第15話

フィリスは学校のある日であっても、朝早く起きて訓練を行っている。だが学業に支障が出ないように、運動か魔法を一日おきに行っている。今日は運動の日で、早朝から大きな剣を両手剣を振るっている。


「精が出るね、フィリス。」


不意に後ろから声をかけられた。フィリスが手を止めて後ろを振り返ると、カーマインが立っていた。


「カーマインさん、おはようございます。」


「おはよう。その剣が前に言っていた…?」


「はい。先日の夜にミロを呼んで、ソーン村から運んできました。」


ふぅ…と、呼吸をしながらフィリスがいう。


「父さんが残してくれていた形見です。」


「…見せて貰ってもいいかな?」


そう言われて、コクリと頷き剣をカーマインに渡す。カーマインが手に取ると、ずしりと重い。両手剣でも一般的には5キロ程だというのに、この剣は倍ほどの重さがある。少し振ってみようと思ったが、とても扱える物では無いと思って止めて、フィリスに剣を返す。その時、柄の部分に水晶が埋め込まれていることに気付いた。


「その水晶は…?」


「私が見つけたとき、既に填まっていました。これが何か…?」


「いや、とても綺麗だと思ってね。」


「そうですね。」


フィリスはそう言うと、剣を鞘に戻して、


「では着替えて来ます。」


一礼して部屋へと戻って行った。その様子を見て、カーマインは、


「あの剣を片手で軽々と…いや、しかしあの水晶…まさかな…」


何かをブツブツと言って、自身も部屋へと戻って行った。



その日の朝の授業が終わって昼休み、フィリスはテッドとティファと一緒にいた。普段フィリスは気配を殺しているのだが、それを2人が見破れるようになったらしく、声をかけられたのだ。いつも1人で食事をしているので、ある意味新鮮な気分を味わっているフィリス、しかし2人は普段フィリスが何処にいたのか質問攻めをしてくるような有様だったので、気持ちが落ち着かない感じもあった。


「そういや、フィリスは大会に出るのか?」


そんなことをテッドが聞いてくる。


「それは出るでしょう?」


ティファもそう答えるが、フィリスは首をかしげるだけである。


「…大会?」


「あれ、知らないのかフィリス。来週行われる騎士学校武道大会の事だよ。」


「いや、初耳なんだけど…?」


「えぇ!?」


ティファが驚いて奇声を上げる。


「校長先生達からも言われていないの?」


「うん。何も知らないからそう言ってるんだけど?」


呆れ顔をするテッドとティファ。すると2人が説明してくれた。騎士学校武道大会とは、年に1度、新入生が入学して一ヶ月後の季節に行われる実力を見せる大会で、1年生は任意、2年生、3年生は全員参加。真剣勝負の場として国中の注目を集めて見学も可能なので、毎年お祭り騒ぎだ。フィリスがその事を知らないのも無理は無い。まだ一ヶ月程度しかこの国にいないのだから。


「ふーん、勝ったら何か貰えるの?」


「トロフィーと名誉。あと、卒業してからの進路に関係してくるけど…」


「じゃあ出ない。」


「まあ任意だからね。危ないし。」


そんなことを3人で話していると、声が響いてきた。


「あー、こほん。皆さん、校長です。フィリス・ハーヴィ君、校長室まで来て下さい。以上です。」


「何だろうね?」


「多分、武道大会の事だろうよ。」


「かもね…」


テッドとティファは顔を見合わせてそう言う。フィリスは2人に別れを告げて、校長室へと急いだ。



校長室に入ると、マティーナがニコニコしながら言ってきた。


「武道大会に出てみない?」


「お断りします。」


フィリスは丁重に断った。


「え~、なんでぇ?色々楽しいよ?」


マティーナが無理矢理にでも参加させようとしてくる。


「マティーナ先生がそんな声で言ってくると言うことは、何かあるんじゃ無いかなって思うからです。」


「うん。率直に言うと、ピンチなんだよ。」


マティーナがしょんぼりしながら言う。


「実は、最近生徒達が戦う意欲を見せてくれないんだ。」


マティーナの話は続く。つまり、2年生、3年生は全員参加させられて、元々戦いの得意では無い者から苦情が出ていたり、どうせ勝てないのに何で参加しなければならないのかと、1年生は出てくれない。お陰で例年見学者も減ってきており、盛り上がりに欠けるそうだ。そんな中、生徒達の中にフィリスと戦いたいという要望が多いそうだ。前回のクラス分けを巡っての戦いを見ていて、更にそれを親に話したらしい。今年はフィリスが出れば盛り上がるのでは無いかと教師の間でも話し合いが行われたそうだった。


「…で、是非とも君に出て欲しいんだよ。」


「しかし、出場して勝っても名誉とかトロフィーだけなのは…」


「そこを何とか!」


「怪我とかしたくありませんし…」


「お願い!」


「固有魔法も隠しておきたいですから…」


「何でも欲しいものあげるから!」


そこまで言われて、フィリスは考えた。ここでマティーナに恩を売っておくのもいいかと。暫く考えて…


「ルールはどうなんですか?」


「前と同じ。殺害は駄目だけど、それ以外は問題ないよ。」


「…解りました。出場します。」


「やったー!有難う、フィリス君!」


椅子から立ち上がり、フィリスに飛びつくマティーナ。相変わらず小さな姿なので、兄が妹を宥めている様子にしか見えない。が、そこはかとなくいい光景ではあった。しかし、そこへカリナが扉を開けて…


「校長、武道大会の件で…」


そこまで言って、光景を見てカリナが凍りつき、


「…ごゆっくり。」


そう言って扉を閉めた。何やら勘違いされたような気がして赤面するマティーナと、大会に向けて訓練を強化しようと考えるフィリス、2人の考えていることは全然違っていた。


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