推しが天から降ってきた

@shoko_2022

第1話 どうやって推しと出会いましたか?

 皆さんどうやって推しと出会いましたか?

 私の場合、本当に天から降ってきたような出会いでした。



 昨年の12月のある日、

 定期テストの成績のことを夫と話していた中学生の子供が、30分以上だんまりで、その後、突然泣き出して絞るように言い出したのが、


が、小学生の頃からあった」

「学校で友だちに、みんなの前で勉強のできないことを揶揄われるのが嫌だ」


 人一倍朗らかで、いつも楽しそうにしていると思っていた子の

 という言葉に衝撃を受けて頭の中が灰色になって、固まったような感じになると同時に、ほんの数時間前に聞いた、2曲の歌詞が頭によぎった。


 遡ること数時間前、

 夕食後にスマホで、のんびりYouTubeを私は見ていた。

 ストリートピアノの演奏が好きで、その日もお気に入りの演奏家の動画を視聴していた。

 視聴していた動画の続きに出てきた曲をたまたま聞いた。その続きの動画にも同じグループの別の曲が出てきて、なんとなく続けて聞いていった。意識したわけではなかったが、どこかで続けて聞きたいと思ったのかもしれない。



 数時間後、冒頭のような出来事が起きて、歌詞が蘇ってきた。それはそのまま私が子供に伝えたい言葉だった。


「君はパパとママの最高欠作でスターなんだよ。そうじゃないなんて誰にも言わせない。俺らには夢があるし、それを追いかける権利もある」


「運命と偶然は一緒の意味かもしれない 僕が君といることはたまたまであるほど運命だ」



 そんな不思議な出会いをしてから、私は貪るように彼らの作品を聞いていった。

 デビューから今までの作品をほぼ公開してくれていたので、次々と彼らの作った作品を聞き彼らに、はまっていった。


 ほんの1週間後には、転げ落ちるようにというより、飛び込むようにしてファンクラブに入り、DVDとCDを買っていくことになる。


 どっぷり沼にハマったのだ。それも気分の良い抜けられない沼に。


 と私の出会い。



 私は、ずっと52歳で人生終わるかもと思っていた。

 私が幼稚園の時、私の祖母と祖母の妹が相次いで52歳で亡くなった。石原裕次郎さんも美空ひばりさんも52歳で亡くなった。母も52歳が近づくにつれて体調が悪くなった。母がその歳を乗り越えた時、その順番が自分に来たのかもしれないと思った。


 52歳までに何をするか、何をやらなければならないのか考えてきた。子供産んでからは、特に自分が52歳の時、子供たちが何歳だから、それまでに仕込めることや教えておきたいことをそれぞれの子にどれだけ伝えられるか、ずっと考えて子育てしてきた。


 でも、去年その歳を私も乗り越えた。

 乗り越えるまでに、家族にも変化があった。

 40代で義母の死があり、義父が抜け殻になっていき、介護が必要になった。このことで、これからの人生どうしたいか、どう生きるかを突きつけられた。

 もちろん何も考えなくても、日々の暮らしは何となく過ぎていく。そうしているうちに、転がり落ちるように介護度が上がって行く義父に引きづられた。同時に子供たちが大きくなって、手が離れていく。その一方で自分の人生、こんなんで良かったんかなと、もう終わりが近づいてきたぞと。なんかやりたいこと残してないかと頭の隅で囁く、もう一人の自分が出てきた。


 そんな時に出会った、現れたさん。

 

 出会いから、衝動的に行動する自分が現れた。

 自分のために使うお金。やりたいことをする時間。夫に、子供に、義父に、実の両親に遠慮していた自分を置いていく。

 さまざまな初めてを経験する勇気をもらうことができた。

 これを書くこともそのひとつ、思うこと、感じることを書くのが意外に楽しいことに気付かされた。

 普段から、色々考えていても、言葉にして残すことはしてなかったから。

 曲が、詩が、語りが色んなものにがんじがらめになった私の心を解放してくれていく。


 介護中に 、

 汚物にまみれた床をひたすら掃除しても。

 棚から全部床に衣類をぶちまけられようとも。

 義父には、私が知らない別人になっていても。

 私の仕事が、なぜか山奥のサル山のサルの監視になっても。

 心の中で、推しの曲の歌詞と自分の過去の恋愛の答え合わせをしていれば、そんな嫌な時間でも気にならずにあっという間に終わる。


 仕事中に、

 上司にヒステリックに叱られても。

 客に理不尽に怒鳴られても。

 推しの曲が心の中で流れれば、気分はそれほど落ちずに済む。そして、次の仕事に向き合える。


 夫との感覚のズレも。

 次の推し活の予定を考えて忘れる。


 推しは、心の安定と生活の彩りになるのだ。

 居ない状態にはもう戻れない。


「推しは尊い」 



 推しと推しの作品は、私にとって「光」


 膝から崩れ落ちた日も、頭を抱えるような時間も、心折れた夜も、視線の先に光が落ちていて、光を辿って顔をあげれば、柔らかくそれでいて鋭い光が見える。

 そこに光があるから、顔をあげることを自ら望み行動できるのだ。


 そして、その光である彼らの作品は、私の身体の奥を震わせる。

 その声と音に、本当に細やかなスパークリングワインの泡が弾ける時のような振動をいつも感じて虜になる。

 耳だけで感じるのではない、身体の奥底、芯から感じるから逃れられなくなる。

 身体の奥から、推しの作品を渇望するのだ。どんなに浴びるように聞いても、もっともっと欲しくなる。機械から聞こえる音だけでは、もう満足できない。生の音を浴びたいと願う。


 出会ってしまった。

 この偶然は、私にとっての必然だった。

 もう、離れられない。この推しの沼は心地いい。


 私は幸せだ。


 どんなに言葉を尽くしても尽くしきれない。

 感謝しかない。


 WHITE JAM


出会ってくれてありがとう。作品を届け続けてくれてありがとう。

光になってくれてありがとう。

これからもずっと。

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