推死活

@uisan4869

推死活

死にたい。

いtからこんな事ばかり考えるようになったのだろうか?小学生の時、お腹が痛くて授業中におもらしをしてそれ以降いじめられるようになったときから?中学生の時、ずっと好きだった同級生から告白された。だが、実はそれが罰ゲームで、一週間後に別れ、その翌日から勘違い女のレッテルを貼られてクラスのカースト上位の女の子たちから陰湿ないじめを受けた。高校生の時、学校に内緒でアルバイトをしているのをよりにもよって学年主任の先生に見つかってしまった。後日、生徒指導室に呼ばれた私は謝罪し、なんとかバイトを続けさせてもらうよう交渉するもただでは話は通してはもらえなかった。学年主任は私に身体を要求し、逆らえば自分の一言で私を退学させることも簡単だと脅し、当時の私はただ怯えるだけで何も出来ず、地獄の三年間を過ごしてきた。

私は学校に通い始めて合計12年間。常に感情を押し殺し、誰にも相談出来ず悪意に晒されながら必死に生きてきた。どれも学校を卒業すれば終わることだと思っていたから。だけど、そんな簡単な話ではなかった。

高校を卒業してすぐに渡しの両親が不慮の事故で生命を落とした。唯一の味方だった両親を突然失い、私はどん底に落とされた。幸い両親の残してくれた保険金のおかげでかろうじてだが、生活はしていけていたが、それでも社会の何も少ししかわかっていない子供だった私はなんとかしようと高卒でも雇ってくれる会社を探し見つかったのは風俗店だけで、むしろ学がなく高卒の私にはそこしか働ける場所がなかった。同級生が華やかな大学生活を過ごしている中、私はどす黒い人間社会に片足をツッコみ毎日を必死で生きていた。何度も楽になりたいと思った。だが、両親が残した高校最後のお弁当に入っていた手紙「がんばれ!」がいつまでも私の心に刻み込まれていてまるで呪いのように現実から引き離してはくれなかった。

就職してから約半年後、指名された客からとある話を聞いた。話によると誰でも簡単にお金を稼げる仕事があることを聞いた。怪しい仕事であることは分かっていたが、それでもこんな生活から抜け出したかった私は藁にも縋る思いでその仕事をすることにした。紙に住所とそこにいったら見せるようにと真っ白な台紙に黒と赤の2本線が引かれた名刺を手渡された。

翌日、電車とバス乗り継いで私はその名刺を持って渡された住所の場所に向かった。その場所は今は廃業したクラブの跡地のようで扉の前にはTシャツの袖から薄っすらと入れ墨が見える強面の男の人が立っていた。私は恐る恐る近づき声をかけた。

「お嬢ちゃん、ここは君のような若い子が来るような場所じゃないよ」顔に似合わず心配してくれる男に私は少しの悪気を胸のうちに抱きながらも渡された名刺を見せてみた。するとその男は驚いた表情で私の顔を二度見すると苦々しい表情で言った。

「いいか、お嬢ちゃん。悪いことは言わない。ここは君のような子が来る場所ではない。分かったらさっさと引き返せ」

「・・・だめなんです。私はすぐに今の生活から抜け出したい。だから、怪しいと分かってもここへ来ました」男の忠告に首を横に振り言った。すると男はふきため息を一つつき威嚇するような怖い顔で私に言った。

「忠告したからな、この扉を通ればもう後には戻れないぞ?」

「・・・覚悟はしています」私の決意した表情に男も仕方なく扉を開け、中に招き入れた。外は昼間だというのに中は一切の光も拒むように真っ暗で足元の薄暗い光だけが頼りだ。案内されるまま奥へと進み、カーテンのかかった部屋の前で目の前を歩く男の足が止まった。

「ここで待て。すぐに呼ぶ」

そう言うと男はカーテンをくぐり中へと入っていた。僅かに垣間見えた部屋の中には良くは見えなかったが人の気配があり、きつく甘い香りが風にのって私の鼻をくすぐった。五分部屋の前で待たされてようやく部屋の中から案内してくれたあの男とは別の男が現れた。

「やあ、またせたね。どうぞ、中に入って」にこやかな笑顔で私の手を取って中に引き入れた。部屋の中は先程鼻をくすぐったあの甘い匂い充満しており、男の他に私よりも少しばかり年上に見える女性が数人と黒いスーツに身を包んだ他の男が二人いた。案内してくれたあの男はもうこの部屋にはいないようだ。手を引かれ、L字型のソファに半ば無理やり腰を下ろされた。

「話は聞いたよ、今の生活を変えたいんだって?ならこの仕事は君にはうってつけだ」どこか胡散臭い雰囲気を醸し出し、チャラついた格好をしているその男は一枚の写真と封筒を持ってきた。「これは?」と聞くと男は笑顔で答えた

「これは仕事の前金と君がやる仕事の相手。これを成功させれば追加で報酬を払うよ」封筒の中を確認すると明らかに百万円は余裕で入っているであろう厚さのお金の束が入れられていた。こんな大金、持ったこともなければ触ったこともなかった私は大金の圧に思わずたじろいた。

「心配しないで、これは前金だけどいわば仕事を頼む依頼料みたいなものだから。それと仕事の内容なんだけど、君に頼みたいことは唯一つ」淡々と進められる話になんとかついていき耳を傾ける。

「この写真の男を応援して推しになってほしい。ただそれだけ」推しとは例えばアイドルなどを応援する時グループだと特定の人物を応援する活動の事を推し活という。今までアイドルやテレビに出ている有名人などを追っかけたりしたことがなかった私には同級生が何故アイドルを尊いなど傍向きな思いを馳せるのかいまいち理解できなかった。そんな私が推し活とは怪しい仕事だと思っていたが存外見当違いだったようだ。

私は仕事を引き受け、前金として結局二百万円という大金を一瞬にして手に入れた。

翌日、メールに送信されていた住所に趣いた。そこは古びたライブハウスのようで、店先のボードには出演者として仕事相手の所属するグループ「ラルフ」のライブ時間が書いてあった。時間は12時から約30分の間だけ。時間は既に12時近くに迫っており私は急いでライブハウスの中へと入っていった。中ではステージがライトアップされてはいるものの客はまだ一人も入っていない。それもそのはずだ。このステージは本来、開場時間は一時から。この時間にラルフとハウス関係者以外いることの方がおかしいのだ。携帯の画面が12時を示すとどこからともなく音楽が鳴り響きステージの端から華やかな衣装に身を包んだ仕事の相手「ラルフ」のメンバー一人だけが笑顔で現れた。確か話に聞いていた「ラルフ」のメンバーは全部で五人いたはず。なのにステージにはたった一人しかない。その光景の異様さに私はどこか既視感を感じていた。

「あれ、今日はお客さん一人入ってる!嬉しいなぁ、良かった最後のステージが無観客だったらどうしようかと思ってた。

たった一人しか登場していないにも関わらずライブハウスは爆音で彼らの代表作が無情にも流れ続けた。

聞いていた話とは違い、どうすればいいのか、同反応すればいいのかわからなくなった私に対し、彼は一人でも私一人しかいないフロアに頭をさげ歌い始めた。彼は俗にいう地下アイドルというものらしい。世間一般に広まっているアイドルはいわば一握りの天才達。凡才である彼らはこうして光の当たらない地下のステージで光が当たるその日を待ち望んで今日も歌っている。彼もその凡才の一人だが、今の彼はそれよりも酷い。素人目線で、アイドルのアの字も知らないような私だが、彼の歌も踊りも大して上手くはないことだけははっきりしていた。だが彼は30分のステージを一人でもしっかりとやり遂げて見せた。歌もダンズも大して上手くはないのに、必死で目の前のお客を楽しませようとする彼の姿にいつの間にか私の心は惹かれていた。

「えー、本来五人でやるはずでしたこのステージでしたが、急遽僕だけしかステージに上ることが出来なくなり申し訳ありませんでした。僕の拙いステージでしたが本当にありがとうございました」深々と頭を下げる彼に私は精一杯の拍手で応えた。目からは何故か涙が溢れ心は彼の歌う姿で満たされていた。

「こんな僕だけのステージで泣いてくれるなんて・・・お客さんは優しい人なんですね」

「優しくなんかないんです。今まで地獄のような毎日を送ってきて、自分の事だけで精一杯で他人に気を使うなんてこと、出来なかった。いじめられる度に自分の殻に閉じこもって耐えることだけが唯一の逃げ場だった。だけど、あなたは逃げられたはずステージを逃げずにやりきった。私にはあなたは眩しすぎる・・・」

「僕だって逃げたい時はあります。だけど、目の前の僕たちの歌やダンスを見て聞いてくれる人を前に背中を向けて逃げるようなことはしたくない。ファンの人と死ぬまで一緒にいたいから」私の涙に感化されたのか彼の目にも一筋の涙が流れた。始めはアイドルの推し活をしろと言われてどうすればいいのかわからなかった。けど、初めて見て聞いて分かった。これが同級生たちが感じていた尊いなのだと。

「私にあなたを推させてください。死ぬまで側であなたを推させてください」

「ほんとに?嬉しいです。なら・・・ほんとに死ぬまで一緒にいてください」


その日のニュースでとあるライブハウスで男女の遺体が二名発見された。一人は以前このライブハウスで地下アイドルとして活動していた男性と18歳で風俗嬢として働いていた女性だった。


「何故、何も知らない彼女を・・・」

「自殺願望を胸に抱えた女なら夢っていう呪縛とヤクでラリった奴と無理心中させるにはちょうどいいだろ。二人も幸せだったろうよ、最後に良い思いができて・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推死活 @uisan4869

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ