第31話 緊張のメール


 連絡先にはメールアドレスが載っていたので、僕はまずメールの本文に頭を悩ませることになった。三鷹さんも五味教授も率直でいいと言っていたので、実際、社会に出て働いている大人がそう言うのなら間違いないと、僕は五年前の事件の生き残りである糸魚川だということと、被害者の会があることを知って、話を聞きたいと思ったことを書いて、送った。


「連絡、ちゃんと帰ってくるかな……」


 メールを送信して、やってきたのは不安だった。


 あれから五年も経っている。今更、唯一の生き残りである僕が現れて、話を聞かせてほしいなんて言ったところで「偽物では?」と思われはしないだろうか。そもそも、僕が被害者の会なんてものに参加していいのだろうか。


 被害者の会に参加しているのは、僕より前の犠牲者八人の遺族たちだ。運よく生き残ってしまった僕のことを彼らはどう思うのだろう。


「あぁ、ダメだ……緊張してきた。……つばめさん、手を握ってくれない?」

「ダメだよ、響くん。能力に頼ったら!」

「だよね……」


 手厳しかった。手を握る代わりに彼女は昼頃作っていたゼリーを持ってきた。青りんごのゼリーを食べて、美味しさにメールのことを忘れているとメールの返信が来た。


『被害者の会、会長の宇崎と言います。

 糸魚川さん、連絡ありがとうございます。被害者の会について話を聞きたいということでしたので、今日の二十時から市民館の一室で被害者の会の月一の会合を開く予定なのですが、そこに参加していただけたら、お話しができると思います。』


 まさか、今日被害者の会の集まりがあるとは。


「二十時って、あと四十分後ですよ?」


「車は五味さんに出してもらった方がいい。俺は顔が割れてる可能性がある」


「分かりました。車を出しましょう。つばめと三鷹さんは待機していてください。糸魚川くん、行きましょう」


「はい!」


 僕と五味教授は丸い車に乗り込み、メールで宇崎会長が指定していた市民館の住所へと向かった。


 是非、参加させていただきたいですと返信すると、宇崎さんから「お待ちしてます。」と返事が来た。


「会長は宇崎さんと言う方なんですね」


 リストにも名前があった。五年前の連続誘拐殺人事件の一人目の被害者、当時女子高校生だった宇崎うざき桃華とうかさんの父親の宇崎うざきしゅうさんだ。


 死体の写真や詳細などは五味教授が必死に僕やつばめさんから隠そうとしていたが、リストの被害者の欄には軽く死体の状況が書かれていた。


 一人目の犠牲者宇崎桃華さんの死体は、彼女の実家の近所にある彼女が通っていた小学校のジャングルジムの中にめちゃくちゃな状態で突っ込まれていたらしい。


 おもちゃの中に人形を無理やり上から詰め込んだかのような状況で手足も首も胴体も生きていれば曲げられないような状況になっていたという。幸いその死体を発見したのは小学校に通う子供たちではなく、朝、学校に来た教頭先生だったらしい。


 他にも五年前の連続誘拐殺人事件の死体はまるで芸術家が好き勝手にシンボルを作ったような死体遺棄の現場で、事件に関係のない安全な位置にいる人々からの好奇心を駆り立てた。


 五人目の犠牲者の淡田恵未子さんの死体も、十字架に飾られていた。


 僕は、運よく助からなかったら、いったいどんな風に殺されていたんだろう。


 ふとそんなことを考え、義眼を隠すように右手を右の瞼の上に添えて、息をゆっくりと吐いた。

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