第34話 次の被害者
三鷹さんとつばめさんの二人は、家で二人で待っていたにも関わらず、特に話はしていなかったらしい。しいていうなら、夕食がまだだった三鷹さんの腹が鳴ったらしく、かといって、十七歳の少女を一人で家で待たせるわけにもいかず、と空腹を我慢していたところ、つばめさんが生姜焼きを作り始めたらしい。
僕と五味教授が帰るとちょうど三鷹さんが生姜焼きの最後の一口を食べているところだった。
「ということで、天馬さんからは帰ってる途中でメールの返信があって、明日、線香をあげに行ってくることにしました」
「一人でも大丈夫なのか?」
三鷹さんの言葉に五味教授が肩を落とした。
「子ども一人で向かわせることは心苦しいですが、今回の〝ハイダー〟の能力をくらい、正気を保っているのは糸魚川くんだけです。もし、我々が一緒に行って、淡田天馬さんが今回の〝ハイダー〟で能力を使ったとしたら、むしろ、パニックを起こした我々が糸魚川くんに危害を加えかねません」
僕が一人で行くかどうかは五味教授と帰りの車の中で散々話した。五味教授も三鷹さんも僕に危険な目にあってほしくないと思っていることは分かっている。二人が僕のことを心配するのも分かる。でも、怖いからついてきてと言って、どちらかを連れて行った時の最悪の結果を考えると、やはり僕は一人で行かなければいけない。
それに、天馬さんが〝ハイダー〟だろうとなかろうと、僕は彼と一対一で会うべきだ。
彼が感じた怒りと僕の感じた怒りが同じものだとするなら、二人だけの時でしか話せないこともあるだろう。同じことを思ったのか、天馬さんからの返信のメールには、明日古布さんはいないという内容の文があった。
彼は僕と一対一で話したがっている。
「あ、五味教授。もし、〝ハイダー〟を見つけたら、どうするんですか? 消滅のさせ方とかありますか?」
僕の質問に五味教授は眉尻を下げて、首を横に振った。
「実は、これと言った消滅のさせ方はないんです。もう刑務所から出られないから罪は犯せないと言って、それを信じて消滅した〝ハイダー〟などもいますが、それには〝ハイダー〟が罪を犯して、刑務所にいれられないといけませんし、すぐにどうにかできるというわけではないのです」
婦女暴行事件の犯人だった三鷹さんの幼馴染の都築さんの例だろう。はったりで〝ハイダー〟が消滅するのなら、それに越したことはないが、具体的な方法が分からないと、どうしようもない。
「例えば、〝ハイダー〟を捕まえて、動けないようにしたりするのはどうですか? もう動けないと分かったら、〝ハイダー〟も消滅するかも」
「その実験をやった人が海外にいます。その結果、その時は完全に逃げることが不可能だと〝ハイダー〟が思わないと消滅はしなかったそうです。例えば、聴覚の能力を使う〝ハイダー〟で声を使い、相手を自分の意のままにできる〝ハイダー〟はコンクリートで首から下まで固められて、ようやく消滅したみたいです」
過激すぎる。そんなことをしないと〝ハイダー〟は消滅しないのか。
僕はちらりとつばめさんを見る。彼女はキッチンで使用済みの食器やフライパンを洗っている。〝ハイダー〟をどう消滅させるかなんて、彼女に聞かせる話ではない。
〝ハイダー〟はもうすでに死んでいる人間の身体に憑りついている。だからといって、なにをしても許されるというわけではないはずだ。
「集団パニックに関係があるのなら、俺が事情を聴くと言って、警察署に連れて行くことは可能だ。ただ、刑務所に入れるとなるとまた別問題だ」
集団パニック起こしていると僕らが分かっていても、〝ハイダー〟が能力を使って集団パニックを起こしましたなんて、誰も信じてくれないだろう。刑務所に行くには証拠がないとダメだ。
答えは出ない。
結局、僕らの話はまず先に〝ハイダー〟が誰か分からないといけないという結論に行きつき、僕らは答えを先延ばしにすることにした。
いったん話をやめようとすると、三鷹さんが「待っている間に調べ物をしていたんだが」と言い出した。彼に促されて、僕と五味教授は五年前の事件の資料が広げられているリビングのテーブルの傍に腰を下ろした。
「今回、殺されている人間の特徴を考えてみた。全員が全員、五年前の連続誘拐殺人事件の五人目の被害者の淡田恵未子の死体の写真か動画を撮って、第三者が見える場に発表した」
三鷹さんは相変わらず厳しい顔のまま言った。
「それを踏まえて、次に狙われるかもしれない人間を見つけた」
大発見でもあるのにも関わらず、三鷹さんの表情は険しいままだった。そして、彼は五年前の資料に載っていたとある人物を指さした。
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