6. もうこの際、彼のことを落としたら?
「紗雪ちゃん。私決めました!」
放課後の生徒会室。
真雪と紗雪は来月行われる遠足の下準備をしていた。
「何を? もしかして彼に告白するの?」
「ち、違いますよ! まぁ、いつかはしますけど! じゃなくて、生徒会雑務のことです」
「ああ、そのことね」
本来であれば、生徒会長、副会長、書紀、会計、雑務と五人なのだが、現在生徒会は四人だった。雑務の席が空いている状態だった。
各役職に就く生徒は生徒会長の一存で決めるというのがこの学校のルールだった。
今年の前期生徒会長は去年に引き続き真雪で副会長、書紀、会計を真雪が選抜した。
副会長、書紀、会計に選ぶメンバーはあらかじめ決めていたが雑務だけは決めていなかった。いや、正確には決めていたが躊躇っていたと言った方が正しい。
去年の文化祭でしか接点のない真雪にいきなり生徒会雑務になれと言われて流が首を縦に振るとは思わなかった。
文化祭以降、流のことをずっと見ていたから分かる。流は表立って行動をするような人間ではない。友達はいないし、いつも教室にいる時は読書をしている。お昼は屋上で一人ご飯を食べてるし、放課後は部活に入ってないのですぐに下校していた。その上、真雪たちに媚びを売ってくることもないし、好感度を得ようともしない。そんな流にいきなり生徒会雑務になりませんかと言っても、いくら真雪が言ったとしても流が首を縦に振ることがないのは目に見て分かっていた。
だから、ずっと我慢していた。
紗雪が優秀そうな生徒を選別して勧めてきても首を横に振り続けてきた。
でも今なら、もしかしたら数パーセントくらいは可能性があるかもしれない。真雪はそう考えていた。
「で、誰を指名するつもりなの? まぁ、姉さんのその顔を見ればなんとなく察するけど」
流はことを考えていた真雪は無意識のうちに頬を緩めてへにゃと笑っていた。
「彼を指名するつもりなんでしょ?」
「うん! 今ならいけそうな気がするの!」
「無理なんじゃない?」
紗雪は即答する。
紗雪は紗雪で流と同じクラスなのでそれなりに流のことを知っているつもりだった。
今日のお昼の出来事で紗雪の中の流の評価は少し上がっていたし、誘うのはいいとしても流が引き受けるかどうかは別の話だ。
「そんなことないと思うわ! きっと龍ヶ峰さんは引き受けてくれるはずよ!」
「その自信は一体どこから来るのよ」
紗雪は呆れた視線を真雪に向つつ、内心でこうなった姉さんは止められないと思っていた。
一度決めたらそれを貫くのが月乃真雪という人物だ。
きっと流が首を縦に振るまでしつこく何度で言い寄るだろう。
「もちろん。その話をするのはもう少し龍ヶ峰さんと仲良くなってからにするつもりだけどね」
「まぁ、それなら可能性はあるんじゃない?」
結局真雪の魅力には誰も敵わない。
真雪の魅力を知ってしまったが最後、後は沼のようにハマっていくだけだ。
何度も真雪と接していれば、いくら流といえど逃れられないだろう。
「で、私は何をすればいいの?」
「今回は紗雪ちゃんは何もしなくていいわ。私がどうにかするから」
「そう。まぁ、それがいいわね。もうこの際、彼のことを落としたら?」
そう言って紗雪は悪戯な笑みを浮かべた。
「そんな簡単じゃないわよ!」
言うは易し行うは難し、である。
それは紗雪も分かっていた。
たいていの生徒なら(花田みたいに)一度真雪に優しくされるとコロッと落ちるのだが、流はどこか他人と一線を引いているような感じがした。
自分の殻に閉じこもっているというか、人と無理に付き合おうとしないというか、普段の教室での様子を見て紗雪はそう思っていた。
(それでも最後には真雪の虜になるだけどね)
クスッと不敵な笑みを浮かべた紗雪は聞く。
「で、保健室でどんな話したの?」
「普通の話よ」
真雪は保健室での流との会話を幸せそうな顔で紗雪に聞かせた。
「よかったわね。少しは進展したんじゃない」
この時、紗雪は本当に幸せそうな顔で流のことを話す真雪のことを見て、真雪の恋を全力で応援すると心に決めた。
☆☆☆
第1章終わり!
第2章は真雪とのデート編です!
お楽しみに〜✨
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