第4話
弘毅「じゃあ、読むぞ。……『コーキさんがオススメしてくれた作品観ました。少々説明不足なのは否めませんが、それを補って余りあるキャストの演技と精緻な演出が最高でした。ラストも変に決着をつけないのも良いと思いました。星四・三です』」
静まる一同
秀人「……ん?」
弘毅「恥ずかしい」
秀人「いやいや。え? 今のは何? 何の話?」
弘毅「……実は俺、映画を紹介するアカウントがあって、そこで映画好きの人たちと面白かった映画の話とかたまにしてるんだ」
健志「何だよー」
弘毅「え?」
健志「そんなたいした秘密じゃないじゃん」
秀人「そうだよ。裏アカとか言うから、てっきりネット上で女の子とやり取りしたり、仲良くなったら実際に合ったりとかしてるんじゃないかと思ったよ」
弘毅「そんなことするわけないだろ!」
健志「確かに、弘毅はそういうタイプじゃないしな」
秀人「そういうのするのは、どっちかといえば健志の方だもんな」
健志「しねえよ。おい琴子、こいつの馬鹿な言葉に惑わされるなよ」
琴子「分かってるよ」
と、キッチンから忍と凛が入ってくる
忍の持つ皿には鶏肉が乗っている
凛「鶏焼けたよー!」
秀人「おお! すげえいい匂い!」
忍「はい、お待たせ」
忍、テーブルに皿を置く
忍「塩で味付けしてあるから、基本的にはそのまま食べられるけど、もし物足りなかったらこのソースつけて」
凛、小皿をテーブルに置く
琴子「このソースも手作り?」
忍「うん」
秀人「はあ。さすがだねえ」
桐江「しかも食べやすいように小さく切り分けてくれてる」
弘毅「じゃあ、いただきます」
一同、手を合わせて「いただきます」と言い、料理を食べ始める
桐江「うわ、これめっちゃ美味しい」
忍「本当?」
桐江「うん。これお店で出せるよ」
凛「私もさっき味見したんだけど、ほっぺた落ちるかと思っちゃった」
琴子「ねえ忍ちゃん。将来はご飯屋さん開いたら?」
忍「ええ? そんな――」
健志「いや、本当に店出せるレベルだよ、これは」
秀人「うんうん。俺たちだけが頂くなんてもったいない」
忍「うーん。(弘毅に)どう思う?」
弘毅「え? まあ、いいんじゃないか。忍がやりたいなら。俺は応援するよ」
忍「そっか……。じゃあ、ちょっと考えてみようかな」
凛「ところで、私たちが料理してる間に、誰かメールとか電話とか来た?」
桐江「来たよ」
凛「ええ! 呼んでよ!」
健志「いや、でもたいしたものは無かったんだ」
凛「そうなの?」
秀人「そうそう。弘毅の迷惑メールの後、桐江のインスタにフランス人からナンパDMが来て。その後凛の母親から電話が来て――」
健志「で、その後弘毅の裏アカが発覚したんだよ」
凛「裏アカ!?」
忍「それあれでしょ。映画の」
琴子「忍ちゃん、知ってたの?」
忍「うん。別にそれ使って浮気してるわけじゃないみたいだし、本当にただ映画好きと繋がってるだけみたいだから、別にいいかなって。弘毅はなぜか隠したがるけど」
弘毅「だって、何か恥ずかしいじゃん」
忍「悪いことしてるわけじゃないんだから、別にいいでしょ」
弘毅「そうなんだけどさ……」
忍「じゃあ、私も頂こうかな」
琴子「うん。忍ちゃんも食べて。本当に美味しいから」
琴子、忍に箸を渡す
忍「ありがと。じゃあ、いただき――」
と、スマホの着信音が鳴る
健志「びっくりした!」
忍「もう。落ち着いて食事もできない」
琴子「今度は誰?」
秀人、スマホを手に取る
秀人「俺だ。吉岡っていう高校の友達から電話。何だろ。出るぞ?」
桐江「うん」
秀人、電話をスピーカーにしてテーブルに置く
琴子「(凛に)知ってる人?」
凛「うん。たまに遊びに行ってる男友達。何回か会ったことある」
秀人「もしもし? どうした?」
吉岡の声「(必死に)よかった! 誰に電話しても繋がらなくて。お前が出てくれて助かったよ!」
秀人「何だ。どうしたんだよ?」
吉岡の声「秀人、助けてくれ! 俺、閉じ込められたんだ!」
一同、驚く
秀人「閉じ込められた? どこに?」
吉岡の声「公衆トイレの中!」
秀人「え? 公衆トイレ?」
吉岡の声「そうなんだよ!」
秀人「どういうことだ? ちゃんと説明してくれよ!」
吉岡の声「いやさ、今日学校終わって帰ろうとしたら、急にお腹が痛くなって、トイレ探したんだけど、どこも空いてなくてさ、やっとの思いで公園の公衆トイレ見つけて、これで助かったと思ったら、ドアの建て付けが悪くて開かなくなっちゃったんだよ!」
秀人「(安心して)何だよ……」
吉岡の声「何だよって何だよ!」
秀人「いや、そんなに必死に『閉じ込められたんだよ!』なんて言うから、てっきり誘拐でもされたのかと思って」
吉岡の声「何ふざけたこと言ってんだよ!」
秀人「いや別にふざけてるつもりはないんだけど」
吉岡の声「こんな無駄話してる場合じゃないんだよ! 俺には時間が無いんだよ!」
秀人「時間が無い? どういうこと?」
吉岡の声「俺、トイレが見つかって安心してさ、ウンコしながらYouTube1時間観ちゃったんだよ!」
秀人「……お前、もしかして」
吉岡の声「あと3パーしかない」
秀人「バカかお前!」
吉岡の声「だって、こんなことになるなんて思わなかったんだもん!」
秀人「そこどこだ? 迎えに行ってやるから」
吉岡の声「ありがとう! でも、俺、ここがどこか分からないんだよ!」
秀人「は? 何で?」
吉岡の声「トイレ探すのに夢中で歩き回ってたら、知らないうちに全然知らない場所に来てたんだよ! 俺今どこにいるの!?」
秀人「知らねえよ! こっちが聞いてんだよ!」
桐江「(囁くように)何か目印は?」
秀人「(囁くように)そうか。おい吉岡! 近くに何か目印になりそうなものとか無いか?」
吉岡の声「目印? そんなの……あ、そうだ! でっかいシャープがあった! でっかいシャープ!」
秀人「でっかいシャープ? 何だよそれ。もっと分かりやすいもの無いのか?」
吉岡の声「そんなこと言ったって他には何も――」
と、電話が切れる
秀人「あ、切れた」
弘毅「バッテリーが切れたんだな」
琴子「どうする? 助けに行く?」
桐江「行くってどこに?」
健志「手がかりは『でっかいシャープ』だけか。何か心当たりあるか?」
一同、首を横に振る
凛「何か方法無いのかな」
しばらく沈黙
忍「あ、あれは? スマホをGPSで探してくれる機能あるじゃん。あれを何とか上手く使えないかな?」
秀人「でもあれって、自分のスマホを探す機能じゃなかったっけ?」
健志「それに、電源が切れたスマホでも探せるのかな?」
弘毅「分かんないけど、試してみる価値はあるんじゃないかな」
琴子「私、調べてみる!」
琴子、スマホを操作する
と、琴子のスマホが鳴る
琴子「(固まる)……」
健志「琴子? 今お前のスマホ鳴ったよな?」
琴子「……え?」
健志「いや、完全に今お前のスマホから音鳴ったじゃん」
桐江「琴子。読み上げて」
琴子「……」
秀人「琴子ちゃん?」
健志「何だ? 読めないのか?」
琴子「……そういうわけじゃ――」
健志「じゃあ早く読めよ。俺に、俺達にバレてマズいことなんて無いんだろ? ほら早く」
忍「ちょっと健志」
弘毅「琴子ちゃん。本当に読みたくないなら、無理して読まなくても――」
桐江「それは駄目。ここまで全員ルールを守ってるんだから、特別扱いは無し。じゃないとフェアじゃないし、ゲームとして成立しなくなる」
弘毅「成立するかしないかなんてどうだっていいだろ」
桐江「よくない」
健志「もういいよ。貸せ!」
健志、琴子のスマホを取り上げる
琴子「あ!」
忍「ちょっと健志!」
凛「健志くん、それはさすがに……」
健志、琴子のスマホの画面を見て固まる
秀人「健志、どうしたんだ?」
健志「LINEが来てる」
桐江「誰から?」
健志「……金子……」
弘毅「金子って……」
秀人「……誰だっけ?」
健志「琴子の元カレだよ!」
秀人「ああそうだ! 思い出した!」
健志「お前、まだこいつと繋がってたのか」
琴子「たまに連絡取ってるだけ。別にやましいことは――」
健志「じゃあ何でこんなLINEが来るんだよ!」
琴子「(口をつむぐ)……」
桐江「なんて来てたの?」
健志「……『会って話したい』」
静まる一同
健志「(琴子に)お前――」
琴子「違う! 本当にたまに会って、相談を受けてるだけ! それ以外は本当に何も無い! 信じて!」
健志「(琴子を睨む)……」
と、琴子のスマホが鳴る
健志、琴子のスマホを見る
健志「(固まる)……」
琴子「……?」
健志、スマホをゆっくり琴子に向ける
健志「『俺、セックスがしたい』だとよ」
驚く一同
琴子「違うの! 説明させて!」
健志「何が違うんだよ! これ完全にそういうことだろ!?」
琴子「そうじゃないの! 勘違いなの!」
健志「じゃあ何をどう勘違いしてるのか教えてくれよ!」
琴子「……それは……」
健志「……できないこと言うんじゃねえよ」
琴子「違う! 違うの……」
健志「だから何が違うんだよ!」
琴子、黙り込む
健志「……もういいよ」
琴子「……分かった。言う」
健志「いやもういいって」
琴子「よくない。ただし、このことは絶対誰にも話さないで。ここだけの話にして。(全員を見回して)みんなも」
秀人「……お、おう」
忍「まあ、私たちはそもそもその金子って人を知らないしね」
頷く凛と桐江
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