14. もう少し抱きしめておいてくれてもよかったのに
「嘘ついたら何してもらいましょうか?」
「いや、怖いんだけど……」
「冗談ですよ。別に嘘をつかれても私が悲しいだけですから」
その言葉がどんな罰よりも怖いと思った流であった。
それからパフェを綺麗に食べ終えた二人は『ムーンライト』を後にして流の提案で真雪を家まで送ることになった。
☆☆☆
「龍ヶ峰さん。ずっと気になっていたことを聞いていいですか?」
ゲームセンターを後にして少し歩いたところで真雪がそう流に聞いた。
「なんですか?」
「龍ヶ峰さんっていつも総菜パンを食べてますよね。お弁当は作らないんですか?」
「料理だけはどうしても苦手というか、できなくて」
流は苦手という意識から基本的に家で料理をすることない。作ってもカップ麺くらいなものだ。だから、いつまでも上達しないし、一向に作れるようにならない。
「そうなんですね。家でのご飯はどうしてるんですか?」
「カップ麺か市販の弁当です」
「去年からずっとですか?」
「はい」
「それは不健康すぎます!」
真雪はビシッと言い切った。
「ちゃんとしたものを食べないといけませんよ!」
「いや、別にお弁当だってちゃんとしてると思うんですけど。それにちゃんと野菜も食べてますから」
市販のやつですけど、と流は付け加えた。
すると真雪は「決めました」と何かを自分の中で決めたようで流の方を向いて言った。
「明日、龍ヶ峰さんのためにお弁当を作って行きます」
「え?」
「なので、明日は総菜パンを買うの禁止です。いいですね?」
有無を言わさな圧力を真雪は流に向ける。
「絶対に私が作ったお弁当を食べてもらいますからね。そんな食生活をしていたらいつか必ず倒れてしまいます。そうなったら私が悲しいのでこれは決定事項です。龍ヶ峰さんに拒否権はありませんからね」
「いや、申し訳ないですから。そこまで月乃さんにしてもらう義理はないですし……」
「そんな悲しいこと言わないでくださいよ。私と龍ヶ峰さんの仲じゃないですか」
そう言って真雪は悲しそうな顔を流に向けた。
そんな悲しそうな顔を向けられても、と流は思った。別に流と真雪は恋人関係でもなければ、友達関係といっていいのかすら分からない関係だった。
もちろん顔を合わせれば挨拶をするし、会話もする。これを友達と呼ぶのならそうなのかもしれないが……。
「こうやって一緒にお出かけをしてるのにお友達だと思われてないなんて、やです」
真白はそう言って頬を膨らませた。
「龍ヶ峰さんは私とお友達になるのは、やですか?」
「いえ、そんなことは……」
「じゃあ、私が龍ヶ峰さんにお弁当を作ってあげても問題ないですね。私たちは友達ですから」
なんだか強引にまとめられてしまった。
真雪はすっかりとその気になっているようで、流に好きな物は何か、食べれない物はないか? といろいろと質問をしていた。
もう止められそうにないと思った流は弁当を作ってもらうことを受け入れたが、さすがに無償で作ってもらうわけには行かないと思い材料費と人件費を払わせてほしいと提案した。
「そうですね。材料費はいただきます。その方が龍ヶ峰さんも何の気負いもなくお弁当を食べれると思うので。ただ、人件費はけっこうです」
真雪はチャンスだと思った。人件費を受け取る代わりに生徒会雑務になるように言えば、流は引き受けてくれるのではないかと考えた。
「人件費をいただく代わりにわが生徒会の雑務になっていただけませんか? 雑務といっても雑用をさせるわけじゃありませんから安心してください。やってもらうことは主に私のサポートです。放課後に一緒に学校内の見回りをしたり、一緒に資料を作ったり、そんな感じです。どうですか? 人件費だと生々しくなってしまうので、私としてはこっちの方がありがたいんですが」
真雪はダメ押しとばかりに流のこと見上げるように見つめた。
「俺が生徒会に……」
「もちろん無理にとはいいません。生徒会に入れば何かと目立つことにもなると思います。それを龍ヶ峰さんが嫌というならこれ以上は言いません」
目立つことはあまり好きではなかった。
あの事件以来、なるべく目立たないように生きていた。だから本来なら避けるべきなのだろう。だけど、流は真雪のその提案を受け入れることにした。
自分でもなぜ受け入れようと思ったのか分からなかった。もしかしたら今日の真雪とのお出かけが予想以上に楽しかったからかもしれない。
「分かりました。その提案を受け入れます。不束者ですがよろしくお願いします」
「本当ですか!?」
「はい」
「え、え!? これは現実ですか!?」
自分で誘ったのに本当に流が生徒会に入るとは思っていなかった真雪は、今いるのが住宅街だということも忘れ、これでもかと大きな声で驚いていた。
「嬉しすぎます! 竜ヶ峰さんが生徒会に! ということはこれから毎日放課後は一緒に……」
真雪は妄想の世界に入ってしまったようだった。頬をこれでもかと緩めた真雪は目の前に電柱があることに気が付いていない様子だった。
「あ、危ない」
真雪が電柱にぶつかってしまう前にその手を取って抱き寄せた。
「ちゃんと前見て歩かないと危ないって」
「ご、ごめんなさい。ありがとうございます」
「……」
「龍ヶ峰さん?」
真雪は流よりも十センチ程身長が低い。なので、必然と流の真雪の頭は流の胸に、その豊満な胸はお腹のあたりに密着していた。
(この体勢は非常にマズい)
自分で抱き寄せておいてなんだが、かなり辛い。
だから「ごめんなさい」と謝ってさっと離れた。
真雪は小さく「あっ……」と呟くと名残惜しそうな瞳で流のことを見る。
「もう少し抱きしめておいてくれてもよかったのに」
「いや、無理だから……」
「まぁ、少しでも抱きしめてくれたので、今はそれで我慢しましょう。助けていただいてありがとうございます。龍ヶ峰さん」
妄想の世界から戻ってきた真雪は流にお礼を改めて言うと再び歩き始めた。
そして歩くこと二十分。
真雪の家に到着した。
大きな二階建ての家だった。
「ここが私のお家です。送ってくださいありがとうございました」
「どういたしまして」
「今日は本当に楽しかったです。明日のお昼楽しみにしていてくださいね。それから、生徒会の方もよろしくお願いします」
「こちらこそ楽しかったです。お弁当も生徒会もよろしくお願いします」
「ふふ、お任せあれ」
ふわりと微笑むと真雪は「それではまた明日」と流れに手を振って家の中へ帰っていった。
真雪が家の中に入ったのを見ると流は自分の家へと向かって歩き始めた。
帰りにコンビニに寄ってお弁当を買って帰った。
☆☆☆
お出かけ編これにて終了!
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