第3話―リア充はカラスと踊るⅡ―

それは俺が須津すどと出逢った日までさかのぼる――

まだ右も左も分からない教室。

とりあえず友達作りからと躍起になっていた周囲からの熱気に辟易していた高校入学したばかりの頃。

冷めきったまま孤独と静寂を抱えていた。

自力では抜けられない。それは教室に漂う熱気も同じく、今後の生活を安定するため熱気ものあるように装う。

それを見計らうようにして動き出す生徒がいた。


「昨日なんか合コンに行ったけどさあ、これがクソマジメな奴しかいかくてよ」


嗚呼ああ、頭がいたい。

突拍子のない話題からの挨拶。初対面から日がそれ程に経ってもない。付き合いは浅いとはいえ詰め寄る距離感。

引きつる笑いだけはしないよう昨日の出来事を流していく。

その軽率な言動が目立っている生徒は入学して早々と友人になった二嶋悠人にしまゆうとだ。

ナチュラルな茶髪を目を覆うという髪型のアシンメトリー。何も言わずにいると一見クールそうにみえるが外見とは裏腹に内側はチャラい奴だ。


「そんでよガンバった結果。

ゲットしたのよカノジョを。とはいえまだまだガード堅いのが残念だけど」


「はは。別れたばかりなのに、もうカノジョかよ」


なんて心底どうでもいい話なのか。

だけど円滑に進めるため思ったことは口にしない。口は災いの元だって高校生にもなれば否が応でも学んでしまう。

機嫌を損ねないことだけ曖昧に対応する。

聞き手としての言葉は意味が無いように語り手も中身のない。

やれやれと嘆くべきか興味がなくても話題を尽きず聞いてもいないを続ける。


「このメカクレよりも私の話を聞いてよ」


(おいおい、チャラいからって随分ずいぶんぞんざいな。

あまりのケンカ口調な挨拶をする)


そこに間を挟んで声をかけてきたのはギャルだ。

友が相手でも気に食わない態度をすると小馬鹿にするの傾向がある。

ギャルが口にしたメカクレという言葉はどうやら若者の言葉と考える。

メカクレ……それほど意味のあるものではなく、アシンメトリーと同じで片方の目を隠すような髪型のことだ。

これまた意味もないことだが美容師での用語。

ただ用語とされるには俗語的な散文な趣のある。

よくいうアシメは、アシンメトリーの略語。


「やべえー、マヤヤが今日も怒っているチョ」


変なアダ名で呼ばれたことに対する反撃なのかユーモアなのか判別つかない悠人。

たぶん怒られても言い逃れるようにと悪知恵。


「はぁ?」


しかし凄みのある顔をするギャルことマヤヤ。



「おいおい、やめろよ。ケンカするのは」


心に呆れながら黙ったままだとよくないと感じて仲裁に入る。

俺はこの輪で中心的な人物だ。

周囲からのクラスメイトから向けられるのは畏怖か羨望または憎悪なのかを向けられる。

ハッキリ言って居心地が悪い。

いつもの様にして授業が終わる。

やっと開放されたとか喜ぶべきなのだけど、なんか何も感じない。

このあとの予定を埋めていく。まず帰ったら勉強や趣味に没頭しよう。唯一の楽しみはそれぐらいしかないから。

寄ってくる誘いを気分を大きく害しない程度に断る。おそらく精神的に叩こうとされるかもしれないけど上手に程々な距離で付き合う。

あまり居たくはないので一人で帰ることにした。

岩手県の北上市きたかみしに住んでいる。

東海道のあまり有名ではないと他県から何も無いとか暴言でバカにする愚者もいるが実際は良いところは山ほどある。

まず偉人は宮沢賢治の生まれだ。

次に歴史は平泉ひらいずみ文化が栄えている。

それにまだ、ある中尊寺ちゅうそんじなどの有名な建物が点在する観光地として楽しめるスポットだってあるのだ。

あのインチキポーロことマルコ・ポーロになるが黄金のジマングなんてそこに訪れて賞賛したのは、この金色堂こんじきどうもある。ただ、まあ一部だけを観ただけで黄金なんて思っていただけと説があるわけだが。

橋の歩行を渡っていると悲鳴が聞こえてくる。


「やだぁ。来ないでえぇぇ」


「女……の子が叫んでいる?」


ぼんやり歩いていたら空耳ではなかった。

橋の歩道側から悲鳴が聞こえた方向。

カー、カーと威嚇めいた鳴き声のカラスに襲われるランニングウェアをした小柄な女の子。

その姿に俺は、とある人物と重ねてしまう。


「……お姉ちゃんッ!?」


何故カラスが凶暴になっているのか?どうして襲われているかは謎だが助けにいかないと。

俺は全力で彼女の元へと走った。


「もうイヤァァ!いいかげん離れてよ」


「こっちだカラス野郎」


カバンを振り回して払おうとした。

最初は、これで牽制けんせいでもして離れていこうと考えたがカラスに直撃を決めた。

思いがけないことに俺は戸惑ってしまう。


(こ、これ鳥獣保護法……抵触していない?)


それ以上は来るなと警告のつもりで牽制のはずが偶然にも当たってしまう。その偶然はカラスたちにとっては明確な敵対心として捉えて同胞を攻撃されたことに怒りのボルテージを上げた。

おかげなのか不運なのか標的は完全に此方へ向けられてしまいカラスの群れはカァーカァーと叫びながら敵意を剥き出す。

今のうちなら切り抜けるかもしれない。


「あ、あの?」


「来い!今のうちに逃げるぞ!」


ただ様子見しているのか攻撃してこない。

俺は、そのまま見知らぬ女の子の手首を掴んでこの場から離れそうと全速で駆けるの出す。

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