霊能探偵 由布鑑の失せ物探し
群青ミサキ
名札探しと当たり判定のある少女
第1話 依頼の完遂
「……そう、猫のストラップらしいんだ。ラバーストラップとかじゃなくてぬいぐるみのもふっとしたやつ。鈴も付いてるんだって」
四月も終わりに近づき、世の中は春から初夏へと移りつつある日の午後。
俺は今追っている依頼の手掛かりを求めて聞き込みをしていた。今聞き込みをしている女性は、この辺りでは有力な情報筋。何時も確かで有益な情報をくれる、頼りになるお姉さんだ。
『んー、ネコねこ猫……あ! もしかして、茶色のシマ柄のかしら?』
「ちょっと待ってくれ、メモを確認するから」
やっぱり何か知ってるみたいだ。素早く愛用の黒手帳を捲り、依頼人から聴いた今回の依頼に関するメモを確認する。
「……書いてある、茶色で縞柄。アタリみたいだな。それ、どこで見たかわかる?」
『いやねえ、私がここ以外で見れるわけないでしょ。確か、あそこの路地の奥にトラが押し込むのが見えたわ』
トラっていうのは、この辺りでよく見かける野良猫のこと。拾ったものを脇道に押し込む癖のある奴で、僕の仕事に定期的に絡んでくるライバルのような存在だ。アイツならあり得る。
「あー、そういえばそうか。いやありがとう、とても助かった!」
『いいえ、お役に立てたのならなによりよ』
少し野暮なことを聞いてしまった僕にも優しいお姉さんに感謝しながら捜索に移る。お姉さんの情報通りに俺がスマホのライトをつけながら薄暗い路地に入っていくとすぐに光に反射するものが見えた。
「……みつけた」
鈴のついた猫のぬいぐるみのストラップ。依頼達成だ。
路地から出てきた僕はお姉さんに手を振った。
「ありがとうー! 見つかった!」
お姉さんはニコニコ笑って手を振り返してくれる。やっぱり信頼出来るとってもいいお姉さんだ。依頼人には彼女の事を重要な協力者だと伝えておこう。
翌日。
「ちゃちゃちゃ、ちゃーっちゃ、ちゃちゃちゃちゃちゃちゃっちゃーちゃちゃー」
上機嫌で歌を(JAS○ACが怖いから歌詞は伏せるけれど)口ずさみながら校内を歩く制服の男がいた。いや男というか俺なんだけれど、ともかく俺は制服姿で上機嫌だった。
……いや、少し待って欲しい。俺を学校に侵入する不審者だと認識するにはまだ早い。ごちゃごちゃ言っても仕方ないので単刀直入に言うと俺の本業は高校生なのである。
高校生の探偵、高校生探偵だ。……こう表記すると俺が沢山の難事件を解決して来た名探偵みたいだな。
残念ながら俺は迷宮入り寸前の殺人事件を推理力で解決する名探偵なんかではない。そう思ってこのページを見た方には今すぐブラウザバックすることをオススメする。
何を隠そうこの俺の正体は、高校生をしながら失せ物探し専門の探偵の真似事をしている男なのだ!
……少しは隠した方がいいぐらいにスケールダウンしたことには触れないでいただきたい。俺は結構この現状を気に入っているので。
自爆でとてもよかったはずの機嫌を少し落としながら辿り着いた、プレートに2-Dと書かれた教室の扉に手を掛ける。自分のクラスではないので少し緊張するがこれももういつもの事だ。そろそろ俺も慣れた。俺はスライド式の扉を引っ張った。
—ガラガラッ!
思ったよりも快適に開いたドアに少しビビりつつも、一気に向けられた視線にやや怯んだ。…全然慣れてねえじゃねえか。
やっぱり1時間目終わり直後はマズかっただろうか。朝は不在だと気まずいしなあ、と日和ってしまったからな。
「すんませーん、小清水さんいますか?」
『『『!』』』
「ひえっ」
まごまごしていても仕方がないので、勇気を出して声をかけたらより視線が集まってきてしまった。ちょっと悲鳴が出ちゃったぞ。それでも幸い目標の人物も気付いてくれたみたいだ。こっちに向かってくる。
「由布君。どうしたの?」
こっちに向かってくる小清水さん。あ、由布っていうのが俺の名前ね。
「どうも。例の件で来ました」
「え、もう見つかったの!?」
「有力な情報提供があってね」
目を丸くして驚く小清水さんも可愛い。……じゃないや、小清水さんは今回の依頼人だ。
ポニーテールの似合う小清水さんはとってもお顔の作りがよろしい、所謂美少女という生命体。それも学年で一、二を争う程の美少女。それで性格の方もいいって言うのだから俺みたいなやや(断固としてやや)モブっぽい男が名前を出すだけでそのクラスメイトたちに顔を凝視されるのも仕方がないだろう。俺だって同じ立場ならそうすると思う。死語だがクラスのマドンナにモブが話しかけてきたのである。
とはいえ俺は別に今日、告白しに来たわけではない。彼女に
「これで間違いないだろうか」
俺が差し出したのは例の猫のストラップ。聡明な皆さんなら既にお気付きだと思うがこれが彼女の今回の依頼。失せ物探しだ。
「それだよー! 本当に見つかったんだ! 依頼してよかったー!」
「いやあ、喜んで貰えるなら何よりですよ」
「本当にありがとう! あ、そうそう忘れないうちに。……はい、これ!」
全身で喜びを表現する小清水さんが思い出したようにカバンに手を入れてゴソゴソしてから金色に光る物を俺に差し出した。
「どーも。毎度ありー」
いや、意味ありげに描写しといてなんだけれどただの500円玉ね。俺の依頼料は前金500円の完遂報酬500円。その完遂報酬を頂いたという訳。
「いやー由布君を紹介してもらってよかったよ。おばあちゃんにもらった手作りだから見つかってよかった」
「ああ、それ手作りなんだ。だからちょっとリアルなんだな」
依頼された猫のストラップはデフォルメされたよくある猫の可愛らしいストラップとは違ってふてぶてしさが縫いぐるみの癖に妙にリアルだった。
「うん、うちの猫がモデルなんだー」
……ええ子や。
あ、ちなみに。ここまで紹介したけれど俺は別に小清水さんと付き合いたいとかは思っていない。俺も小清水さんのことを可愛いとは思ってはいるんだけど、彼女には付き合っている彼氏がいるのだ。まだみんなには秘密だそうで知っている人は少ないが俺は知っている。今回、小清水さんに俺を紹介したのがソイツなんだ。俺に略奪愛の趣味はないのだ。
「後それと、今回の件でお世話になった人がいてさ。その人絡みでお願いしたい事があるんだけど」
「いいよー」
「いや怪しいとは思ッ、返事はやっ! もうちょっと疑ってもいいと思うよ!?」
「司くんが由布君は信頼できるって言ってたから大丈夫!」
「アイツと信頼関係が築けているようで何よりですけども」
「それで、なあに?」
「放課後に時間貰える?」
「うん、月曜日は部活がないから大丈夫だよ」
本当に信用されてるみたいでちょっと不安になるなあ。まあでも素直に来てくれるならいいか。これから
「じゃあ必要な物は俺が用意していくから。あとで玄関の所で合流しよう」
「了解だよー」
「ではまた」
「はーい」
そろそろ予鈴が鳴ってしまう。教室に帰らなければと小清水さんに別れを告げて気がついた。
めちゃくちゃみられている。
とてもみられている。
いや怖! 超静かじゃん! まだ休み時間だよ、君たちなんで静かにこっち見てるの! 俺がなんかした!?
……したわ。クラスの美少女が(やや)モブに放課後デート(に聞こえる)誘いを受けてるわ。そして了承したわ。
冷静になった俺は直ぐに2-Dの教室から逃げだした。
勘違いしないで! 俺はただ小清水さんに
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