第3話

秀人「さてと……。あれ、何の話してたんだっけ」


健志「えっと、何だっけ?」


琴子「私も忘れちゃった」


健志「何か、変な感じだな。別にまだ何も起きてないのに」


弘毅「ああ」


桐江「別に変に畏まらなくていいのに」


弘毅「気持ちは分かるけど、まあ、時間が経てば慣れてくるよ」


秀人「そ、そうだな!」


弘毅「ところで桐江」


桐江「何?」


弘毅「さっき言ってた映画、タイトルを教えてくれないか? 俺も観てみたくて。


桐江「いいよ。アマプラで観られるから、後でURL送ってあげる」


弘毅「ありがとう」


琴子「そういえば、弘毅くんって映画いっぱい観てるんだよね」


弘毅「まあね」


健志「月に何本ぐらい観てるんだっけ?」


弘毅「そうだな。その月にもよるけど、二十から三十ぐらいかな」


秀人「それってほぼ毎日一本は観てるってことじゃん」


弘毅「そうなるかな。でも、一日に何本も観る日もあるから」


琴子「へえ。じゃあ、何か面白い映画教えてよ」


弘毅「うーん、その質問よくされるんだけど、『面白い』の基準って人それぞれで違うから、オススメするのって結構難しいんだよ」


秀人「ああ、確かに。今まで弘毅にオススメされて観た映画、全部難しすぎて何言ってるのか全然わかんなかったもん」


弘毅「だから、人に映画を勧めるときは、まずその人の好きな映画を何本か教えてもらうんだ。それで、どんなジャンルが好きなのか、大体分かるから」


琴子「そうなんだ。そうだなあ、私が面白かった映画は――」


  と、メールの着信音がする


  固まる一同


秀人「(興奮して)誰? 誰のスマホ?」


健志「落ち着けよ秀人」


桐江「私のじゃない」


琴子「私も、こんな着信音じゃない」


  弘毅、スマホを持ち上げる


弘毅「……俺だ」


桐江「どっち?」


弘毅「え?」


桐江「メールか電話か」


弘毅「あ、ああ。メール」


秀人「ていうことは読み上げか! 凛と忍ちゃん呼んで来る!」


  秀人、キッチンの方に消える


健志「あいつ、興奮し過ぎだろ」


琴子「気持ちは分かるけどね」


桐江「一発目は弘毅か。どんなメールなんだろ」


弘毅「(不安な顔)……」


  と、秀人が凛と忍を連れて入って来る


忍「分かったから、引っ張らないで!」


凛「メールなんだからそんなに焦らなくても」


秀人「だってせっかくの一発目なんだから、一秒でも早くみんなで聞きたいじゃん!」


忍「別にそこまで気になってないし」


秀人「またまたー。本当は彼氏にどんなメールが来てるのか知りたいくせに」


忍「別に……」


弘毅「秀人、もういいか?」


秀人「ああ、ごめん。では、よろしくお願いします」


弘毅「(息を吐く)……」


  弘毅、スマホを操作する


弘毅「あ……」


秀人「何? 誰からだった!?」


弘毅「残念。迷惑メールでした」


  弘毅、スマホの画面を一同に向ける


秀人「何だよー」


弘毅「これも読み上げなきゃいけないの?」


桐江「一応そういうルールだからね」


弘毅「そっか。じゃあ……。『久しぶり。私のこと覚えてる? 同窓会のとき以来だよね。何となく会いたくなってメールしちゃった。お返事くれると嬉しいな』」


忍「いやあんた同窓会熱出して欠席してんじゃん」


弘毅「そうなんだよな」


秀人「何だよ。つまんないなあ。あ、まさか迷惑メールに見せかけて、本当に女の子からのメールだったり?」


弘毅「差し出し人の名前見てみるか?」


  弘毅、秀人にスマホの画面を見せる


  秀人、メールを読む


秀人「……失礼しました」


弘毅「分かってくれればいいよ」


忍「(秀人に)あんたね、私たち忙しいんだから、こんなのでいちいち呼び出さないで」


凛「本当だよ」


秀人「ごめんごめん。でも一発目だったから」


忍「次から本当に私たちを呼んだ方がいいか、ちゃんと考えてから呼んでよね」


秀人「はい。すみませんでした」


凛「(忍に)戻ろっか」


忍「うん」


  忍、凛、キッチンの方へ消える


弘毅「しかし、これ結構ドキドキするな」


桐江「ドキドキするってことは、何かバレたらマズいことでもあるの?」


弘毅「いや、そういうわけじゃなくてさ。なんて言うのかな……」


健志「分かるよ。交番とか警察の前を通るとき、何も悪いことしてないのにちょっと緊張する、ああいう感じだよな」


弘毅「ああ、そうだ。まさにそれだよ」


桐江「ふうん」


弘毅「桐江こそ余裕そうにしてるけど、自分こそ何か秘密があるんじゃないのか?」


桐江「そりゃ秘密の一つや二つ、三つや四つ、四つや五つあるわよ」


秀人「そんなに!?」


桐江「女なんて秘密だらけよ? ねえ、琴子?」


琴子「え、私? さあ、どうかな……」


健志「お前、そこははっきり『無い』って言えないのかよ」


琴子「いや、だって――」


  と、スマホの着信音が鳴る


  固まる一同


秀人「誰?」


琴子「私じゃない」


健志「俺も違う」


弘毅「俺も」


桐江「あ、私だ」


秀人「おお! いきなり桐江の秘密暴露か!?」


弘毅「メール? 電話?」


桐江「これは……DMだ。インスタの」


健志「インスタのDM?」


琴子「誰から?」


桐江「うんと、あ、これ知らない人だ」


弘毅「知らない人からインスタにDMが来るのか?」


桐江「よく来るよ。特に外国人。これは……多分フランス語かな。ほら」


  桐江、スマホの画面を見せる


健志「本当だ。フランス人からだな」


桐江「なんて書いてんの?」


健志「さすがにフランス語は。英語と、ドイツ語ならちょっと分かるけど」


琴子「Google翻訳してみたら?」


桐江「ああ、確かに。ちょっと待ってね」


  桐江、スマホを操作する


桐江「翻訳できた」


秀人「なんて?」


桐江「えっと、『あなたはとても美しい。あなたは私のタイプです』だって」


秀人「何だナンパかよ」


琴子「そういうのよく来るの?」


桐江「まあ、週に一回ぐらい?」


秀人「桐江のモテぶりは海をも越えるか」


桐江「私の秘密、知れなくて残念だったね」


秀人「全くだよ」


桐江「でも確かに、弘毅の言ってた通り、これ結構ドキドキするね」


弘毅「だろ?」


健志「どうする? やっぱりここでやめとくか」


桐江「ううん。やめないよ。どうして? やめたいの?」


健志「え? いや、別にそういうわけじゃ……」


琴子「健志? 何かバレたらマズい秘密でもあるの?」


健志「何だよ琴子まで。秘密なんか無いって」


琴子「(健志を見つめる)……」


健志「お、おい。こと――」


  と、スマホの着信音が鳴る


秀人「うわ、びっくりした!」


弘毅「これ、誰のスマホだっけ?」


秀人「あ、これ凛のだ!」


桐江「ねえこれ、電話だよ」


秀人「本当だ。おい! 凛! 電話だぞ!」


  凛、キッチンから部屋に入ってくる


凛「え、私?」


秀人「早く! 切れちゃうから!」


  凛、スマホを手に取る


凛「あ、お母さんだ」


  凛、電話に出る


凛「もしもしお母さん?」


桐江「(囁くように)スピーカーにして」


凛「(囁くように)あ……」


  凛、スマホをテーブルに置き、スピーカーにする


凛の母「もしもし? あんた今どこにいるの?」


凛「今日はサークルの友達と泊まりで遊びに行くって、昨日言ったじゃん」


凛の母「あれ? そうだったっけ?」


凛「お母さん、返事もしてたよ」


凛の母「あらそう。全然覚えてないわ」


凛「もう……」


凛の母「今日はお父さんも帰って来ないし。晩御飯どうしようかしら。近所のご飯屋さんに行っちゃおうかしら」


凛「知らないよ。勝手にしてよ。切るよ?」


凛の母「はいはい。気を付けて帰って来るのよ」


凛「うん」


  凛、電話を切る


  凛以外、笑い出す


凛「ちょっと、何で笑うの?」


健志「いやだって――」


琴子「凛ちゃんのお母さんって面白いね」


凛「ええ? どこが?」


桐江「何か分かんないけど、すごい懐かしい感じした」


凛「懐かしいって――」


弘毅「優しい、いいお母さんだな」


凛「本当に思ってる?」


弘毅「思ってるよ」


秀人「いやあ、さすが『ザ・平均点』。めちゃくちゃ普通の話しかしなかったな。何か逆に安心したわ」


凛「もう! 酷いよみんな!」


弘毅「別に悪く言ってるわけじゃないよ」


桐江「そうそう。あまりにもいいお母さんだから、面白くなっちゃって」


  桐江、吹き出す


凛「何でいい母親だったら笑うの!?」


  と、スマホの着信音が鳴る


秀人「おお。何か急にいっぱい来だしたな」


桐江「次は誰?」


  弘毅、ゆっくりとスマホを持ち上げる


秀人「また弘毅!?」


健志「すごいな。早くも二回目」


桐江「また迷惑メール?」


  弘毅、スマホを操作する


弘毅「いや、今度はTwitterのリプライだな」


健志「Twitter? 弘毅がTwitterやってんの、あんまり見ないけどな」


桐江「確かに。誰から?」


弘毅「(答えにくそうに)……」


桐江「何? 言いにくい相手なの?」


弘毅「いや、何ていうか……」


秀人「あれ? 変だな」


健志「どうした?」


秀人「いや、どんなリプライかみてやろうと思って弘毅のアカウント見てみたんだけど、最近は誰からもリプライなんて来てないんだよ」


健志「え?」


桐江「どういうこと?」


弘毅「えっと……」


琴子「もしかして……裏アカ?」


弘毅「いや、それはその……」


健志「弘毅、お前裏アカ持ってたのか?」


弘毅「いや、だから……」


桐江「まあそれはいいじゃない。弘毅、読んで」


弘毅「……」


桐江「ルールなんだから、ちゃんと――」


秀人「おい桐江。別にそこまで――」


弘毅「いいよ。読むよ」


秀人「お前、いいのか?」


  弘毅、頷く


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