第3話 集合 - perspective A -3

 4人は座敷に戻った。蚊取り線香の匂いがする。畳敷きの真ん中に車座になって4人は座った。吉田は1枚の紙を取り出し説明を始めた。

「それで今回テストフライトのブリーフィングをします。」

「お、本格的」

「茶化さないで」

「今回からみんなで分かるように資料を用意したんだ。」

吉田はA3程の紙を広げ、皆に見えるようにした。そこにはスケジュールと、テストフライト時の分担表、滑走の概要が書いてあった。

「今回積み卸しや組み立てもスムーズに出来るよう翼箱も作ったし、機体の組み立て部の修正もして準備した。今までみたいに時間切れで飛ばせない、ということが無いようにしたい。日の出は5:21。組み立てを逆算すると、2:00から組み立てたい。いままで積み卸しで手間取って、3時とかになってしまっていたし、疲れてダレてしまっていた。今日は西村他3人と、学生2人が手伝ってくれる。なので、こういう配置で組み立てたい。」

「俺が入っていないけど、組み立てた方が良くない?」

「今回はこれで行けると思う。そうでないと次回以降も不安。パイロットにはベストパフォーマンスを出してほしい。」

「西村君には実質組み立てリーダーとなってもらうんですね。」

「うん。3人に一番うまく指示だし出来るのは西村だと思う。中川さんにはポイントのサポートをしてほしい。僕はその間にFBWを組み立てる。」

「分かりました。」

榎本が尋ねた。

「学生の2人はどうしたらいいですか?」

「2人は遊撃兵なんだけど、大野絵里子さん?は撮影をしてほしい。作業中は写真を撮れないから・・・」

「分かりました。」

「でも組み立てが本番じゃないんだ。今日は走らせて機体に問題が無いことを確認したい。プロペラが推力を出して機体を引っ張ってくれることを確認したい。でも飛ばしてはダメだよ。」

「今回は漕ぐよ。カズさん」

 加藤が応えた。吉田は頷いた。

「主翼の取り付け角は少し減らして4.0度にする。プロペラピッチはまずはプラスマイナス0。重心位置は前目のMAC34%。主翼のたわみをみるのが大事だけど、水平尾翼のニュートラルの点検も今回は大事。」

「今日、風弱そう。走るの大変そうですね...」

 スマホをみながら中川がつぶやいた。中川は鋭い、今日吉田がそう思ったのは2度目である。

「グランドクルーだけど、ウィングフォロー役は、中川と西村にお願いしたい。僕はテールランナーをやる。翼紐を引く合図は分かるね。走り出しでそのフライトが決まるからよろしく。」

吉田のなかで機体挙動・クルー連携のイメージがまとまり始めている。


* * *


作業場の明かりが消され、トラックのディーゼルが始動する音が響く。

「ブレーキチェック、荷台監視お願いします!加速・・・ブレーキ!」

「OKです。固定されています。」

「では出発しよう!」


チーム「Tiny Flippers」は飛行場へ出発する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る