第5話 来たる依頼人

 

 明美さんに、線香をあげた日の翌々日の昼休み。

 

 一昨日の小清水さんの件(まわりに勘違いされた件ね)がうちのクラスにも伝わったらしく。別に誰も話しかけてはこないのだけれど(友達が少ないから)視線が鬱陶しかったので、俺は屋上の入口前にあるスペースに避難して昼飯を食べていた。なぜか武島もついてきた。


 学園ラブコメではないので、うちの学校の屋上への扉には当然鍵が掛かっていて、入ることはできないようになっている。ただ、その手前の空間であるここは一応教師に見つかってもとがめられない上に、『血だらけの少女が這い降りてくる』という学校の怪談系スポットの一つになっていて、夜中に侵入するアホ共以外は、なかなか人が来ないスペースになっている。それに加えて余った机と椅子が物置代わりに置いてあるという利便性もあり、俺とたまに武島はここに何かあれば避難しにくるようになっている。

 

 一応言っておくとに少女の霊はマジでいる。来海クルミさん、享年16歳。十数年前のうちの生徒らしく美術部でペンキを使った作品を作成中に心臓の発作で亡くなったらしい。ここから動く気配はないけど一応浮遊霊で、今でも作品制作を行っているそう。……たぶん目撃者が見たときの来海さんが塗れていたのは血じゃなくて赤色のペンキだとおもう。だって来海さんが死ぬ過程で血は出てないはずだし。



「あ、いたー。つか、じゃない武島くんと由布くん。やっぱりここだったんだねー」

「あれ、小清水さんじゃん。どうしたの、なんか用事?」


 武島と適当な話をしながらコンビニで朝買ったサンドイッチをかじっていると、小清水さんが階段を上ってきた。武島目当てだと思ったんだが、どうも様子が違う。……なんか後ろに2人ついてきているな。スカーフの色を見るに多分一年生だと思う。というか小清水さん普通に後輩の前で武島の名前呼ぼうとしたな。やっぱ君ら隠すの無理あるよね。


「うん、由布くんに用事があるんだー。用があるのは私じゃなくてこの子なんだけどね」

「ど、どうもよろしくおねがいします!」

「お、おう。そんなにかしこまらなくてもいいけど。えーっと由布鑑、一応二年です。よろしくね」

城野キノ七海ナナミです! 水泳部の一年です! よろしくお願いします!」

「水泳部。だから小清水さんが連れてきたのか」


 そういえば前も言ったけど小清水さんは水泳部だ。小清水さんみてるとあんま感じないけど運動部なんだよな。こういう元気系の後輩もそりゃあいるよね。


「えーっと俺に用があるっていうと、あれか。もしや、ご依頼かな?」


 そういえばお忘れかもしれないけど俺って探偵なので依頼がきちゃったりするんだな。


「そうです! 咲良先輩から由布先輩がそういうことをしてらっしゃると伺いまして」

「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ? 俺、部活の先輩じゃないし……。というか小清水さん後輩と仲良くなるの速いねえ。まだ入って1か月ちょっとでしょ?」


 普段帰宅部で後輩となんて話さないから、こうかしこまられると結構緊張するな。コミュニケーション能力のある小清水さんや武島がちょっと羨ましいかもしれない。あとさっきからこっちをじっとみてるもうひとりが気になるな。武島のほうもチラチラ見てるから付き添いかなあ? 友達が年上しかいない場所(しかも他人から見えづらいホラースポット)に行くってなったら確かに不安だよな。俺が不審だからじゃないよ。たぶん。


「七海ちゃんは中学校が同じなのー。中学校でも同じ部活だったんだよー」

「なるほどねえ。じゃあとりあえず説明するかあ」

「おねがいします!」



「はいではどうも由布探偵事務所カッコ仮です。うちがどういうことをしてるかはわかってるかな?」


 さてちょっと格好つけながらやってみましょうかね。年下の女の子の前なので。……いや下心はないですよ? ホントですって。


「はい、なんでもなくしたものを探してくれるとか……」

「うん、そうですね。失せ物探しをしています。じゃあ今回は城野さんがものを無くしたってことでいいのかな?」

「そうです」

「そっか。じゃあ次に料金プランのお話です。まあプランっていっても一種類しか無いんだけどね。依頼料は前金500円の成功報酬500円で合計千円固定。それに追加で諸経費をお願いしています。諸経費っていっても移動費がかかっちゃった時ぐらいにしかお願いをしないのでご安心を。それと依頼完遂時にちょっとお願いをする場合があるけれど、これは断ってもらっても大丈夫。出来るだけ従ってほしいけどね」


 あれね。明美さんの線香みたいなやつね。協力してもらうひとによって必要なことは違うのでどうなるのかはわからないけど、基本拒否してもらっても大丈夫。協力者にも一応、もしかしたらやってもらえるかもぐらいでっていう風に話してあるし、とりあえず俺はするしな。


「はい、大丈夫です。というか、そんなに安くて大丈夫なんですか? 咲良先輩に聞いた限りもっとお金が発生してもいいと思うんですが……」

「一応学生の趣味だからね。千円の料金設定もどっちかっていうと依頼者さんの選り分け用っていうか。その探したいものに千円払うくらい感情があるかっていう確認のためのものだから」


 軽いノリで落とした消しゴム探させられても面倒だしな。ちなみに、うちの探偵事務所的には恋のおまじないをやった消しゴムは捜索対象です。ご連絡は由布探偵事務所まで。ほかにも理由はあるんだけどそれは今度説明するね。


「では、なにを落としたか聞いても大丈夫?」

「はい、私が無くしたのは名札なんです」



 ……名札とな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る