第2話 同行者

 ガラガラガラーッガッタン!


 全力の競歩(廊下は走ってはいけないから)で2-Dから逃げ出した俺は自分のクラスである2-Bに滑り込み、流れるように自分の席に座って突っ伏して力を抜いた。



「あー、マージで怖かった……」



 ちょっと女の子に約束取り付けただけで、あんなに凝視しなくてもいいじゃんね? 俺が逆の立場なら確実に同じことしたと思うけれど。



「おお、由布ゥー。随分と慌てて入ってきたじゃん、どしたん」

「んあー? なんだ武島ムトウか。大雑把に言えば、お前のせいだよ」

「なんで!? 酷くない!?」



 俺の隣に座った、やたら顔のいい男がオーバーリアクションで仰け反った。コイツの名前は武島ムトウツカサ。サッカー部のエースでイケメンで勉強もそこそこ出来るクラスの人気者という、昨今なら異世界クラス転移でかませにされた挙句ひどい目に合いそうなスペックをした男だ。


 去年いろいろあって俺によく話しかけてくるようになったのだけれど、イケメンと(やや)モブの出会いの話とかきっとみんなどうでもいいと思うので、その事件に関しては気が向いたら語ることにしよう。

 まあ大雑把な概要を言うなら、失せ物探しの話だ。由布探偵事務所(総勢1人)にはそれしか売り物がないからな。


「小清水さんに解決の報告をしてきたの」

「なんでそれだけでそんなに疲れるワケよ」

「30人ぐらいの視線に晒されると結構クるもんだよ。お前にはピンとこないかもしれないけど」

「ああー、確かに由布は咲良サクラに釣り合わないもんな。結構見られるかもね。でもそれ俺のせいじゃないじゃん」

おまえの紹介だろうが・・・・・・・・・・! あと自分でも自覚あるけどわざわざ言うのは失礼だな!?」


 そう、司っていう名前で気づいたかもしれないがコイツが今回、小清水さん(フルネーム、小清水 咲良さん)に俺を紹介した張本人。つまりは彼女の彼氏だ。俺が失せ物探しを得意にしていることを知っていて、ストラップを落として困っていた小清水さんと俺を仲介したというわけなんだが……。



「だいたいお前らマジで隠す気あるの?どっちも平然と名前で呼び合いよってに」

「あるよー、あるある。由布を俺らが信頼してるだけだって」

「武島はともかく小清水さんは顔合わせたのって依頼に来た時が初めてなんだけど」



 学年で有名な美少女で武島が結構話題にするから一方的には知ってたが中学も違うし、一年の時のクラスも違ったのであの時が初対面だった筈だ。



「俺が結構由布の話するからなー。それでじゃない?」

「お前が提供できる俺の良い話題とか全然記憶にないんだけど。大丈夫なんだろうな、それ」

「信頼されてるんだから大丈夫なんじゃない?」

「……いい話題がないことを否定していただけません?」

「ははっ」


 なにわろてんねん。いい話題がない自覚はありますけれども。



「あ、そうそう武島に伝えとくことがあるんだった」

「なに?咲良からの伝言?」

「いや、今日の放課後に小清水さんと出かけるから」


 ガタンッ!


「ハアアアアッ!?」


 わーお、ビックエコー。


「いや急に大きな声出しながら立つなよ。ただでさえ目立つんだから」

「あ、ワリィ……」


 俺が周りに向かって軽く両手を振り大丈夫ですよアピールをしているうちに落ち着いた武島が席に座りなおした。


「普通に依頼の件で世話になった人に会いに行くだけだよ。お前に言わなくて後で誤解が起きないように気ィ配ってるんだから先にびっくりすんなよな」

「……ああ、まあ、そう、だよな。悪い、取り乱した。そうだよな、俺の時と一緒だよな」

「そうに決まってんだろ。大体、釣り合ってない~とか言ったのお前だろ。事実だからそんなに警戒しなくてもいいだろうに」

「いや、釣り合ってないとか言ったけど、それ外から見ての話だから。由布は俺が知ってる中で一番いい男だからな。ちょっとは恐ろしくもなるさ」

「この小説BLタグつけてないんだからそういうギャグは自重してくれよ」

「ギャグじゃないし流石にメタいよ」


 メタかった。



「大体、そんなに好きならさっさと公言しちゃえばいいのに。実際俺とか関係なく告白されたりしてるんでしょ?小清水さん」

「まあ、俺もしたいんだけどね。咲良がまだ恥ずかしいって」

「へー、結構意外かもしれん。小清水さんそういうの言うんだ」

「まあね。結構可愛いんだぜ」

「あそう」


 急に惚気だしやがった。つい数十秒前彼女取られるかもと思ってめちゃくちゃあせってたやつだと思うと腹立つなコイツ。もう話切り上げちゃおう。次の授業始まりそうだし。


「じゃあ、そういうことで」

「ああ……っじゃねえや。教科書開いてはぐらかそうとするなよ」

「別にはぐらかしてはないっての。これ以上言うことないでしょうよ」

「俺も行くから」

「ハァ!? そんなこと言っても、お前部活は? エース様でしょ君ィ」


 いくらウチのサッカー部が武島以外は普通で、そんなに強くないと言っても、流石に運動部。練習は毎日ある筈だしサボるのも良くないだろう。


「今日はグランド整備の業者が入るとかで部員は各自で自主練なんだよ。というか、今日はプールも整備だから運動部は体育館競技以外だいたいそうだと思うけど?」


 ああ、小清水さんも休みだもんな。ちなみに小清水さんは水泳部。ウチのプールは事情はよく知らないけど屋内にあって今の季節でも入れるのが特徴だけれどちょくちょく整備が入るらしい。


 なんで平日に整備するんだと思ったけれど部活が一日中練習する休みの日なんかに整備があった方が面倒か。俺は帰宅部だからあんまり実感がないけれど。



「ふーん。まあ休みなら来いよ。というか2人とも休みなら遊ぶ予定くらい立てとけよな、振られるぞ」

「一度も彼女いたことない奴に言われたくねーよ」

「そ、そんなこと教えたことないやろがい!」

「反応が当たってることを如実に表してるじゃん」



 わかんないでしょ!!!

 いよいよ、いつのまにか教室に入ってきていた先生の目がこちらをずっと見ているので、ここらで勘弁しといてやるけども!!!

 わかんないでしょ!!!

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