第22話

「えっ!?テッドさんとティファさんも特別クラスに入ったのですか!?」


晩御飯を食べているときに、フィリスが皆の前で今日あったことを話すと、コールがそう言った。


「うん。実力的には申し分ないと思うけど?」


「そうですね。フィリス兄さんの訓練を受け続けているんですから。」


ネーナも頷いてそう言う。


「2人の実力は解らないけれど、フィリスと一緒に教育を受けるなら、私も安心だわ。いい友達を持ったわね。」


マチルダはそう言うと、スープを掬って口に運ぶ。皆でそんなことを話しているが、カーマインだけが塞ぎ込んだ様にスープ皿を見つめていた。


「…カーマインさん?」


フィリスがそう言うと、ハッとするカーマイン。だが、溜め息をついていた。


「まさか…スープがお気に召さないのですか?」


リースがカーマインに尋ねると、カーマインは首を横に振る。


「いや、そうじゃないよ、リース。とても美味しいよ。」


「あなた、ならば何故、そんな顔をしているの?」


マチルダがカーマインに説明を求める。するとカーマインも今日あったことを話し始めた。全てを話し終わった後、


「それでフィリス。今週末に私と城へ行って欲しいんだよ。」


カーマインが申し訳無さそうにそう言う。


「やはり…アリシア第2王女の顔を焼いたことでしょうか?」


「それもあるだろうけど…実は10年前のあの日のこともあるだろうね。」


「10年前?」


カーマインの言葉に反応したのはネーナだった。


「うん。10年前、フィリスは魔物を倒したことがあるんだ。」


「えぇ!?」


「そうなんですか、フィリス兄さん!?」


「…それは私も初耳だわ。」


皆が驚いていたが、カーマインが続ける。


「この国において、魔物を討伐するのは勲一等に値するからね。皆が驚くのも無理は無いよ。」


「あの時は…相手は油断していましたし、私もカッとなっていて、余り覚えていません。」


フィリスが俯きながら話す。


「それで、どうしようかと悩んでいたのだよ。フィリス、国王と対談してくれるかい?」


「カーマインさんに不利になるようなことはさせられません。行きます。」


「そうか…行ってくれるか。」


「父上、私達も…」


「一緒に行きたいです!」


フィリスが行くことを承諾した途端、コールとネーナも声をあげた。


「今回呼ばれているのは、フィリスだけだ。」


「えー、久しぶりにマーガレット様と会いたいです。」


「そうです、そうです!」


「…マーガレット様?」


テンションをあげる2人が口にした言葉の中に、聞き慣れない名前が出て来たので、フィリスが尋ねた。


「マーガレット・ガデル。第1王女様の事よ、フィリス。」


マチルダが説明してくれた。


「はい!何時でも遊びにいらっしゃいと言ってくれていましたが、中々会えないのです!」


ネーナがそう言うと、コールもうんうん頷いていた。


「確かに。私も中々会わせてあげられないのは忍びないと思ってはいたが…」


「カーマインさん、2人も一緒に連れていきましょう。」


「…そうだな。マーガレット様には伝えておこう。」


「やったー!」


「マーガレット様に会える!」


コールとネーナの喜ぶ顔を見て、カーマインは普段の顔に戻った。そしてその後はゆっくりと食事をして、夜は更けていった。



さて、約束の週末になり、フィリス達は城へと向かった。門番にカーマインが話をして通して貰い、城へと入っていく。すると、入り口でドレスを着た女の人が一人立っているのが見えた。とても美しい女性だった。


「あっ、マーガレット様!」


コールがそう叫んで、ネーナと共に走って行く。マーガレットと呼ばれた女はすこしかがんで2人の頭を撫でる。


「コール、ネーナ。久しぶりね。元気だった?」


「はい!」


「マーガレット様もお元気そうで、良かったです!」


挨拶を済ませて、マーガレットがフィリスとカーマインの方を見て、近付いてくる。


「カーマインさん、その子がフィリス君ですか?」


「はい、その通りです。」


「初めまして、フィリス・ハーヴィです。」


「初めまして。私はマーガレット・ガデル。貴方が顔を焼いたアリシアの姉です。」


真剣な顔付きでマーガレットが言う。それを見て、フィリスは、


「そうですか。その件については謝罪はしませんよ。アリシア様の落ち度です。」


と、ぶっきらぼうに言い放つ。


「ちょっ、フィリス!」


「フフフ、アハハハッ!」


カーマインがフィリスを止めようとすると、マーガレットはいきなり笑い出した。


「カーマインさん、良いのです。フィリス君が言ったことは正しいですわ。私も呆れていますし。民を守るべき王族の恥曝しですから、あの子は。」


そういって、マーガレットはフィリスに更に近づいて、


「面白い上に、格好いい、しかも強い。どうかしら?私のフィアンセにならない?」


いきなりそんなことを言い出す。


「私はまだ騎士学校の学生です。」


「今じゃ無いわ。貴方が卒業してから…」


「それに、そんなことを言っていると、後ろにいる、マーガレット様の本当のフィアンセが泣きますよ?」


フィリスの言葉を聞いて、マーガレットが後ろを振り返ると、今にも泣きそうな顔をした男が一人立っていた。


「バーンズ…フィリス君、何故彼が私のフィアンセだと?」


「私の方を睨みつけていましたから。」


「マーガレット様…本気なのですか…?」


「バーンズ、冗談よ。貴方と私の仲でしょう?」


そう弁明するマーガレット、冗談を本気で捉えるバーンズ。なるほど、2人はお似合いだとフィリスは思った。するとバーンズがフィリスに近付いてくる。


「君は…いったい誰なんだ?」


「初めまして、フィリス・ハーヴィです。」


「ハーヴィ…カーマイン先輩の…?」


「義理の息子だよ、バーンズ。」


カーマインが口を出すと、ようやくカーマインがいることに気付いてバーンズは、


「せ…先輩!?」


と、悲鳴に似た声をあげた。その様子を見てフィリス達は笑っていた。

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