3.ルークの秘密
「おや、ルークの気配だと思ったが違っていたか?」
「校長先生……!!」
ルークは安心感から、たまらず校長にすがり付いた。
「校長、今まで見たことのない魔物です。
あまり前にはでないでください」
剣と盾と鎧をフル装備した剣士科の教師が、ルークと校長、バァンを庇うようにジニアスの前に立ち塞がり、スラリと伸びた銀色に輝くシンプルな長剣を構えた。
「先生!あれはジニアスなんだよ!!殺しちゃダメだ!!校長先生、何とかしてよ!」
ルークは今にも泣き出しそうな声で叫んだ。しかし、血が付いた男物の肌着を着ている少女に、教師陣は不審な目を向ける。
「見かけない少女だな、部外者か?まさか、あの魔物の手先とかではあるまいな?」
そう言ったのは教頭だった。下手に口答えをしない方がいいだろうか?ルークはぐるぐると考える。
「教頭先生、我々は教師だ。この少女の様子で嘘をついているかどうかなんて、子どもを導く立場の我らならすぐ判断できるでしょう」
校長は、ルークの頭を優しく一撫でしながら皮肉を込めて言った。
「校長生徒……!信じてくれるんですか!?」
「先生方、あの魔物には手出しをしないように」
校長は教師陣に指示を出す。
しかし、知らない少女に妙に馴れ馴れしく話し掛けられ、流石の校長も少し戸惑う。
だが、その少女の所作には見覚えがあった。
自分が普段から気に掛けている、あの生徒と姿が違うだけでそっくりそのまま同じだった。
校長は顎に手を当て、うーんと考え込む。
ジニアスはその間にもずんずんと迫ってきており、剣士科と戦士科の教師と一触即発である。
「こ、校長!もう相手の攻撃の射程範囲内です!これ以上は!!」
ジニアスが腕を振り上げた瞬間、校長がパチンと指を鳴らした。
ズン!とジニアスがうつ伏せに倒れこんだ。
「ジ、ジニアス!!」
ルークが叫ぶ。
「大丈夫、眠らせただけだ。
さあ、今のうちに地下の魔方陣に縛りつけておいてくれ」
校長はそう言って剣士科と戦士科の教師にジニアスを運ばせた。
「先生、ありがとう……!」
ルークは校長にぎゅっと抱き付いた。
「君、大丈夫だったかね?」
校長は改めてルークの顔を見た途端、ある事に気付き目を丸くした。
「似ている……!」
ルークとバァンは魔法使い科の主任の部屋に連れて来られた。
バァンは何となくそのまま、成り行きで着いてきてしまっていた。
主任先生は魔法薬学や治癒魔法にも長けているため、この部屋は医務室も兼ねていた。
ルークは裸にされ、校長と主任先生に身体の隅々まで調べられた。
「校長、驚きましたねー。魂はルーク君なのに身体は完全に10代半ばの女の子ですよー!」
主任がテンション高めに言う。
「やはり、君はルークなんだね」
「はい……。先生、ごめんなさい……」
ルークはマルディシオンを飲んでしまった事を正直に話し、うつ向いた。それに対して校長も、ルークにきちんと寄り添ってやれなかった事を謝罪した。
「そんな、校長先生は謝らないでください……。
あ、あの、やっぱりこんな姿になったのって、薬の呪いなんですよね……?」
「そうとも言うし、違うとも言えるかなー」
主任先生が明るく答えた。
「ジニアス君が飲んでた瓶を拾って調べてみたんだけどー、例のあの薬、マルディシオンには飲んだ者を魔物に変えてしまう呪いが含まれてたんだよねー。
もちろん、何やらかんやらがドドーンとパワーアップする効力もちゃんとあったけどね」
派手な身振り手振りで主任先生は説明を続ける。
「普通ならジニアス君みたいに魔物になっちゃうんだけど、ルーク君の場合、何か元々魂に封印の呪いみたいなのがかけられてたっぽいんだよね。
それがマルディシオンの呪いと複雑に絡み合って、お互いの呪いの効果が中和されてるみたいなんだよねー。
マイナス×マイナス=プラス的な状態かな?」
「俺が元々呪われてたって事ですか!?」
ルークは身を乗り出した。
「ああ、魂の中に綺麗に折り畳まれてしまっていて全く気付いてやれなかったんだが、これで納得できたよ。
ルークが今まで魔法を使えず、落ちこぼれだったのはそれのせいだったんだ」
校長が腕を組み、壁にもたれ掛かって言った。
ルークは困惑した。呪いをかけられた記憶等全く無い上に、そんな事をされる程誰かに酷いことをした覚えもない。逆はともかくとして。
主任先生曰く、かなり年季の入った呪術らしく、代々受け継がれてきているとの事。
「古過ぎて今はもう使える人、誰もいないよこれ。貴重だよー!」
「う、嬉しくない……」
ルークはげんなりして肩を落とす。
「でも呪いは中和されて効果は無くなっているはずなのに、どうして俺は姿が変わってしまったんでしょう?」
「マルディシオンの『姿を変える』呪いの作用で、封印の呪いを一番最初にかけられた人物が表面化してるみたいだねー。
ルーク君のご先祖様だねー、感動ー!」
主任先生は顔を高揚させた。
「ルーク、何かその人物について心当たりはないのか?」
校長はルークの顔を覗き込んだ。校長は続ける。
「気付いていないかもしれないが、ルーク。
今のその姿、あの石像に瓜二つだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます