第9話 集合 - perspective C -3
4人は座敷に戻った。蚊取り線香の匂いがする。畳敷きの真ん中に車座になって4人は座った。吉田が1枚の紙を取り出し説明を始めた。
「それで今回テストフライトのブリーフィングをします。」
「お、本格的」
「茶化さないで」
「今回からみんなで分かるように資料を用意したんだ。」
吉田が広げたA3程の紙にはスケジュールと、テストフライト時の分担表、滑走の概要が書いてある。中川は我が意を得たりと思った。副代表の時このような資料は作っていたが、当時の設計担当(テストフライトの指揮も兼ねる)はその資料を使いたがらなかった。自分で話すのが好きだったよう。でもチームというのは本来は今日のようにすべきだと中川は思っている。
「今回積み卸しや組み立てもスムーズに出来るよう翼箱も作ったし、機体の組み立て部の修正もして準備した。今までみたいに時間切れで飛ばせない、ということが無いようにしたい。日の出は5:21。組み立てを逆算すると、2:00から組み立てたい。いままで積み卸しで手間取って、3時とかになってしまっていたし、疲れてダレてしまっていた。今日は西村他3人と、学生2人が手伝ってくれる。なので、こういう配置で組み立てたい。」
「俺が入っていないけど、組み立てた方が良くない?」
「今回はこれで行けると思う。そうでないと次回以降も不安。パイロットにはベストパフォーマンスを出してほしい。」
「西村君には実質組み立てリーダーとなってもらうんですね。」
配置の中心がチームメンバーでないことに中川は少し引っかかった。TFの機体については、吉田先輩ほどで無いにしろ、後輩の西村君より分かっているつもりだけど。
「うん。3人に一番うまく指示だし出来るのは西村だと思う。中川さんにはポイントのサポートをしてほしい。僕はその間にFBWを組み立てる。」
「分かりました。」
今回はお手並み拝見といきますか。
榎本が尋ねた。
「学生の2人はどうしたらいいですか?」
「2人は遊撃兵なんだけど、大野絵里子さん?は撮影をしてほしい。作業中は写真を撮れないから・・・」
「分かりました。」
榎本としては、2年の2人にテストフライトの感覚を知ってもらいたい。2人には自分から適宜指示を伝えよう。
「でも組み立てが本番じゃないんだ。今日は走らせて機体に問題が無いことを確認したい。プロペラが推力を出して機体を引っ張ってくれることを確認したい。でも飛ばしてはダメだよ。」
「今回は漕ぐよ。カズさん」
加藤が応え、吉田は加藤をみて頷いた。
中川は思う。加藤君は他のチームだったのに吉田先輩に絶対の信頼を置いている。吉田先輩は抱え込みすぎでちらほら漏れがあるからそんなに信頼したら危ないのに。もう少し投げておいてくれれば先に準備できるのに。といっても現役の時の代表みたいに何でもかんでも放置じゃ困るけど。
「主翼の取り付け角は少し減らして4.0度にする。プロペラピッチはまずはプラスマイナス0。重心位置は前目のMAC34%。主翼のたわみをみるのが大事だけど、水平尾翼のニュートラルの点検も今回は大事。」
中川はスマホで飛行場付近のスポット天気を確認していた。今から10時間以内に雨の降る兆候もないし、風も弱い。というか、これだとほとんど無風で全力で走らないとだ。
「今日、風弱そう。走るの大変そうですね...」
吉田は応えていった。
「グランドクルーだけど、ウィングフォロー役は、中川と西村にお願いしたい。僕はテールランナーをやる。翼紐を引く合図は分かるね。走り出しでそのフライトが決まるからよろしく。」
中川は予想した通りの役について、何度もやったシミュレーションを思い出していた。分かっていますよ。吉田先輩。
* * *
作業場の明かりが消され、トラックのディーゼルが始動する音が響く。
「ブレーキチェック、荷台監視お願いします!加速・・・ブレーキ!」
「OKです。固定されています。」
「では出発しよう!」
チーム「Tiny Flippers」は飛行場へ出発する。
* * * * *
「夜と昼の狭間で 2 組み立て」に続く。
テストフライトの様子は、人力飛行機製作集団CoolThrust様のHPを資料としました。
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