第8話 集合 - perspective C -2

 県道から支線に入りさらに細い脇道へ右折したところが作業場である。中川は門のところに車を止めた。中川と榎本は車を降り、トラックを見上げた。

「もう翼箱は積んじゃったのね。早いわね。」

中川が声をかけると吉田が答えた。

「もう学生チーム時代とは違うよ」

「でもアルミバンじゃないからちょっと不安ですね。大丈夫なんですか?」

中川はベニヤ板の箱を触りながら言った。

「前面の木材は強くしてあるし、実験で積んでみたときも動かなかったから大丈夫だと思う。」

「無事運べたらだいぶ進歩ですね。土台ともさようなら」

榎本が会話に加わる。

「吉田さん、今日の応援なんですけど」

「うん」

「後輩の学生が二人手伝ってくれます。出発は20時ですよね。そのとき乗用車で駅によってピックアップします。それで大丈夫ですか?」

「そうだね。それで大丈夫。応援に来てくれる人は走れるのかな?あと、飛行場には慣れてるの?」

「2年生なのである程度分かると思いますが、絵里子ちゃんは撮影をお願いした方がいいと思います。」

「そうなんだ。分かった。それじゃピックアップしていつもの場所で落ち合ってから行こう。少し飛行場でもブリーフィングした方がいいかもね」

いつものって、どっちかしら・・・後で聞こう、と榎本は頭にメモした。

「もう搭載ほとんど終わっているみたいだから、そのほかの持ち物チェックしますね。行こ、藍ちゃん」


 中川は榎本を促して作業場の座敷の方へ向かった。2人は作業場の座敷に上がり、チェックリストを探した。チェックリストはすぐ見つかった・・・、というか座敷の脇にほかってあった。これは前回から何もしてないな、と中川はすぐ分かった。

「藍ちゃん、まずは埃をたたき出しましょう。このチェックリスト、吉田先輩が昔つくってそのままだから現地でも何でも出来るようにてんこ盛りなの。前回来られなかったけど、SNSに貼ってあった資料を見て心配したとおり。」

「道理で荷物が多いなと思いました。ちょっと聞いても、無ければ無くていいよという感じだったのでほんとにこれでいいのか不安でした。」

「吉田先輩は中途半端な完璧主義者なのよね」

あきれたように中川は笑った。

「ちょっと手分けして、現地で使えなそうなものを弾きましょう。うちのチーム、発発があったの。それで電動工具とかまだ載ってるでしょう?いまそんなの持って行っても使えないのに。」

「分かりました。やってみます。」

 2人はその記載の意図を解くパズルに取り組み始めた。


* * *


吉田と加藤が座敷に戻ってきたので、中川はいつもの調子で言った。

「チェックリスト、まだ更新してないですね。学生の時と同じまま」

吉田は頭をかいている。もうちょっと何か言ってほしいと思ったけど、そのまま続けた。

「Tiny Flippersは現役の時みたいに現地で何とかする方針じゃないから、こんなに細かい道具まで要らないですよね。独断でバツをつけたからみといてください。」

「分かった。ありがとう。」


 吉田先輩は昔からこう。たぶん、今日のことを詰めていて前回のことに手が回ってない。中川は歯がゆかった。吉田はふんふんとリストをめくっている。

「大体大丈夫そうだ。FBWの点検をしたいから、バイパス用の配線とテスターの電池のチェックを追加しておいて。あと交換電池」

「その辺が良くないんですか?飛行前点検も大事ですね」

 FBWは吉田先輩がこだわっている。なるほど、故障時の想定まで考えてなかったわ。でも消耗品はあたりね。操縦系統がダメだったらテストフライト自体中止だからちゃんと動いてほしい。


 それから直した暫定チェックリストを使って、4人はツールと資材を並べてチェックした。中川のペンが暫定チェックリストの最後のチェックボックスを塗りつぶした。

「よし、モノの確認は終わった。箱詰めしてトランクへ格納しよう」

「ハイ」

4人は工具箱・資材箱を乗用車のトランクへ積み込んだ。外は陽が傾き夕暮れになっていた。ヒグラシの声がかなかなかな...と聞こえる。これから涼しくなるのかしら。でもテストフライトのシーズンは終わりね、と中川は思った。

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