第10話 霊能捜査のすゝめ


「と、言うわけで。まずは捜査の初歩にして王道の聞き込みをしていくよ。花代さん、ここ最近縄張りで名札見なかった?色は……。あ、ヤベ。聞き忘れたな」


 カッコつけて黒手帳を開いて聞き込みを、と思ったら最初から問題が発生してしまった。俺とした事が大事な事を聞き忘れていた。あの引きでこのミスは恥ずかしい。


「……黄色です。二人とも私と同じ中学の同級生だったし、交換してたのは中学の物だったハズですから多分間違いないです」

「なるほど! ありがとう、滅茶苦茶助かる。三木さん黄色の名札似合いそうだね」

「そんな社交辞令は要らないので捜査に集中して下さい」

「ウィッス」


 厳しい。でもなんか隣から助言してくれるのって助手と捜査してるみたいでイイな。すぐ本筋から外れたような言動をする探偵とそれを軌道修正する助手、でも後にその行動が事件解決に必要だとわかって…! みたいなね! 探偵っぽい!

 ……いや、今のは全然捜査に関係ない、同類(趣味と能力両方)の可愛い後輩に出会ってテンションが上がっている割に距離の詰め方がわからないし、そういえば生きた女の子と業務的じゃない会話とか小清水さんを除けばかーなーり久々な(やや)モブくんの空回りトークだけどね。裏も伏線もないし場合によってはセクハラだから気をつけような!


「んん゛、では気を取り直して。…という訳で黄色なんだって」

『うーん。少なくとも落としたのは見てないかなあ? カバンに付けてるのは見たけど、誰も落としてないよ』

「そうかー、じゃあトイレの線はないかな? ありがとう、助かる」

『いえいえー。また遊びに来てくれたらそれでいいよー』

「花代さんと会うの前提として女子トイレじゃん、ハードル高いよー。まあコレ終わったらもう一回お礼に来るから、とりあえずその時にね」

『んー、ギリ許す!』

「よっしゃ、許された! またね花代さん」

『またねー。あ、それと奏絵ちゃんもまたね!』

「あ、えっとはい。……でもあんまりびっくりはさせないでくださいね」

『それは難しい!じゃあね、ばいばい』

「ふふっ。仕方ありませんが女子トイレが使いやすくなったのでよしとします。また、ですね」


 そうやってずっと手を繋いでいた三木さんと花代さんが手を離した。名前で呼び合っちゃって、この短い間で随分仲良くなったみたいだな。


「さて、こういう風に捜査してるんだけど。まだ怪しいですかね?」

「どうも真面目に捜査しているようなのは分かりました。でも捜査前の七海ちゃんへのセクハラ質問の意味はまだ教えてもらってないんですが」

「確かにそうだった」

「故に、監視続行です」

「むむ、次の聞き込み相手に会いに行くまでに説明する場を下さい」

「仕方ないので話は聞いてあげます」


 とっても厳しい。いやどちらかと言えば段々捜査の方へのめり込んでいるように思うけど、それを指摘したら怒られそうだし、助手がついてくるのは探偵としてワクワクしてきたので良しとしよう! そうと思えば楽しくなってきたぞ。わーい助手だあ! 


「! なにか不穏な思考をキャッチしました」

「あまりの鋭さに、頭にアルミホイルを撒きそうになるねえ!」



 所変わって次の聞き込み相手に会いにいく道中。


「俺が今まで出会ってきた霊たちとの経験体験をもとに考察する限り、この世に残る霊とは大雑把かつ乱暴に言えば精神の塊だ。あの世に渡れば多少違いが出るようだけどね」

「あの世もあるんですか?」

「ああ、ある。宗教体系思想形式によって呼び方や理解は違うけど、あの世は存在する。ちなみに確信を持って言える理由としてはあの世からやってきた霊と会ったことがあるからだ」

「直接聞いたと」

「そういうこと。お盆に本人がキュウリの精霊馬を乗り回して、こっちに戻って来た時にバッチリ聞いた。まあそれは少し長くなるというかただの友人の話なのでまた機会があれば話すとして、話を戻すけども」

「話戻すにはキュウリの精霊馬のインパクトが強いと思うんですが、今度で許してあげます。……霊が精神の塊だっていう話ですね?」

「そう。精神体の霊は他の精神に敏感なんだ」

「敏感、ですか?」

「深く悲しんでる人とか楽しそうな人、アツアツのカップルなんかが妙に気になるんだって。生前の感性とは関係なく。存在が希薄な霊なら側にいたら自分の感情も動かされちゃうくらい」


 だから肝試しでドキドキしてる人がいると寄って行っちゃうとか、複数人で撮った写真に紛れ込みやすいとか。


「成る程。確かに私も少し思い当たる事があります。でもこれが捜査の話に繋がるんですか?」

「勿論! ここからが重要、本題。この性質、思い入れのあるにも適用されるんだ。人から想いを込めて貰った御守りや、家族の思い出の品に恋のおまじないがかかった文房具まで、霊達からすると妙に目を引くんだってさ。だから聞けば大体思い出すんだよ。どこそこで見たって」

「! じゃああの質問はつまり…」

「うん、そう言う事。捜査、つまりは霊達への聞き込みが成立するくらい思い入れのある品かが、失せ物探し成功の第一条件ってこと。捜査料もそういうことね」


 それのために1000円も出せないようなどうでも良いものは、そもそも俺には探せないのである。



「恋愛絡みは俺の中ではかなり難易度の高い失せ物探しだって言う認識でね。だって本当に想いのこもった物か分からない事が多いんだ」

「あー、みんなの前では付き合ってる風でも気持ちがなかったり」

「一番最初に出てくるイメージがニ○コイなのはちょっと俺好きだな」

「出るとこ出ますよ。法廷あるいは放銃です」

「その放銃は麻雀用語の方だよね? 銃を放つ方じゃないよね?」


 ストレートに銃殺刑はちょっと法治国家じゃないって俺思うな。語感もそこまでよくないし。


「ま、でもそういう事。浮気とかで既に気持ちが無かったり、プレゼントでも気に入っていなくて実は愛着が無かったり。それでも失くなってしまったら探さなきゃいけない物。それが恋愛案件だからね。片思いはともかく既に付き合ってる人は特に」


 誰かにアピールするために片思いを装うのはライトノベルでたまに小悪魔系キャラがやってるのしか俺は知らないね。


「確かに女子の噂でも偶に聞きますね…。だからどういう経緯で付き合ってるカップルかを事前に聴く必要がある、と」

「三木さんは理解が速くて助かるねえ。そういう事なんだよね。まあ俺は経験なんかないから聞いてみて判断できるかは別なんだけどさ。それでもあんまりにも中身がない話だったり本人が動揺すれば分かるからね」

「…確かに探偵みたいですね」

「俺、一応ちゃんと探偵だよ? ライセンスは持ってないし開業届も出してないけど」

「世の中ではそれを『自称』と言います。自分から名のること。真偽はともかく、名前・職業・肩書などを自分で称すること。です」

「手厳しいなあ。あと一応言っておくけど歩く辞書って多分そういうことじゃないと思うよ」

「とにかく! 自称探偵はまだ怪しいので続行です」

「絶対に三木さん楽しくなってるよね?」

「うるさいです。…それと」

「なあに?」

「先輩が恋愛経験ないことは、黙っておいてあげますね」

「あ゛」


 説明の流れで確かに言ってた…。武島にも誤魔化したのに。助手だと思い込む事でガードが緩んでるのかもしれないなあ。


「うーん、次の協力者が見えてきたぞー!」


 とりあえず誤魔化そう!






「黙っておきますけど誤魔化されはしませんよ」


 別に良いじゃんか!

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