13. 嘘ついたら何してもらいましょうか?

 ゲームセンターを後にした二人が向かった場所は真雪がたまに行くというゲーム&ブックカフェ『ムーンライト』という場所だった。


「月森さんお久しぶりです」

「あら、真雪ちゃん久しぶりね」

 カウンターでコーヒーを淹れている女性が真雪に笑顔を向けた。

 女性の名前は月森葵つきもりあおい。『ムーンライト』の店主である。


「今日は沙雪ちゃんと一緒じゃないのね?」

 葵はチラッと流のことを見てそう言った。


「もしかしてデート?」

「ち、違いますよ!? お出かけです!」

 真雪は慌てて葵の言葉に被せた。


「そう。いいわね。青春で」

「もぅ、からかわないでください!」

 葵さんは「好きな席に座っていいからね」と言い残すと他のお客の対応に向かった。


「席に座りましょか。竜ヶ峰さん」

 まったく、と頬を小さく膨らませた真雪は最新ゲーム機が置かれている席に座った。どうやら、このお店はご飯を食べながらゲームができたり本を読めたりするらしい。


「いいお店ですね」

「ですよね。最近は忙しくて来れてなかったですけど、ここに来ると時間を忘れてゲームをしてしまいます」

「月乃さんって本当にゲームが好きなんですね」

「そうですね。あるとついやってしまうので、家ではあまりやらないようにしてます。だからかもしれませんね。こういうところに来るとその反動で何時間もしてしまうんですよね」

 そう言って苦笑いを浮かべた真雪はコントローラーを手に取った。早速、ゲームをやる気満々のようだった。


「あ、その前に注文をしましょうか」

 真雪は思い出したかのようにそう言うとテーブルの上に置いてあるメニュー表を流に手渡した。


「ここのスイーツはどれも美味しいので好きなものを選んでください」

「月乃さんは何を頼むんですか?」

「私はいつも頼むイチゴパフェにしようと思います」


 パフェのページには何種類ものパフェの写真が載っていた。 

 どれも美味しそうで甘そうな見た目だった。


「じゃあ、俺はチョコレートパフェにします」

「いいですね。葵さん~。注文お願いします」

 カウンターに戻ってきていた葵に注文を伝えると、真雪は今度こそゲームを開始した。


「龍ヶ峰さんも一緒にやりませんか? このゲーム対戦できるやつなので」

「いいですよ」

 頷いた流は真雪から赤色のコントローラーを受け取った。


「やったことあったりします?」

「まぁ、ありますね。弟がゲーム好きなので」

「そうなんですね。強いですか?」

 流にそう聞いた真雪は勝負師の目になっていた。


「いや、強くはないと思いますよ。たまに相手をするくらいしかやったことがないので」

「そう言う人はたいてい上手なんですよ。それに龍ヶ峰さんはなんでもこなしそうなイメージがあるので絶対に強いと思います」

「そんなことないですって」

「まぁ、それはやってみれば分かることですね」


 お互いにキャラ選択をした。

 流はそのゲームのメインキャラクターの赤い帽子を被ったキャラで、真雪はお姫様のキャラを選択していた。


「絶対に負けませんからね」

「お手柔らかにお願いします」


 3・2・1の合図でレースがスタートした。

 対戦相手は世界のプレイヤーだった。

 流の最初の順位は五位とまずまずだった。対する真雪は三位に位置づけていた。

 さすがはゲーム好きだけある。コース取りが上手だった。ただ、一位と二位もかなりの腕前のようで真雪はなかなか抜かせないようだった。


「前の二人が強すぎます」 

 真雪は悔しそうにそう呟くと頬を膨らませた。

「でも、絶対に負けません。あ、いいアイテムが来ました!」

 どうやら前の二人を抜かせるチャンスを作ることができるアイテムが来たようで真雪は嬉しそうに呟いた。


(ゲームセンターでも思ったけど、本当にゲームが好きなんだな)

 楽しそうにゲームをしている真雪の横顔を見て流は改めてそう思った。

 ゲームをしているときの真雪は子供のような無邪気なものだった。


「やりました! 二位なりました!」

「あと一人ですね。頑張ってください」

「頑張ります。龍ヶ峰さんもファイトです」

「俺の実力だとこの辺が限度みたいです」


 それほどゲームをやらない流の実力では五位どまりだった。頑張れば四位にしれないが、自分が順位を上げるよりも真雪が一位になれるかどうかを見ていたかった。


「俺のことはいいので月乃さんはレースに集中してください。もう少しで一位になれそうじゃないですか」


 真雪が操作するキャラクターは一位のキャラクターの背中を捉えていた。

 そして最終ラップ。

 真雪と一位のデットヒートが繰り広げられ、最後に勝ったのは真雪だった。緑こうらが勝負の明暗を分けたようだった。緑こうらは相手を追従するわけではないので完全にプレイヤーの腕前次第だ。真雪は緑こうらをゴール直前で一位のプレイヤーに上手く当てた。それで真雪が一位になり、そのまま真雪が一位でゴールした。


「ふぅ、なんとか一位でゴールすることができました」

 一勝負終えた真雪は満足そうな顔だった。


「おめでとうございます。さすがですね」

「なかなか手強い相手でした。緑こうらを上手く当てれてよかったです」

「あれは痺れましたよ。上手く当てましたね」

「ありがとうございます。龍ヶ峰さんにそう言ってもらえると嬉しいです」


 レースが終わったタイミングで葵がパフェを運んできた。

「ゲームの腕は訛ってないようね」

「いえ、少し衰えた気がします。少し前ならもう少し楽に勝てていたと思うので」

「確かにそうかもね。ま、ゆっくりしていってね」

「はい。ありがとうございます」

 葵はカウンターに戻っていく。


「どうですか? 美味しそうじゃないですか?」

 流は目の前に置かれたチョコレートパフェを見て喉を鳴らした。

「美味しそうです」


「さ、食べてみてください。きっと自然と頬が緩んでしまうと思うので」

 真雪に促されるように流はスプーンでチョコレートパフェを掬うと口に運んだ。

 その瞬間、真雪の言った通り、流の頬は自然と緩んだ。


「ふふ、やっぱり頬が緩みましたね」

 そんな流を見て真雪は満足そうに微笑んだ。


「美味しいですか?」

「美味しいです。今まで食べたパフェの中で一番美味しいかもです」

「それはよかったです」


 流が美味しそうにパフェを食べているのを見ると、真雪も自分のパフェを口に運んでは頬を緩めていた。


「龍ヶ峰さん。今日は一緒にお出かけをしていただきありがとうございます。とても楽しかったです」

 お互いにパフェを半分ほど食べたところで真雪がそう言った。


「いきなり連絡がきてビックリしましたけど、俺も楽しかったです」

「その節は大変失礼しました。今だから言いますけど、あれ沙雪ちゃんが勝手に送ったんです」

「え、そうだったんですか?」

「はい。本当はすぐに沙雪ちゃんが悪戯で送ったんですってメッセージを送ろうかと思ったんですけど、まさかの龍ヶ峰さんからOKの返事をいただいたので、その、それならせっかくなので一緒にお出かけしたいなと思ってしまって、騙すような形になってすみません」

 真雪は申し訳なさそうな顔で流に謝った。


「別に大丈夫ですよ。さっきも言いましたけど、楽しかったので、結果よければすべて良しです」

 そう言って流は頭をあげてください、と真雪に微笑みかけた。


「ありがとうございます。そう言っていただけると安心です」

 ホッと安心の表情を見せた真雪はパフェを口に運んだ。


「それにしても楽しいことをしているときはやっぱり時間が進むのが早いですね。もうそろそろお別れの時間です」

 二人が『ムーンライト』に来てから二時間が経とうとしていた。


「まだまだ龍ヶ峰さんと一緒にいたいですし、名残惜しいですけど、そろそろ帰らないと沙雪ちゃんたちがご飯を作って待ってますから」

「また、一緒にお出かけすればいいじゃないですか」


 本当に名残惜しそうに呟いた真雪に向かって流はそんな言葉を無意識に口からこぼれ落ちた。

 真雪と一緒に過ごしたこの数時間を本当に楽しかったと流は思っていた。名残惜しいと思っていたのは真雪だけではなかったというわけだ。

 そんな流からの次のお出かけの誘いに真雪は「えっ?」と小さく呟いてカラメル色の瞳をパチパチとさせた。


「それはまた私と一緒にお出かけをしてくれるということですか?」

「そう、ですね」

 流は真雪から視線を外して残りのパフェを口に運んだ。

 真雪は今日一の最高の笑顔をつくて流のことを見つめていた。


「ふふ、そう思ってくれるくらい楽しんでくれていたってことですよね。嬉しいです。また一緒にお出かけしましょうね。龍ヶ峰さん」


 約束しましょう、と真雪は流に右手の小指を差し出した。

 差し出された真雪の細い小指に流は自分の右手の小指を重ねた。


「嘘ついたら何してもらいましょうか?」

「いや、怖いんだけど……」

「冗談ですよ。別に嘘をつかれても私が悲しいだけですから」


 その言葉がどんな罰よりも怖いと思った流であった。

 それからパフェを綺麗に食べ終えた二人は『ムーンライト』を後にして流の提案で真雪を家まで送ることになった。


☆☆☆ 

 

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