第14話

昼休み後、フィリスとマティーナはグラウンドへと出る。と、そこでフィリスは疑問に思った。


「マティーナ先生、校長室から出て大丈夫なのですか?」


疑問に思ったことを口にすると、マティーナは、


「うん。カリナが後は処理できる事しか無いし、書類が貯まってきたら連絡するって言ってくれたからね。君のお陰でもあるし、部屋で出来る事もあるけれど、初日はどうしても外で行いたかったんだ。」


ニコニコしながらそう告げた。


「それでね、君の魔法の質を私に見せて欲しいんだ。」


マティーナはそう言うと、グラウンド上に的を出した。


「君の今使える最大の魔法を、各属性全て見せて欲しい。」


わくわくしながらマティーナは言った。それを聞いて、フィリスは少し困惑していたが、仕方ないと納得して、的から一定の距離を取った。そして、ファイアーボールを右手で出した。メラメラと音をたてる火球を見て、マティーナは不思議がった。


「フィリス君、私は君の本気が見たいって言ったんだよ?」


「これが私の本気なんですよ。」


フィリスがマティーナにそう告げる。すると、マティーナは怒ったような口調で、


「巫山戯ないで!貴方の魔素値で下級魔法のファイアーボールだなんて…!」


そう言ってきた。しかしマティーナは疑問に思った。フィリスは出したファイアーボールを話している間出し続けている。


「まさか…魔法の持続化!?」


驚愕の眼差しをフィリスに向けるマティーナ。この世界の魔法は、一般的には持続させて使うことが出来ない。魔素の無駄遣い、昔からそう言われてきたせいで、使う者はいないとされてきた。勿論、放った後、例えばファイアーボールが着弾し、燃えた木などは対象が燃え尽きるまで燃えるが、持続性のある魔法は皆無といって良かった。以前説明した通り、炎と水は温度操作、雷は距離、風は宙を舞う、それが難しいと言われているが、特に風が最も難しいとされていた。断続的に魔法をかけ直す作業を、飛行中行い続けるからだ。しかし、フィリスは違った。継続的に魔法を使用し続ける事が出来る。つまり、体内の魔素が尽きるまで、魔法を使い続けることが出来る。本来魔法は同じ系統の魔法だけを使うのであれば、余計な魔素の消費を抑えることが出来るが、違う系統の魔法を使うと魔素は急激に消費される。例えばファイアーボールの後にイラプションを使うと、イラプション単体で使用するよりも、体に負荷がかかり、魔素も倍ぐらい消費することになる。魔法は便利と言うよりもややこしい、そういう存在だというのが世界の認識だというのに、その理論を打ち消す程の成果をフィリスは見せていた。


「それ…誰に習ったの?」


マティーナが疑問を口にする。フィリスは冷静に答える。


「私を産んで育ててくれた、今は亡き母から習いました。」


「…そうか。…まあいいや、取り敢えずあの的へ向けて放ってくれるかい?」


前回のクラス分けを見ていなかったマティーナは人伝えで威力のことは聞いていたが、生で見るのは初めてになる。フィリスは言われた通り、的へ向けてファイアーボールを放つ…のでは無く投げつけた。するとファイアーボールは的に直撃し、的は爆音を鳴らして炎上。巨大な火柱がグラウンドにたった。


「そ…そんな…」


がっくりと両膝をついて驚くマティーナ。的にちゃんと当たって良かったと思っているフィリス。そんな2人が見ている前で、的は溶けて無くなってしまった。火は的が無くなると自然と鎮火したが、マティーナの驚きは隠せなかった。が、それで終わるマティーナでは無かった。マティーナは落ち着きを取り戻すと、次の的を用意し、他の属性も見せて欲しいとフィリスに言った。フィリスはそれぞれの的に対して、下級魔法のアイスニードル、サンダーボルト、ウィンドエッジを放った。結果、的はそれぞれ凍結、貫通、切断された。見るも無惨な光景に、マティーナは発狂したように笑っていた。その様子をみて、フィリスは心配になり、声をかけた。


「…マティーナ先生?」


「アハハハハッ!凄いわ、フィリス君!四大属性に関して、私が教える事なんて殆ど無いよ!」


「…有難う御座います。」


「でもね、1つだけ聞きたいんだ。」


「何でしょうか?」


「どうして下級魔法ばかり使うのかな?下級魔法をそこまで使えるなら、上級、いや極大魔法まで使えそうなものなのに…」


それを聞いて、フィリスは理由を告げる。


「私が育った村の文献にあったのは、下級魔法の使い方だけでしたから。」


「え?」


「実は、魔法を教えてくれていた母は、下級魔法の使い方と、魔法の持続化は教えてくれました。勿論、どのようにすれば魔法が強くなるのかも。でも、中級魔法等、強力な魔法は教えてくれなかったのです。」


「じゃあ今から覚え…」


「それは無理なんです。」


「え?」


「先生は、キャパシティをご存じですよね?」


「勿論だよ。」


キャパシティとは、魔法をどれだけ覚えられるかという容量のことである。例えばファイアーボールのキャパシティを1とすると、イラプションは8ぐらいである。更に上の魔法となると、更にキャパシティが多く必要になる。しかし、キャパシティは生まれて増えることが無い。その為、基本はキャパシティの多い人間程魔法に強いと言えるのである。そこでマティーナは想像してしまった。


「まさか…フィリス君、キャパシティが殆ど無いの…?」


そう口にすると、フィリスは首を横に振った。


「私がキャパシティを抑えるために、他の魔法を使わないのは、固有魔法の為なんです。」


フィリスは言葉を続けた。


「必要以上に魔法を覚えて、キャパシティを使い尽くしたとき、私の固有魔法が意味をなさなくなってしまうのでは無いか、そう思うようになりました。」


「じゃあ使える魔法は?」


「そうですね…キャパシティに入っているのは、ファイアーボール、アイスニードル、サンダーボルト、ウィンドエッジ、マジックシールド、そして固有魔法だけです。」


「…固有魔法、見せて貰える?」


そう言うと、マティーナは再び的を用意した。フィリスはその的に向かって立つと、右手にコルトパイソンを召喚し、引き金を引いた。ズガン!と、凄まじい音が鳴り響く。迂闊にも目を瞑ってしまっていたマティーナが次に目にしたのは、跡形もなくなっている的と数100メートル抉れた地面だった。


「各属性をこれで使えるようになること、それが私の目標なんです。だから基礎魔法と下級魔法だけで充分なのです。」


元々マティーナは、この子は何かが違うと思っていたが、それを現実に見せられて驚愕していた。まだ15歳の少年がこれ以上強大になる、それを恐怖と感じるよりも、見てみたいという欲求に変わることは、必然だったのだろう。


「解ったよ、フィリス君。君の固有魔法は誰にも言わないし、むしろ応援するよ。だから、私の教育を続けさせてくれるかい?」


「勿論です、マティーナ先生。先生から教わりたいことはまだまだありますから。」


「フフフ、これからもよろしくね。」


そう言って、堅い握手をする2人だった。


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