兄の心配
シヨゥ
第1話
「将来のことを考えても仕方がないよね」
あっちへふらふら、こっちへふらふら。そんな弟をやっと捕まえた。そしていい歳なんだからと説教してみたらそんなことを言われた。
「いやちゃんと考えないといけないだろ。そうしないと歳をとったら食っていけないぞ」
「大丈夫だって。追い込まれたらやるよ。追い込まれてもいないのにそんなガチガチに固めた生き方してもつまらないって」
取り合う気もないらしい。
「それに生き方なんて人それぞれだろ?」
「そりゃそうだけど」
「同じことやっても同じ結果にならなくて、結局勝者と敗者に分かれる。だったら同じことなんてやらないで好きに生きたほうがいいって。それで負けたとしてもきっと清々しいよ」
「なんでだ?」
「過程に文句を言えないからさ。『なんで同じようにやったのに』って文句を言うより、違うことやって失敗して『そりゃあ負けるよな』って笑ったほうが清々しいだろ?」
「たしかに」
「だろ? それにそんな破天荒なことは若いうちしかできないんだよ。体力が落ちて、余計な贅肉がついた心と体じゃ挑戦すらできなくなるんだ」
弟の言うことはもっともらしくて何も言えなくなる。
「だから身軽なうちにいろいろと挑戦するんだ。ふらふらしていると思われているのは百も承知。それでも僕はやるよ」
そう宣言する弟にはかっこよく見える。
「わかったわかった」
だからその生き方を認めるしかない。
「だけど退き際はちゃんと見極めろよ」
それでも一言言ってしまうのは心配ゆえだ。
「分かっているって。それじゃあこの辺で」
本当に分かっているのか。いや分かっていないだろう。その逃げるような姿勢はきっとそうだ。
「頑張ってこい」
そんな弟を送り出すのも兄の仕事だろう。
「ああ。行ってくる!」
背を伸ばして部屋を出ていく弟。泣きついてくるか、それとも錦を飾るか。今から楽しみである。
兄の心配 シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます