第9話 当たり判定のある後輩
場所はさらに移って特殊棟の校舎裏。なんでここかといえば、人目につかない女子トイレの裏だからです。いや、流石に女子トイレの裏に男がいたら通報ものだからね。実物、というか実霊が必要だったというのと、この後の捜査を手伝ってもらうのとで花代さんの参加できる場所がよかったんだけど、流石にあのまま一年生のトイレの前で長話するわけにもいかないからね。不審すぎる。
「えーっと、確認するけど三木さんは彼女が見えてるんだよね?」
三木さんに花代さんを示しながらたずねる。
「……はい、見えます。というかそう言うってことはもしかして先輩も?」
「うん、はっきり見えるよ。俺は彼ら彼女らが見えることを使って失せ物探しをしている」
同類の前で隠すようなことでもないだろう。見える人にはわかってしまうのだから。
「……私以外にもいたんですね。見えるひと……」
「三木さんは他にはみたことないんだ? 俺は何人かみたことあるよ」
「ぼやけてたまに見える人は知っていますけど、はっきり確実に見える人は初めて会いました」
俺は昔、自分の能力が特別なものなのか確かめるために全国の有名な霊能力者達を見に行ったことがある。その結果、自分ほど見える人はいなくても多少なりとも見える人が存在することを確認している。まあ、当然偽物も詐欺師も思い込みもいたけどね。
「やっぱり三木さんもはっきり見えるんだ。……というか多分触れるよね?」
「触れるというか、当たっちゃうんですよね。触感もあるし、そもそもすり抜けられないみたいで」
「ああ、三木さんに当たり判定があるみたいな感じなんだね」
初めて見るケースだ。それに根本的に俺の上位互換だし、主人公交代の危機では?
「じゃあ、トイレに入るの渋ったのも花代さんが見えてたからか……」
「そうです。『居る』ことは普段からわかってましたし」
「でも、花代さんそんなに怖い? いや間違いなく死んでるし、びっくり系の動きするけどさ」
さっき三木さんの背中から顔を出そうとしたように花代さんは霊であることをエンジョイしているので、普通の人だと思っていたら急に人類に不可能な挙動をし始めて確かに結構びっくりはするんだけど、それ以外は普通の
「いや怖いじゃないですか! 声も聞こえないんですから!」
「えっ」
「えっ」
「聞こえないの?」
「先輩は聞こえるんですか!?」
「まあ、くっきり」
「くっきり!?」
「……そっか、聞こえないのか。じゃあ怖いなあ花代さん……。なにいってるかわからない女の子が急に超挙動だもんなあ」
「そうですよ! それに先輩は女子トイレに入らないから知らないと思いますけど、個室に入ってるときににゅっと入ってくるの怖いんですよ!」
「確かにそれは怖いかもしれん」
俺も便座に座ってるときに同じことが起きたらびっくりするかもしれないな。というか逆に花代さんは見えるって気づかなかったんだな。
『まあ、鑑くん以外はあんまり興味ないからね~。あと~、あたしもその子の声聞こえないからわかんないや~』
「ああ、そっちも聞こえないのか」
普通の人が霊の声を聞き取れないように霊も普通の人の声が聞き取れない場合がある。というより、聞こえない声があるみたいなんだ。完全に聞こえないのは珍しいけどいないわけじゃない。三木さんみたいに見える人の声が聞こえないのはその中でもかなり珍しいけどね。
ちなみに俺の声は不自然なくらいにクリアに聞こえるらしい。なのでそれを珍しがって近寄ってくる霊も少なくない。女子トイレが縄張りの花代さんと知り合ったのもそうだったし。
「……もしかして依頼のときに、最初あんまり話に入ってこなかったのって来海さんがいたから?」
「名前はわかりませんけど、うわさの血塗れの人がいたからですよ! 絶対に割って入ったらマズいじゃないですか!?」
「来海さんのアレ、赤いペンキだけどね……」
だから来海さんがいなくなってから俺たちの会話に介入したんだね……。
「いやみんないい
「大体の霊がいい方なのは知ってますけども、もし違ったら困るじゃないですか」
「確かに……。声が聞こえないのはそういう判断もできなくなるよなあ」
「一応、完全に聞こえないわけじゃないんですけどね。触れていないと聞こえないんです」
『ほんとだ、きこえる!』
「あ、かわいい声ですね花代さん…」
……なるほど、触れていればお互いに聞こえるのか。触れたら聞こえる、というのは初めて聞くパターンではある。いや、そもそも霊に触れることができる人間に会ったのは三木さんが初めてだから、そりゃあ初めてに決まっているんだけども。
俺はそもそも普通に話せるからわからないけど、もしかしたらから誰でも霊に触れれば声が聞こえたりして。触れられる人がいまのところ三木さんしかいないから検証も何もない仮説なんだけど、仮に名付けるなら骨伝導ならぬ『魂伝導』といったところだろうか。
「まあ聞こうにも触れちゃったらもうそれまでだもんなあ」
「そういうことです」
確かに怖い見た目のお兄さんを遠くから見ているのと肩を叩くのはだいぶ意味が変わってくるわな。
「とはいえ、わかった。これなら三木さんに俺の本当の捜査をみせることができるかも」
「本当の調査、ですか」
「そう、俺は霊能探偵。自称だし、他人に呼ばれたりはしないけどね。でも本当に、見えるし聞けるし喋れる。だから、俺にだけ出来る捜査がある」
「先輩にだけ出来る捜査、ですか」
「そう。三木さんにセクハラだって言われた質問が役に立つ捜査が、ね?」
本当に必要だったんですよ?
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