第2話
桐江「……あれ? 何の話だっけ?」
琴子「健志たちの昔の話でしょ」
桐江「ああ、そうだったそうだった。で、他に何か面白い話無いの?」
健志「俺はともかく、この二人は昔から全然変わってないかならな」
桐江「そうなの?」
健志「うん。弘毅は昔から真面目で冷静で、俺たちのリーダーって感じだし、秀人は昔からずっと馬鹿だし」
秀人「おい!」
弘毅「あ! 秀人と言えば、面白い話があってさ」
桐江「なになに?」
秀人「おいおい、お前何言い出す気だよ」
弘毅「秀人ってさ、『しゅうと』って名前じゃん」
桐江「うんうん」
弘毅「でもさ、小学校からずっと野球部なんだよ! 『シュート』なのに! 普通サッカー部だろ!?」
静まる一同
秀人「……お前、どうせ言うならもっとえぐいのぶっこんで来いよ」
弘毅「え?」
秀人「わざわざ満を持して言うほどの内容じゃないってこと! 『おいおい、お前何言い出す気だよ』ってビビるフリまでした俺の気持ち考えろよ」
桐江「あと、話す前に『面白い話がある』とか絶対言っちゃ駄目だから」
弘毅「え、そうなの?」
琴子「弘毅くんって、昔からこうなの?」
健志「うん。いい奴なんだけど、何かズレてるんだよな」
弘毅「え、俺ズレてるかな?」
秀人「ズレまくりだよ! あとついでに言うと、野球にも『シュート』っていう変化球があるから、別に野球部でもそこまで変なことじゃないから!」
弘毅「でも秀人、ピッチャーじゃないじゃん。ライパチじゃん」
秀人「それ今関係ないだろ!」
琴子「ライパチって何?」
健志「ライトで八番バッターってこと。チームで一番下手な奴がやるポジションなんだよ。秀人は少年野球の頃からずっとライパチだもんな」
秀人「いいだろ別に! 俺は野球が好きなの! 野球ができればどのポジションでもいいの!」
健志「まあ、別にそれが駄目ってわけじゃないけど」
秀人「駄目じゃないけど、何だよ?」
健志「……はは」
秀人「なに笑って誤魔化してんだよ!」
桐江「はいはい。とりあえず、あんたら三人が仲良いのは十分伝わったから」
と、キッチンから凛と忍が、料理を運んでくる
忍「とりあえず簡単なのだけできたよ。あ、桐江と琴子、来てたんだ」
凛「本当だ。お疲れー」
桐江「お疲れ。うわあ、美味しそう」
琴子「さすが凛ちゃんと忍ちゃん。うちの料理女子トップ2だもんね」
忍「ありがとう」
凛「とりあえず、トマトサラダと、ちくわきゅうり作っといたよ。あ、トマト苦手な人いないよね?」
一同、同時に「大丈夫」と答える
凛「よかった」
忍「今鶏肉焼いてるから、できあがるまでそれ食べといて」
秀人「じゃあ一口目は俺が。いただきまーす!」
秀人、サラダを食べる
秀人「美味しい! ていうか、何このドレッシング!? めちゃくちゃ美味いんだけど!」
忍「よかった。それ私のオリジナルドレッシングなの」
桐江「え!? ドレッシング自分で作ったの!?」
忍「うん。ドレッシングって、大体どの種類のサラダにも同じの使っちゃうじゃない? でも、食材ごとに合うドレッシングは違うはずだと思って、自分で作ってみたの。今日のはトマト用のドレッシング」
健志「恐ろしいほどの料理好きだな」
秀人「じゃあとりあえず、乾杯しますか」
弘毅「そうだな」
一同、コップを掲げる
秀人「それでは皆様、前期テストお疲れ様でした! そして、我らが旅行サークルの更なる発展を願って、あ、あと、やり忘れてた桐江の歓迎会も兼ねて、乾杯!」
一同、「乾杯!」と言って、コップに入った酒を飲む
秀人「あーうめえ」
桐江「歓迎会って、私、サークルに入ってもう二ヶ月経つんだけど」
秀人「まあまあ、細かいことは気にせず」
琴子「みんないろいろ忙しかったもんね」
健志「いいじゃんいいじゃん。しかし、テスト終わりの酒は格別だな」
忍「健志は今回も余裕でフル単?」
健志「確かにフル単だけど、全然余裕ではないよ」
凛「すごいなあ。私なんてギリギリ卒業できるぐらいの単位取るのが精一杯」
秀人「でもお前もある意味すごいよ」
桐江「何がすごいの?」
秀人「こいつ、今期受けたテスト、全部平均点だったんだって」
凛「ちょっと言わないでよ」
弘毅「それはすごいな」
桐江「うん。やろうと思ってもできることじゃない」
凛「二人まで」
琴子「あれ。凛ちゃん、前期も同じこと言ってなかったっけ?」
秀人「そうなんだよ! こいつ、いっつも平均点しか取らないんだよ! どの授業受けてもだぜ!? こんなことある!?」
忍「ある意味才能かもね」
凛「そんな才能いらないよ! それに、授業によっては、ある点数以上取らないと単位もらえなかったりするから、平均点でも単位取れなかったりするんだよ」
健志「そうなんだ。知らなかった」
桐江「健志はいつも成績トップだから、そんなの気にしたことないもんね」
健志「いや、そういう意味で言ったんじゃ……」
秀人「とにかく、今日から凛のことは、『ザ・平均点』って呼んであげてください」
凛「だからやめてってば!」
忍「あんた、よく自分の彼女のことそんなにイジれるね」
桐江「本当、皆さん仲がよろしいことで。秀人と凛、弘毅と忍、そして健志と琴子。本当羨ましい」
忍「(照れながら)別に……そんなこと……」
弘毅「桐江にだって、そのうち良い男が――」
桐江「あ、そうだ。ねえ、みんなでゲームしない?」
弘毅「ゲーム?」
琴子「ゲームって?」
桐江「この前ね、面白い映画観たんだ、イタリアの映画なんだけどね、昔からの友達である三組の夫婦と一人の男がホームパーティをするんだけど、全員がスマホをテーブルに出して、自分に来たメールと電話を公開するの。メールなら自分で読み上げて、電話ならスピーカーにして会話する。もちろん、相手にはこのゲームのことは離しちゃ駄目。夫婦や友達の間に隠し事なんて無いだろうからって始めるんだけど、みんなそれぞれエグい秘密を持ってて、それがどんどんバレて修羅場になるの」
秀人「へ、へえ……」
弘毅「面白そうな映画だな。今度観てみようかな」
凛「でも、何でそんな……」
桐江「だってさ、この状況、その映画と全く一緒だと思わない?」
健志「全く一緒ではないな。桐江の性別が逆だ」
桐江「“ほぼ”一緒ね。私、あの映画を観たときから、このサークルメンバーで同じゲームやってみたいなって思ってたの。もちろん、みんな昔から仲の良い友人とカップルなんだから、バレてヤバいような秘密なんて無いでしょ?」
健志「そ、そりゃ、まあな……」
秀人「そりゃ、多少は隠してることぐらいあるけど、本当にヤバい隠し事は無い……よな?」
凛「う、うん……」
桐江「じゃあ、やる?」
秀人「で、でもさ、別に無理してやる必要は……」
桐江「そう?」
弘毅「俺も反対だな。人にはそれぞれプライバシーがあって、それを無理矢理暴かれる理由はないはずだ」
凛「私も、あんまり気乗りはしない、かな」
健志「俺も。別にみんなの秘密なんて知りたくないしな」
秀人「そ、そうだよな! ほら桐江、みんなもこう言ってるし、別のゲームにしよう! あ、そうだ。人狼ゲームは? この前の旅行でも盛り上がったじゃん!」
凛「あ、いいね。確かあのときは、負けた人が罰ゲームでみんなの分のお酒を買い出しに行ったんだよね」
秀人「そうそう! しかも俺たちが泊まった旅館がめちゃくちゃ辺鄙なところでさ、一番近くのコンビニまで歩いて片道一時間ぐらいかかるんだよな」
弘毅「ああ、あったな、そんなこと」
凛「あのとき、誰が負けたんだっけ?」
秀人「えっと、あ、そうだ。桐江と健志だよ。そんで、二人で往復二時間かけてコンビニまで買い出しに行ってもらったんだよな!?」
健志「……え? あ、ああ。そうだったっけ……」
秀人「もう、何忘れて――」
桐江「本当にやらないの?」
秀人「え?」
桐江「今反対してる人は、私たちに知られちゃマズい秘密があるから反対してるんだって思われても仕方ないけど、それでもいいの?」
秀人「そ、それは……」
少し沈黙
弘毅「なあ桐江、やっぱり――」
琴子「私、やってもいいよ」
健志「え?」
弘毅「本気?」
凛「琴子ちゃん?」
琴子「桐江ちゃんも言ってたじゃない。みんなにバレてマズい秘密が無いなら、何の問題も無いって。それに、こういうのちょっとワクワクするし」
健志「お前――」
忍「私もやる」
弘毅「え?」
忍、テーブルに自分のスマホを置く
それを見て、琴子もテーブルにスマホを置く
秀人「おいおいマジかよ」
弘毅「忍、本気なのか?」
忍「私が今まで適当にこんなことしたことある?」
弘毅「……」
桐江、テーブルにスマホを置く
桐江「さあ、あと四人はどうする? どうしても嫌だって言うんなら、無理にとは言わないけど」
少し沈黙
秀人、スマホを勢いよくテーブルに置く
秀人「分かったよ! やればいいんだろ!?」
健志「お、おい、秀人」
秀人「健志、お前もスマホ出せよ」
健志「え?」
秀人「男がここまで言われて黙ってられるか? それに、琴子ちゃんは出してんだぞ」
健志「……分かったよ」
健志、スマホをテーブルに置く
桐江「あと二人、どうする?」
悩む凛と弘毅
秀人「凛、別に嫌なら断っていんだぞ」
凛「……うん」
忍「弘毅も」
弘毅「ああ……」
忍「あんたがこういうの好きじゃないの知ってるし、別に――」
凛、スマホをテーブルに置く
秀人「お、おい凛。いいのか?」
凛「いいよ、別に。私、みんなに隠してることなんて無いし。それに、変に疑われるならそっちの方が嫌」
秀人「……そうか」
桐江「弘毅は? どうするの?」
弘毅「(悩む)……」
弘毅、ゆっくりスマホをテーブルに置く
忍「……いいの?」
弘毅「そりゃ本当は嫌だけど、さっき凛が言ったように、別にバレて困るような秘密は無いし、それに俺は、みんなのことを、あと、忍のことを……知りたい」
忍「(少し驚く)……」
桐江「じゃあ決まりね。もう一回ルールを確認するけど、このパーティ中、スマホはずっとこのテーブルに置いたままにしておく。そして、メールが来たら、それをスマホの持ち主が自分で読み上げる。電話が来たらスピーカーにして、このゲームのことは言わずに会話する。その間、他の人たちは会話に入ったりしたら駄目」
忍「質問、いい?」
桐江「何?」
忍「メールと電話以外の場合は? LINEとかTwitterとか」
桐江「もちろん、それもメールと同じだから、読み上げてもらう」
忍「分かった」
桐江「他に質問は?」
少し沈黙
桐江「OK。じゃあ、今から開始ね。よーい、スタート!」
桐江、手を叩く
沈黙が流れる
桐江「あの、別に黙ってなくてもいいのよ。メールや電話が来るまでは、普通に食事しながらお話してればいいんだから」
秀人「あ、そっか。そうだよな」
凛「何か変に緊張しちゃって」
秀人「俺も」
忍「じゃあとりあえず、私はメインの鶏肉がそろそろ焼き上がる頃だから、そっち行ってくる」
凛「あ、じゃあ私も」
健志「あ、そっか。(桐江に)なあ。本人がその場にいないときにその人のスマホが鳴ったらどうするんだ?」
桐江「そういうときは、そのスマホの持ち主を呼んで、メールを読むなり、電話に出るなりしてもらう。電話でもし切れちゃったら、その場でかけ直してもらうの」
健志「なるほど」
忍「じゃ、もし私のが鳴ったら呼んでね。大声出せば聞こえるから」
凛「じゃあ、私もそれで」
弘毅「分かった」
琴子「待ってるね」
忍、凛、キッチンの方へ消える
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます