15. 龍ヶ峰さんのことが好きでした【完結】
真雪と二人でお出かけをした次の日の朝。
いつもは話しかけてこない沙雪が珍しく流に話しかけてきた。
「昨日は姉さんがお世話になったわね。姉さん、朝からあなたにお弁当を作るんだって張り切ってたわよ」
「そうですか」
流は沙雪と距離を置くようにそっけなく言った。
「相変わらずあなたって一線を引いてるわね」
沙雪もそっけなく言う。
「何の用ですか?」
流は教室で沙雪と話すのは目立つから避けたいと思っていた。
沙雪は生徒会副会長でこの美貌なので言わずもがな人気者だ。そんな沙雪が誰かに話しかけるだけでクラス中の注目が集まるのだ。今がそうであるように。
「特に用なんてないわ。ただ昨日のお礼が言いたかっただけよ。あんなに浮かれている姉さんは久しぶり見たわ。姉さんをあんな風にできるのは世界で私とあなたくらいなものよ」
誇りなさい、と付け加えた沙雪は自分の席へと戻っていった。
そして昼休憩。
流はいつものように屋上に向かう。一つだけ違う点があるとすれば、総菜パンを手に持っていないということだ。
真雪に絶対に買うなと言われてたいので、本当に買わなかった。
屋上の扉を開けて外に出ると真雪はいつものベンチに一人で座っていた。
扉が開いた音でこちらを振り返った真雪は流の姿を見つけると、流に向かって笑顔で手を振った。
「龍ヶ峰さんこちらです」
真雪に手招きされるままに流はベンチに近寄り真雪の隣に座った。
「来てくれてありがとうございます。こちらが龍ヶ峰さんのお弁当です」
作ってきてくれるとは思っていたがこうやって実際に手渡されるとなんだか不思議な気持ちになる。
「あ、ありがとうございます」
「龍ヶ峰さんのお口に合うといいんですけど」
「開けてもいいですか?」
「どうぞ」
真雪から許可をもらった流はゆっくりと弁当箱の蓋を開けた。
弁当は二段重ねになっていて、上の段には数種類のおかずが隙間なく入っていて、下の段にはキラキラと輝いた真っ白なご飯が入っていた。
蓋を開けた瞬間に漂って来たおかずの美味しそうな匂いに流はお腹を鳴らした。
そのおなかの音を聞かれたらしく真雪に笑われた流は少し恥ずかしくなった。
「ふふ、遠慮せずに食べてくださいね。龍ヶ峰さんのために作ってきたのですから」
どうぞ、と渡された箸で流はまず卵焼きを掴んで口に運んだ。
箸で掴んだ瞬間から分かるほどふわふわの卵焼きは口の中に入れた瞬間に溶けてなくなた。
美味しいのは前回無理やり食べさせられた時に知っていたがここまで美味しいとは……。
流は気が付けば涙を流していた。
「りゅ、龍ヶ峰さん!? もしかしてお口に合わなかったですか!?」
真雪が涙を流している流のことを心配そうな顔で見つめる。
流は小さく首を振って「違います」と呟いた。
「じゃあ、どうして涙を……」
「その、あまりに美味しすぎて……」
「ビックリしたじゃないですか。マズ過ぎて涙を流されたのかと思ったじゃないですか」
そう言いながら真雪は流の肩をバシバシと叩いた。
「美味しくて涙を流してくれたんですね。嬉しいです」
「ほんとに美味しいです。ありがとうございます」
「そう言っていただけると早起きして愛情をたっぷりこめて作った甲斐がありますね」
真雪は流が弁当を食べている姿を幸せそうに眺めていた。
そんな真雪は心の中である決意をする。
(昨日はムードがありませんでしたけど、ここなら伝えてもいいですよね)
流が弁当を綺麗に完食するのを見届けると真雪は口を開いた。
「龍ヶ峰さん」
「はい」
改めて名前を呼ばれて真雪の方を向くと、カラメル色の瞳が真っ直ぐに流のことを見つめていた。
「もう抑えきれそうにないので、私の気持ちをお伝えしますね」
そう言われて流が心の準備もできないままに真雪は抑えきれない好きの気持ちを流に伝える。
「龍ヶ峰さん。私は去年の文化祭の時から龍ヶ峰さんのことが好きでした。だから、その……私とお付き合いしていたがけませんか?」
真雪の突然の告白に流は目をパチパチとさせる。
(俺は今、告白されたのか……)
流は真雪の言葉を頭の中で繰り返した。
何度繰り返して見てもそれは告白の言葉以外の何ものでもなかった。
「ダメ、でしょうか?」
「ダメも何も、なんで……?」
「なんでとは?」
「なんで俺のことを好き、なんですか?」
「好きなのに理由なんていりますか? 好きなものは好きなんですよ。それ以外に理由なんてありません。まぁ、いくらでも龍ヶ峰さんの魅力を言うことはできますけど、言いますか?」
「いえ、いいです」
言われてしまったらきっと恥ずかしくてまともに顔を見れなくなる。
「そうですか。話そうと思えば何時間でも龍ヶ峰さんの魅力を話せるのに、まぁいいです。それでどうですか? 私とお付き合いしてもらえますか?」
「それは・・・・・・無理です。ごめんなさい」
「どうしてもですか?」
「・・・・・・はい」
「そうですか」
告白を断られた真雪はどこか清々しい顔をしていた。
あの事件さえなければ、流は迷うことなく真雪からの告白を頷いただろう。
流は知っている。
人は簡単に裏切るということを。
だから、流は真雪の告白を断った。
「断られてしまいましたか。なら、諦めるしかないですね。とでも言うと思いましたか? 私は絶対に諦めませんよ? 私はしつこいんです。諦めが悪いんです。だから、いつか必ず龍ヶ峰さんのことを振り向かせてみせます。私のことを好きになってもらいます」
真雪は流のことを真っ直ぐに見つめた。
「龍ヶ峰さんが人と距離を置いていることは知ってます。その理由を無理に話してほしいとは言いません。龍ヶ峰さんが話していいと思える時が来るまで待ちます。そのかわり覚悟しておいてくださいね? これからグイグイいきますから。生徒会雑務にもなってもらうことが決まってますし、これから一緒にいる時間も長くなるでしょうから。チャンスはいくらでもありますから」
そう言った真雪は「放課後にまたお会いしましょう」と流に言い残すと屋上を後にした。
ベンチに一人残された流は空を見上げた。
雲一つない快晴が広がっている。
流は昼休憩が終わるまでその空を眺め続けた。
☆☆☆
これにて完結です!
流の過去や二人が付き合った後の話は
四月分の小説が落ち着いたら書きます!
お楽しみに✨
ご愛読ありがとうございました。
四月にはかなり気合を入れた小説をあげる予定です!
そちらもお楽しみに✨
美人双子姉妹の姉が俺への好きオーラが半端ない!? 夜空 星龍 @kugaryuu
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