負けられない女13

 時刻は夜の九時を回った頃だった。テレビはどのチャンネルも同じようなバラエティ番組ばかりで、めぐりは飽き飽きしていたところだった。ここ数日は、作家でもないのにずっとホテルに缶詰めだ。他にすることもない。かるたが無いとこうも暇になるのかと、めぐりは痛感していた。以前までなら、裕香が食事や練習に誘ってくれたものだったが、今はそれもない。これ以上起きていても仕方がないので、めぐりは寝間着に着替えてさっさと寝ることにした。


 寝るにはまだ時間が早いからか、めぐりはなかなか寝付けなかった。思い返せば、ここに来てからロクに眠れていない。自業自得と言えばそうだが、やはり二十歳そこそこの若い女性には辛いものがあった。


 ベッドの中で布団にくるまりながら、めぐりは考えた。結局今日は山崎とはかるたの話をしただけに終わった。あれから何も連絡はない。タイムリミットは明日の夕方。既に二十四時間を切っている。このまま山崎の捜査に何も進展が無ければ、自分は逃げ切れる。この勝負に勝てる。勝てるのだ。クイーンになるという自分の夢の為、親友まで殺したのだ。絶対に負ける訳にはいかない。


 そうめぐりが決意を固めていると、枕元に置いていためぐりのスマホが鳴った。めぐりは突然の大きな音に思わず飛び起きた。めぐりは、誰からの電話なのか、一瞬で悟った。心の中で自分を鼓舞し、意を決して電話に出た。


「もしもし…」


「こんばんは。山崎です」


 聞きなれた声が電話から聞こえてくる。


「夜分遅くにどうもすみません」


「いいんです。どうせ暇でしたから」


「そうですか。ならよかったです」


「で、何かご用ですか?」


「はい。実は日野さんにご相談がありまして」


「相談? 何かしら?」


「詳しいことは明日お話します。明日の朝十時、練習場の前に来ていただけませんか?」


「電話じゃできないお話なの?」


「そうですね。できれば直接お会いしてお話ししたいです」


「…分かりました。明日の朝十時ですね」


「お待ちしています」


「…じゃあ、また明日…」


「また明日…」


 山崎の返事を聞いて、めぐりは電話を切った。動悸がどんどん激しくなる。明日、山崎は自分に何を話すつもりだろう。いや、分かっている。裕香を殺したのが自分であると証明しにくるはずだ。私はそれを全力で回避しなければならない。受けて立つ。めぐりはそう決意した。


 最後の直接対決を前に、めぐりは頭の中を空っぽにし、ゆっくりと目を閉じた。絶対に勝つ。勝ってみせる。私は、負けることが何より嫌いなのだ。


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