第二話 マジカル京都ツアー開始 そうだ、京都行こう

 京都心霊ツアー初日、午前。

 ミニバン車内。


「というわけで、はじまりました京都心霊ツアー実況中継! わたしたち天下布部のメンバーは、神戸の六甲山に出現した『件』の予言に導かれて、京のあやかしを捕縛しにいきまーす! ここから先は天下布部終身名誉監督の織田信奈がお送りしま~す!」


「ま、待て織田信奈。昼間の実況は、陽チームの私と竹中半兵衛が担当するはずではないか」


「初配信なんだから監督が音頭を取るのは当然でしょーっ! 皆さん! わたしたちは今から陽チームと陰チームに分かれて対抗戦を開始しまーす! 先に京都であやかしを捕縛したチームが勝ちでーす! 勝者にはこちらの、稲葉山学園のエテモンキーこと相良良晴との交際権が進呈されまーす!」


「むふー。視聴者諸君はアンケートにどしどし投票してくれ! このサル面サル心の相良良晴をゲットするべきは、織田信奈か小早川隆景か? あやかしが捕まらなかった場合は、諸君の投票を稼いだほうが勝者だからな! あーはははは!」


「えっ俺も顔出しするのかっ? かかか官兵衛、待て落ち着け! スマホをこっちに向けるなー! 動画チャンネルに映像を配信したら地球全土に拡散されるんだぞ、削除してもアーカイブに残されるんだぞ、わかってるのか~?」


 既にリア充死ね爆発しろという俺への呪詛コメントで溢れてるんだけど、と良晴は焦った。


「だが断る! きみが泣いても! カメラを止めない! 心霊ツアーと恋愛ドキュメントの同時進行動画で、天下布部チャンネルを登録者100万人の一大コンテンツに成長させてみせよう! 天下一軍師として!」


「くすんくすん。官兵衛さん、私はその、できればネットに顔を晒したくないのでカメラを向けないようにお願いします……想像しただけで、も、も、も、漏れ」


「マカセロー! 半兵衛にロリコンどもが取り憑いたらたいへんだから、それは勘弁してあげよう! あーはははは!」


「あーはいはいはい! 十兵衛は、たこ焼き屋台骸骨の宣伝をさせてほしいですぅ! 視聴者の皆さま、神戸は元町に立ち寄りましたら、たこ焼き屋台骸骨をよろしくですう! 売りはソースの代わりに八丁味噌をどっぷりと塗り込んだ味噌たこ焼き、味噌たこ焼きですぅ!」


「前から気になっていたんだけどさ~十兵衛。『骸骨』ってなんなの? どういう意図の屋号? あと、八丁味噌とたこ焼きは合ってないって言ってるでしょ? DNAに味噌の遺伝子が刻み込まれた、さしもの元名古屋っ子の私も……うえええ~……」


「こほん。す、少しは京都心霊ツアーの前振りをしたほうがいいのではないか、織田信奈」


「そうだよ。なあ、官兵衛。これって編集してから配信したほうがよくね? 素人女子高生のガールズトークを垂れ流しじゃないか」

「むふー。これでいいのだ相良良晴、アクセス数を見ろっ! 世のJK好きがガンガン集まってきている! 天下布部開設以来の繁盛ぶりだぞ、あーはははは!」


「前回の野球試合対決も動画配信しましたけれど、反応はいまいちでした。信奈さまのビーンボール連発作戦への批判的な炎上コメントを片っ端から削除するのでいっぱいいっぱいで……どうしてガールズトークしているだけで人が集まるんでしょう、くすんくすん」


「むふー、まだだ半兵衛。今はまだJKのかわいさで客を釣っているだけ! 京都であやかしを捕縛すれば本格的にバズるぞ~! お互いの式神を駆使して捕縛だー! クロカンにマカセロー!」


「……管轄外の京都で陰陽少女に変身したり式神を召喚したりしたら、娑婆荒らしですからね? ですが今回はかなり危険ですし、京都に着いたら『気』を補給しておきましょう。そもそも私たちのお仕事は世間には秘密なんですから、もし変身しても絶対にカメラに写らないでくださいよ官兵衛さん? くすんくすん」


「そのためにわれらコンビがカメラマン役に回ったのだろう? 心配御無用!」


 天下布部京都チーム一行は今、今川家から借りた七人乗りの高級ミニバンで神戸から一路、京都市へと移動中。終身名誉監督の信奈は当然、真ん中のキャプテンシートを強引に占拠。隣には良晴を座らせていた。三列目の座席には光秀、小早川隆景、半兵衛の三人が座っている。

 キャプテンシートを後方に反転させての対面状態なので、五人が面と向かって会話しているわけだが、


「あー眠い。早く秀家のもとに帰りてえ~。おじさんは配信動画には参加しねーからなー。内緒のバイトが学園長にバレたら雷を喰らっちまう。なーにがあやかしだよ、まったくガキはお気楽でいいよなあ~っ!」


 と今時の若者は見たことすらないフーセンガムを膨らませながら、眠そうに車を運転している宇喜多直家先生の隣の助手席には、スマホを構えた官兵衛が陣取っていた。


「ちょっと待て織田信奈。この車は七人乗りだが……八人乗りのミニバンを借りれば、もう一人載せられたのではないか? 姉者を神戸に残留させたのは、もしかして罠だったのか? そちらにだけアシスタントがいるなんて。ず、ずるいぞ」


「罠じゃない、罠じゃな~い! キャプテンシートは横二人掛けと決まってるじゃん! 監督で部長のわたしは、狭い三人掛けシートには座らないのっ! だってキャプテンだから! 故にミニバンは七人が定員なの!」


「うげげ。信奈さまの贅沢シート好きがまーた発動したですぅ。電車移動の際にも贅沢シートにこだわってごちゃごちゃごちゃごちゃ、いちいちうっせーですう」


「とにかく、半兵衛官兵衛の陰陽術とわたしの金属バット攻撃(物理)があれば、河童だろうが落ち武者だろうが捕まえられるって!

 後は、ほんものが出てくるまでツアーをえんえんと続けるのみよ!」


「いや、ツアーは三泊四日だぞ。織田信奈の好奇心に付き合っていたらキリがないからな。はあ……」


「くすん。ただダベっている様子を配信しているのもなんですので、京都に着くまで車内でなにかプチ企画でもやりましょう、皆さん。怪談百物語を順番に語るというのはどうでしょうか? 私、こ、神戸の怪談でしたらたくさん知ってます。六甲山を高速で走るターボお婆さんとか」


「それはターボババアだな半兵衛! むふー、姫路にもお菊井戸とか刑部姫とかご当地怪談ネタはいろいろあるが、そういうのは夜のほうが盛り上がるな! 初回配信だし、お手軽にババ抜きでいいだろう! 負けた人は、他のメンバーから質問を受けてほんとうのことを答えなければいけないというルールでどうだー! あーはははは!」


「ちょ、ちょっと待て官兵衛!? 俺が負けたら面倒なことにならないかっ?」


「うむ! 相良良晴、きみが負ければ当然、空気が読めない明智光秀が『先輩はどの女の子が好きですか』と質問するっ! いきなり修羅場にして第一回配信の目玉シーンだな、あーはははは!」

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