スマイル

モリ クマオ

チェリー今日会いに行くぜ。

ご一緒にいかがですか?

サンキュー


お馴染みのファーストフード店の決まり文句をBGMに タミオはウンザリしながら外を眺める


高校になってつるんだダチとのバンドも

半ば空中分解。

肩にかけたギターは鉛のように重い。

彼女には振られるし。

いや、彼女であったかも今は謎だ


そういえば

小学校の時に聞いたYMOの

これから新しい何かがはじまるような

そんなワクワク感

もう何年も出会ってないな。


世界にたった1人取り残されたような喪失感を

隠すかのようにタバコの煙で器用に作ったドーナツを眺めていた。



タミオー


パルパルと軽快な音をたてて目の前を

銀色のスクーターがとまった。



久しぶり


メットを脱いで見せた笑顔は

1年前家業を継ぐのが嫌で出て行ったぶっきら棒な10個上の兄のトキオの見たことないない笑顔だった。



何してたんだよ、母さんも父さんもすっかりふけちまったぜ。



自由を見てたんだ、コイツと


コイツ?


ベスパって言うんだぜ。

イタリアのオートバイ。


俺、映画が好きでさ、探偵の映画で主人公が

はちゃめちゃでそいつが乗ってたんだよ

このスクーター

こいつに乗れば何か新しいところへ連れ去ってくれるんじゃないかなと思って。

気の済むまで沢山景色をコイツとみてさ、

決められたレールの景色も自分次第で変わるんだってわかったんだ。

今まで心配かけたな、ごめんよ。

そう言って兄貴はまるで小さい子を

なぐさめるみたいに優しく頭を撫でた。


俺は安心感でみっともなく

泣きじゃくった。

孤独の闇かあけるかのように。





ご一緒にポテトいかがですか?


ダメだスマイルが、にあけちまう。


雑誌でみたチェリーレッドのベスパ

今日で迎えに行くよ。


兄貴のせいでどうやら俺も感化されたらしい。













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