第2話 集合 - perspective A -2

 最後のラッシングベルトを巻き上げているとき、門のところに乗用車が止まった。降りてきたのは二人の女性である。TFチームメンバーである中川と榎本は、それぞれ、中川は吉田の1年後輩、榎本は加藤と学生チーム交流会で知り合い、またそれぞれTFの立ち上げの連絡に応じてTFに参加した。

「もう翼箱は積んじゃったのね。早いわね。」

 中川が言う。吉田はちょっとしてやったりと思う。学生時代、積み込みは一大イベントだったのだ。同じ出身チームの中川が評価してくれるというのは自尊心をくすぐった。

「もう学生チーム時代とは違うよ」

「でもアルミバンじゃないからちょっと不安ですね。大丈夫なんですか?」

「前面の木材は強くしてあるし、実験で積んでみたときも動かなかったから大丈夫だと思う。」

「無事運べたらだいぶ進歩ですね。土台ともさようなら」

榎本が会話に加わる。

「吉田さん、今日の応援なんですけど」

「うん」

「後輩の学生が二人手伝ってくれます。出発は20時ですよね。そのとき乗用車で駅によってピックアップします。それで大丈夫ですか?」

「そうだね。それで大丈夫。応援に来てくれる人は走れるのかな?あと、飛行場には慣れてるの?」

「2年生なのである程度分かると思いますが、絵里子ちゃんは撮影をお願いした方がいいと思います。」

「そうなんだ。分かった。それじゃピックアップしていつもの場所で落ち合ってから行こう。少し飛行場でもブリーフィングした方がいいかもね」

「もう搭載ほとんど終わっているみたいだから、そのほかの持ち物チェックしますね。行こ、藍ちゃん」

 中川は榎本を促して作業場の座敷の方へ向かった。吉田はぼんやりそれを眺めながら、次の積み込みは何だっけ、と思った。

「次は何だっけ?カズさん」

「そうだな。トラックに積む他のやつを出しておくか。分かるか?」

「機体は乗せてあるから、組み立てに使うやつと風見とかかな。主翼の台は分かる。脚立とかどれ持って行くの?」

「じゃあちょっと指定する。この前、アレがあった方が楽そうだったんだ。応援で思い出したけど、後輩の西村が3人くらい連れてきてくれる。西村は前回来たから分かるよね。」

「分かるよ。結構てきぱき指示してくれて入ってくれないかなーと思う。でも西村さんもカズさんだったね。ノリさんにするかな。」

「おまえすぐあだ名つけるのな・・・」


 吉田と加藤は、主翼台、胴体Y字、脚立は3段を二つ、手押し車、風見棒などを見繕い、作業場から運び出した。トラックの空いている隙間をみつけて乗せる。またゴムバンドでしっかり括り付ける。それが終わってから座敷に向かった。


(挿絵:翼箱を搭載したトラック、作業場外観、近況ノートより)

https://kakuyomu.jp/users/y-kunie/news/16816927861530977459


「チェックリスト、まだ更新してないですね。学生の時と同じまま」

 中川が不満げに言った。吉田は頭をかくしかない。

「Tiny Flippersは現役の時みたいに現地で何とかする方針じゃないから、こんなに細かい道具まで要らないですよね。独断でバツつけたからみといてください。」

「分かった。ありがとう。」

 吉田は後輩である中川に頭が上がらない。大体見落としていた点を拾ってくれる。中川は学生現役の時チームの副代表だった。本当は代表をやりたかったと吉田は知っている。ちなみに吉田は現役の時はヒラである。それなのに今TFを主催しているのが時々不思議に思う。

 気を取り直して吉田はチェックリストを眺めてみた。確かに電動工具やコンパネ板などは流石に要らないな・・・バツをつけたものは流石要点を得ている。吉田は今機体に感じている不安箇所を思い出しながら、必要になりそうなツールをチェックした。

「大体大丈夫そうだ。FBWの点検をしたいから、バイパス用の配線とテスターの電池のチェックを追加しておいて。あと交換電池」

「その辺が良くないんですか?飛行前点検も大事ですね」

流石鋭い・・・、吉田は舌を巻く。


「買ってきたものって何だっけ?」

「まだまだ暑いですからね。スポーツドリンクと水と。あと熱さまシート。紙コップもあります。」

榎本が答える。

「エノッチ流石」

「当然でしょ。うちのチームで競技会会場で倒れちゃった子がいて、もうそういうの嫌だし。あとは消耗品ですね。電池とか。」


 中川のペンが暫定チェックリストの最後のチェックボックスを塗りつぶした。

「よし、モノの確認は終わった。箱詰めしてトランクへ格納しよう」

「ハイ」

4人は工具箱・資材箱を乗用車のトランクへ積み込んだ。外は陽が傾き夕暮れになっていた。昼がいくら暑い日であっても、今聞こえてくるヒグラシの声が夏が終わりつつあることを知らせていた。


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