったカレーをチラッと見たあと訝しげな顔で尋ねてきた。


「カレーはなぁ……味噌汁と同じだからだ」


「はぁ?」


「分からねぇのか。カレーというのは自由度が非常に高くて奥深い料理なんだよ!」


「そうなんだ……。えーと、あの、じゃあ

普通は、お肉とかじゃがいもとニンジンでしょう?」


「これだから料理したことない素人は。

いいか!カレーの具には、なにもレシピだけで食材を放り込めいいわけじゃない。

レシピだけが一つの正解にあらず他の可能性を秘められたレシピがある。

規定的なだけじゃなく意外な食材もイけるのがカレーの可能性でレシピは絶対ではないんだ」


「ふーん、そういうものなのね」


もう興味が失ったのか。

途端とたんに雑な返事しやがった。

会話は途切れ、俺たちは黙々とカレーとサラダを食べることにした。

あんだけ騒いでおきながら急な静寂が降りると俺の心はそわそわとしていた。

足がつかない気分にさせられるのは、もう1つ。ここの空間が俺の部屋ではないこと。

リビングで部屋着する須津の部屋、それも二人きりで。男女としての距離感などによる緊張なんか考えたことも無い。

とあれ沈黙したままというのは気分が悪い。


「よしカレーのレシピでも話すか」


「えぇー、またぁぁ。なに急に?」


迷惑そうにして須津は顔をしかめた。

もしコイツが野郎だったら一発ぶん殴っていたと思う。気を取り直して続ける。


「春キャベツとタケノコ。それと新たまねぎ、そら豆を切る。それと、肉を代用としてウインナーと

さやエンドウも野菜を切る」


「シン玉ねぎ。シン付くとカッコイイ映画になりそうだよね」


「お前はいったい何をいっているんだ?」


先程に言った野菜とウインナーをフライパンで炒める。その後、鍋を取り出してコンロの上に置く。どうして分けるかはステンレス製の鍋だと熱伝導率ねつでんどうりつが低いことでげてしまうからだ。

なので炒めたあとは鍋に移して水量の水を加える。

と、俺は人差し指を立てながらグルグルと回しながら説明をしてやった。

すると須津は座りながらも器用な前傾の姿勢をして挙手するのだった。

好奇心のオンとオフで反応がまったく違う。


「ねぇ、説明するよりも変なの入っているんだけど?これってキャベツのしんらしきもの。

あるのだけど?」


「ああ、正真正銘キャベツの芯だな。

ラッキーだったなぁ。それは栄養が豊富だぞ」


そう快活に言ってやると目の前に座る女の子は肩を震え出していた。

次の瞬間に、両手を卓上に強く叩きつけた勢いで立ち上がると食べ終えたサラダの端に置いたフォークを向けてきた。うぉ!?危ないだろうが。


「ふざけないでよ。

なにその普通にキャベツの芯も入れているのよ!もしアンタがそれを口にするとして不調なんか起きて崩したらどうするつもりだったのよ」


そこで自分の心配じゃなく俺を心配するのかよ。まったく素なのか狙っているのか揶揄からかっているだけなのか理解できん。

いや、違うな。

そもそもコイツは人をイタズラすることに嬉々としてやる偏屈者レベルだった。


「……いいかキャベツの芯は食べて大丈夫だよ。

よく誤解されるけど硬い。これは毒はないから安心していい。

でもカレーなどでじっくり加熱とかしないと硬い。

煮込んでいれば柔らかくなる。それにだ!

葉の水分や栄養成分が芯に送られるんだ」


料理レシピで散々キャベツの芯を捨てるなど目にする度に俺はちょっと悲しい気持ちにさせられた。言い終えてから何故か今になって思い出す。

葉よりもキャベツの芯が栄養が含まれる。


「ふぇー、初耳だな。そんなこと知らずに私アンタに怒鳴ってしまった。めんご」


「かるっ!?それとだな芯とは言っているがあそこはキャベツのくき


「マジか!?」


ハトが豆鉄砲を食ったような顔をする須津。

仰け反らせるほどおどろき間抜けな顔した須津に俺は心の底から抱腹絶倒させられたのだった。

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