第二話 マジカル京都ツアー開始 そうだ、京都行こう-3
※
初日、午後。
京都市上京区。
堀川通一条上ル、晴明神社。
「観て観て十兵衛! 鳥居に五芒星が掲げられてるぅ~! これぞ晴明神社ね! 今にも陰陽師と鬼の異能バトルがはじまりそうじゃない?」
「いやが応にも、京都にキター! と盛り上がりますですね信奈さま! 五芒星がトレードマークの梵天丸も連れてくればよかったですぅ~」
「鳥居を潜るだけで『晴明の結界が張られているにょだ~』と大騒ぎになるから、いなくて助かったよ。死ぬほどお土産を買わされそうだし。まあ、お守り一個くらいは買ってやっておくか」
「というわけで、くすんくすん。三泊四日の京都ツアーの安全を祈願して、まずは安倍晴明公を祀る晴明神社に参拝に来ました。この種の心霊企画に必須のお祓いというやつですね。信奈さまも明智さんも、鳥居の下で踊らないでくださーい! 手水をお願いします!」
「このクロカンは芦屋道満系だから、晴明神社に足を踏み入れるのははじめてだな、あ~はははは! われら陰陽少女コンビはちょっとやることがあるから、相良良晴、しばらくきみがスマホで撮影を続けてくれー!」
「わかったよ官兵衛。晴明神社なら、あやかしは出ないだろうしな。ほらほら、信奈も十兵衛ちゃんもちゃんと参拝しろよ? しっかし、戦国時代の晴明神社と比べると小さくなっちゃったなあ~。有名な一条戻橋もミニチュアみたいだし」
運転手以外の仕事はしないと固く誓っている宇喜多秀家は車中で爆睡しているので、ミニバンから降りて配信に携わるスタッフは総勢六人。良晴。信奈。光秀。小早川。半兵衛と官兵衛。
男子は良晴一人ということもあって、コメント欄は相変わらず、
《なんでフツメンのお前がそんなかわいい女の子たちに言い寄られてるんだよ爆発しろ》
《こどもの半兵衛ちゃんも顔を見せて~はあはあはあ》
《晴明公、その男を呪殺してくださいお願いします。ここのコメント欄にいるこいつらの魂を捧げます》
《なに普通にデートしてんだよ。さっさとガチ心霊スポットに行って呪われよ、相良良晴!》
という呪詛と邪心の言葉で溢れかえっていたが、信奈が「すっごいー! ガンガンコメントが流れてくるじゃない! ウケてるわ、天下布部はじまって以来の反応だわ! みんな、お賽銭代わりの投げ銭をお願いね!」と浮かれているので、消すに消せないのであった。ネットを介してどんどん邪悪ななにかが蓄積されている気がします、と半兵衛は半泣き顔。
「はいはい、先輩先輩。堀川にかかっているほんものの一条戻橋は新しく作り直されたもので、神社内の橋は旧橋の欄干を用いたミニチュアなんですう! 小さいけれど、素材はほんものというわけです!」
「へえ~。そうなのか十兵衛ちゃん。陰陽道的には有効そうだな、それ」
「そーなの? それじゃあ欄干を引っぺがして持っていきましょうよ、高く売れるわよ~マニア相手に! 一条戻橋って、僧侶が死者を蘇らせたり、渡辺綱が鬼の腕を斬ったりといった逸話でいっぱいじゃ~ん!」
「やめろ信奈~! 安倍晴明の霊力に逆らうつもりか? お前があやかし化してどーするんだよ!?」
「『京都で魔界の扉を開く』って『件』の予言は、実はわたしがこの手で晴明神社の封印を破壊するという意味だったのかもよ?」
「よけい駄目だって」
「じゃ、欄干の欠片だけ! 欠片だけ持って帰っていい~? ねえねえ、いいでしょ~良晴~?」
「だから、ヤメロと言っている! 普通に器物破損だぞ」
お腹すいたー! 八つ橋食べたい! ぶぶ漬け食べたい! と騒ぎながら、信奈は(なんとかして一条戻橋のパーツを持って帰れないかしら)と欄干に張り付いて動かない。
ウキウキの光秀が「偶然隕石が落ちてきて欄干がちょっと欠けたということにしましょうですう! アイデア料は売り上げの三割をいただきますですよ」と信奈に要らない知恵を付けるが、良晴がスマホを構えながら二人の様子を配信しているので実行はなかなか難しい。
「ちょっと~良晴、スマホを向けないでよ~! 逮捕されちゃうじゃーん!」
「わかってるなら諦めろ。お土産の五芒星入りお守りを買ってあげるから、それで我慢しろよ?」
「あーもう。天下布部が文化財を盗掘しまくってる邪悪なサークルだと思われちゃうでしょ、撮らないでよー!」
「いーや、お前を捨て置くと金に目が眩んでほんとうにやりかねないから、撮影する」
「ケーチー。早くほんとに隕石が落ちてこないかしら? 半兵衛官兵衛にはそういう便利なスタンド能力ってないのかしらね十兵衛?」
「ですが信奈さま。もしもメテオストライク並みの巨大隕石を落とされたら、京都ごと十兵衛たちも消し飛ぶですぅ」
「それもそうね。ちっ。『件』の予言通りにあやかしが出て来て暴れてくれれば都合がいいんだけれど、晴明神社自体が結界に守られてるんだろうから、きっと無理ねー」
「いっそ晴明神社の結界を破ればあやかしを引き込めるですよ、信奈さま」
だから、配信しているんだからそういう邪悪トークはやめろ、と良晴は頭を抱えた。
そこに官兵衛が「むふー、一条戻橋を撮るぞー!」と戻ってきたので、やれやれ助かったと安堵した良晴はスマホを渡して境内を一人で散策。
晴明神社の境内は狭い。たまたま小早川隆景と鉢合わせて、二人きりになった。
「こっちを見てくれ良晴。なぜか千利休の屋敷跡の石碑が、晴明神社の敷地内に。利休の茶道は、陰陽道とも関わりがあったのだろうか? 茶器で『気』を操る技術だから、やはり陰陽道の一種なのだろうか?」
「うーん、どうだったかな小早川さん? この世界の戦国時代と俺が知っている戦国時代はまた別だから、わからないな。まずこの世界では、戦国武将が男だし。当然、戦国時代の利休も男だ。いや、本来それが普通なんだけどさ!? あれ? でも、学園に通っている利休ちゃんは相変わらずゴスロリ娘だしっ?」
「うう。ややこしい話だな。良晴の脳が不安定になるのも無理はない」
「でも、この世界で本能寺の変に斃れた武将は、織田信長だと教科書に書いてあった。信奈だけはオリジナルネーミングなんだな、相変わらず」
「……私たちにとっては、戦国世界の記憶は夢のようなものだけれど、良晴は今もこれからもそうではないのだからたいへんだな。教室で突然告白してしまって、す、すまない。気づけば、どんどん事態が面倒な方向に……」
「い、いやっ、そそそそそれはぜぜぜぜんぜん問題ないんだよっ? こここ小早川さんはなにも悪くないよっ? むむむむしろおおおお俺は、そのっ」
「……よ、良晴。きみが戸惑ってくれて嬉しいと思ってしまって、す、すまない……」
あの日の告白以来、良晴の心情は文字通り真っ二つに引き裂かれたままである。
戦国世界で、信奈と結ばれた人生の記憶。
戦国世界で記憶喪失になり、小早川隆景と恋に落ちていた人生の記憶。
この世界で小早川隆景と幼なじみとして過ごし、中学で信奈に出会った今の人生。
このすべてが、一人の相良良晴の人生の記憶として脳に、心に「同レベル」の深さで刻み込まれているのだから、混乱するなと言うほうが無理があった。ありていに言えば、良晴は三度目の人生を生きていて、しかも前世と前々世の記憶もすべて完璧に保持している状態なのだ。
しかし信奈たちはそうではないので、どうしても感情や認識にすれ違いが生じる。
(いつまでも小早川さんと信奈をこのままにしておいちゃ駄目だろ。せめて、俺が無理矢理に選択したら世界の安定性に問題が生じるとかそういう厄介な事情がなければなあ~)
癖になっている頭痛に襲われた良晴の手を、「すまない。こ、困らせるつもりはなかった」とそっと小早川隆景が握りしめていると。
「ちょっと待ったーっ! カメラの外に逃れてまで、な~にをいちゃいちゃしてるのよ~? 委員長、抜け駆けは禁止なんだからねっ!」
そこに獣の嗅覚を発揮したかの如く、信奈が飛んできた。二人は慌てて手を離した。
「の、信奈? 俺たちは偶然鉢合わせしただけで……こらこら、金属バットを持ち出すなー! 神社の境内でなんという罰当たりな!?」
「いつ何時、あやかしが出てくるかわからないでしょ? だから晴明神社であれ武器は手放せないのよ!」
さらに、光秀が慌てて良晴たちのもとに駆け込んでくる。
「相良先輩。半兵衛どの官兵衛どのの陰陽少女コンビに、トラブルが発生したですう! いきなりの怪異勃発です、スマホでの撮影係をお願いするです!」
「怪異勃発? どうせあれだろ? 画像にオーブが写ったとか、妙な音が録音されたとか、心霊配信動画あるあるなトラブルだろ?」
「違いますぅ~ガチのトラブルなのですう!」
「あっ、良晴? 半兵衛の顔は映さないでね? あの子はカメラ恐怖症だから」
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