12. あ~!それは言っちゃダメ!

 十分後。

 ゲームセンターの前に停まった高級車から沙雪と美しい女性が出てきた。


「姉さん! 大丈夫だった!?」

 ぬいぐるみを両手いっぱいに抱えている真雪に向かって沙雪は抱きついた。


「ちょっと、沙雪ちゃん危ないから」

「もう! 一人でゲームセンターに行ってはダメって言ったじゃない!」

「一人じゃないからね。龍ヶ峰さんも一緒にいたからね」


 真雪がそう言っても沙雪は聞く耳を持っていない様子だった。

 今にも泣き出しそうな顔で真雪に抱きついている。


「無事でよかった。絶対に一人でゲームセンターには行かないで」

「だから、龍ヶ峰さんも一緒だって言ってるでしょ」

「それでまゆちゃん。その龍ヶ峰君はどこにいるの~?」


 おっとりとした声でそう言ったのは美人双子姉妹の母親の月乃雪つきのゆき

 絹のようにさらさらとした真っ白なストレートヘア、琥珀色の瞳、綺麗な鼻に桜色の唇。当たり前だが、顔は美人姉妹にそっくりだった。

 身長は真雪と同じくらいで、スタイルはグラビアアイドル並み。

 真雪のおっとりとした雰囲気はどうやら雪からの遺伝のようだった。


「お母さん。龍ヶ峰さんはまだ会いたくないみたいで、お店の中にいます」

「あら、そうなのね~」


 まるで私には関係ないわ、と雪の足は自然とゲームセンターへと向かっていた。

 真雪が止めに入ろうにも沙雪に抱きつかれているので身動きがとれなかった。 

 雪はゲームセンターに入ると真雪からいつも聞いている情報を頼りに流のことを探した。


 流のことはすぐに見つかった。

 真雪からの情報と目の前にいる男の子があまりにもマッチしすぎていたから。

(この子ね)


 雪は流に声をかけずに、まず流の容姿を観察した。

(なるほどね~。まゆちゃんの言う通りカッコいい子ね)


 眼鏡と前髪の奥に隠れている切れ長でカッコいい目、陶器のような綺麗な肌、薄い唇は妙に色っぽかった。

 真雪が世界一カッコいいというのは色眼鏡を通して見ているからではなかった。

 流はイケメンだ。ただ、中学時代のある事件がきっかけで、その容姿を隠すように地味な男子になんていたのだが、雪には一瞬で見抜かれてしまったようだ。


「こんにちは」 

 雪はUFOゲームをしている流に声をかけた。

 ちょうどプレイ中だった流は思わずボタンから手を放してしまい何も景品のないところにアームが下りてしまった。


「このキャラクター可愛いわね~」

 いきなり声をかけられて驚いている流に雪はマイペースに話しかける。

 UFOキャッチャーの中のフィギアを見つめている雪の横顔を見た流はピンときた。


(もしかしてこの人……)

 その横顔があまりにも美人双子姉妹に似ているから、この人が真雪の母親なのでは中と流は思った。


(ん!? なんでこんなとこに月乃さんのお母さんが!?)

 真雪の母親に会わないようにとゲームセンターの中で待っていたのにこれでは意味がない。


(と、とにかく失礼のないようにしないと……)

「あの、もしかして月乃さんのお母さんですか?」

「あら、分かっちゃった?」

 雪はフィギアから流に顔を向けるとふわりと微笑んだ。


(あ、月乃さんと同じ顔だ)

 その微笑みは真雪と同じものだった。

「そうです~。私がまゆちゃんとさゆちゃんのお母さんです~。月乃雪っていうの。よろしくね~」


 そういって雪は流に右手を差し出した。

 差し出された右手と握手を交わしたところで「やっと見つけた」と息を切らした真雪がやってきた。


「まゆちゃん。さゆちゃんは?」

「車で待ってるって。そんなことより、お母さん変なこと言ってないよね!?」

「変なことって~?」

「そ、それは……」

「まゆちゃんが龍ヶ峰君のことを……」

「あ~!それは言っちゃダメ!」


 真雪は何かを言おうとしている雪の口を慌てて手で塞いだ。


「まだ、言ってないんだから!」

「あら。そうなのね。てっきりもう・・・・・・」


 ごめんね、と雪は眉を下げた。


「とにかくその話はダメだから」

「分かったわ。お口チャックしとくね」

 そう言った雪はお口をチャックする仕草をした。

 真雪は流に申し訳なさそうな顔を向ける。


「ごめんなさい。龍ヶ峰さん。お母さん勝手に行っちゃって」

「だって〜。まゆちゃんがいつも龍ヶ峰君のことを幸せそうな顔でお話するから気になって〜」

「あ〜! それも言ってはダメだってば〜!」


 突然の暴露に真雪は頬を紅潮させて、若干涙目になっているその目で雪のことを睨んでいた。


「もういいでしょ! お母さん余計なこと言うからもう帰って」

「え〜。もう少し龍ヶ峰君とお話したかったのに〜」

「ちゃんとまた紹介するから」

「そういうことなら」


 少し不満そうな雪は流の手を離すと「またゆっくりお話しようね〜」と手を振って入り口に向かっていった。


「はぁ〜。本当にごめんなさい」

「なんか月乃さんに似てるね」

「そりゃあ、お母さんですからね」

 真雪はふわりと微笑んだ。


「あの、確認なんですけど、お母さんは本当に何も変なこと言ってないですよね?」

「う、うん? 言ってないと思うよ」

 自己紹介されたタイミングで真雪が来たし、と流れは思った。


「よかったです」

 何も変なことを言われてないとホッとした真雪は「では、次の場所に行きましょうか」と気を取り直したように言った。


「次はどこに?」

「この時間に行くとこといえば一つじゃないですか?」

 そう真雪に言われて腕時計に目を通すと時刻は15時になろうとしていた。


☆☆☆

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