第16話
その日の夜、フィリスはハーヴィ家の人達に、武道大会に出場することを話した。
「フィリス兄さん、頑張って下さい!」
「応援に行きますよ!ねぇ、お母様。」
「フフフ、そうね、楽しみだわ。」
口々にそう言うコール、ネーナ、マチルダ。しかしカーマインだけが唸っていた。
「…カーマインさん?」
「いや、出場することはいいと思うんだ。しかし…」
腕を組んで考え事を始めるカーマイン。それを見てコールが発言する。
「父上、何かあるんですか?」
「うむ。あの大会に出て、再起不能になった者も多くいるからね。心配なのだよ。」
「そうね。でも、フィリスなら大丈夫じゃないかしら?」
マチルダがそのようにいう。
「騎士学校の生徒の中に、フィリス程鍛えている子はいないわ。それに、フィリスはずっと1人で生活をしていたのよね?」
マチルダがフィリスを見る。
「はい。森で狩りをしたりしていました。」
「言い方は悪いかもしれないけれど、野生の動物やモンスターを相手にする方がよっぽど難しいわ。校長先生も、対人戦を学んで欲しいから出場を進めたのかもしれないし。負けてもいいから試してみなさい。」
そこまで言って食後のお茶を飲むマチルダ。それを聞いてフィリスは参加する意思を固めた。
次の日も朝からマティーナの魔法の授業だが、その日はいつもと違っていた。
「さて、フィリス君。君に新しい魔法を覚えて貰おうと思っているんだ。」
マティーナは軽々とそう言った。
「マティーナ先生、以前も話したとおり、キャパシティの関係で私は魔法は…」
「大丈夫。君の覚悟は知っているし、それを阻害する様な魔法じゃ無いから。」
手をフリフリ、マティーナがそういう。
「それに、君のためにあるような魔法なんだよ。」
「それは?」
「ヒールとキュア、リカバリー。大きく学んで欲しいのはこの3つだ。ヒールは傷を癒す魔法、キュアは毒などに対して、リカバリーは病気に対しての回復魔法だよ。興味ない?」
それを聞いて、フィリスは驚いた。
「そんな魔法があるんですね。」
「うん。前にストレイボウ君の腕と、ヨヨ君の足を繋いだのを覚えていないかい?」
「あ…確かに。」
「傷を塞ぐ、それ自体はヒールだけでいいんだけど、傷口ってね、様々な病原菌があっという間に入っちゃう。それを消毒するためにキュアとリカバリーが必要なんだ。」
「…」
「君がその3つをマスターしてくれると、とても助かるんだ。特に今度の武道大会ではね。」
「…?」
「毎年怪我人が続出してね、教師でも追いつかない様な怪我をしたり、させたりするんだ。再起不能者が1割、普通の怪我が7割ぐらい。」
「その怪我の治療を、私がするんですか?」
「勿論、殆どは教師の方でするんだけど、切り札は多い方が助かるんだ。お願いだよ、覚えてくれないかい?それに、この魔法はそんなにキャパシティを埋めたりしないから。」
そう言われてフィリスは納得して頷き、
「解りました、教えて下さい。」
「良かった、じゃあ魔法の使い方は…」
そうしてその日のうちに3つの魔法を修得した。ところで、魔法を覚える方法は大きく分けて2つある。本や知識から学ぶ方法、もう一つは自身の中にあるその魔法のイメージを固めて使う方法だった。今回フィリスが行ったのは前者、マティーナからの知識から学んだ。実はこの方法、かなり簡単なのである。既に完成している魔法を目の前で見せる、まさに百聞は一見にしかずと言うやつである。対して後者はオリジナルの魔法構築によって修得する。その為、奥義や固有魔法と呼ばれているものはこちらに入る。フィリスが3つの魔法の使い方を早く修得できたのは、後者の固有魔法を使うことが出来るからと言っても過言では無い。元々存在していない銃召還という魔法を、僅か5歳で構築した、いや、その前の80年もプラスした上で、ずっと憧れていた銃を自由に想像して使うことが出来ることが拍車をかけていたとしても、3つの魔法の修得には早くても一ヶ月はかかるとマティーナは思っていたが、僅か一日で修得してしまった。それを見たときのマティーナは唖然とした顔付きでフィリスを見ていたのだが。当の本人はその顔を見ていなかったのだった。
折角修得した魔法、練習してみたいと思っていたが、練習するような場所が無い。かといって誰かを傷つける訳にもいかないので、完全にマスターしたとはいえない状況が続くが、そんなことを気にしていては自身の目標に届かなくなる、そう考えてフィリスは魔法の訓練を夜中に行っていた。
「うーん…弾丸に属性を持たせる…これはどうしたらいいんだろうか?」
フィリスが困っているのは、弾丸に属性を付与する魔法弾の作成だった。参考文献も知識も無い、そして想像してみても思い浮かばない全く新しい魔法なのだから仕方が無かった。
「弾を作るために1つ魔法を使うから…やはり最低でも4つは同時使用出来なきゃならないかなぁ…」
現在、フィリスは3つの魔法迄なら同時に使うことが出来る。これは、今日マティーナから教わったヒール、キュア、リカバリーの3つを使うからではなく、元々出来ていた。だからこそ早く修得できた事でもある。前回のストレイボウとヨヨとの戦いにおいても、マジックシールドを使い、銃召還、弾丸作成の3つが精一杯だった。10年間で3つ使うイメージを掴んではいたが、どうすれば4つを使えるのか、全く想像出来なかった。
「待てよ、もしかして…」
フィリスは思いついた事を実行に移す。それはヒール、キュア、リカバリーを1つにまとめて、新しい魔法を作り出すことだった。
「これなら…!」
そうして出来た弾丸を調べてみると、3つの効果がある新しい弾丸が出来た。
「よし、このイメージで…」
そう言うと、今度はファイアーボールを出して、それを圧縮し始める。と言っても周りに人がいたならば、ファイアーボールを握りつぶした様にしか見えないのだが…ともかく握った手を再び開くと、赤い弾丸が精製されていた。
「出来た…のかな?」
そう言うとフィリスは窓を開けて指笛を鳴らした。すると暫くしてミロが飛んできた。頭を擦りつけて愛情表現をするミロを、フィリスは優しく撫でてやる。
「ミロ、またお願いできるかい?」
そうフィリスが言うと、ミロはフィリスが乗りやすい体勢になり、フィリスは闇夜の中、森へと飛んでいった。
人気の無い森の中にミロは降りていく。勿論、月明かりだけが周囲を照らしている。
「前世の世界なら、街灯とかもあっただろうけど、そんなの無いものな。」
1人愚痴ってから、フィリスはコルトパイソンをイメージして召喚した。そして、先程作った弾丸をそれに込める。元々、銃と同時に普段は弾丸を作成しているのだが、属性を付与した弾丸を召喚出来たことが無かったので、これが初めての試射となる。大きな大木を見つけて、フィリスはコルトパイソンを構え、引き金を引いた。ズガン!と、大きな音と共に、弾丸が発射され、大木に命中、次の瞬間ボンッ!と音をたてて大木が燃えた。
「なるほど、そう言うことか…これなら…」
そう言うとフィリスはコルトパイソンを消してコンパクトマシンガン、スコーピオンを召喚し、目の前に向かって乱射した。今までフィリスがマシンガンやアサルトライフルを使ってこなかったのは、弾数のためであった。魔法の同時使用、その制限のせいで銃は1発ないし2発が限界だったのだ。しかし、フィリスは今、大量に弾丸を撃っていた。約30秒間、スコーピオンを乱射したフィリスの目の前に広がっている光景は、砕けて折れ、炎で焼かれ、凍り付き、穴が空いたり、切断された森があった。どうやら四大属性全てに加えて、無属性の弾丸も撃ったらしい。
「出来た…やっと出来た!」
フィリスの念願の1つが叶った。普段は喜怒哀楽を余り表に出さないフィリスだが、喜びに打ち震えていた。
「後はしっかりとイメージを持つことだけど…森には悪いことをしたなぁ…」
そういうとフィリスはなぎ倒してしまった木々に目掛けてヒール、キュア、リカバリーを同時に込めた弾丸を撃ち込んでいった。すると、燃え尽きていた木々以外、穴などが塞がり、新しい木々が生えていっていた。
「練習のためとはいえ、森には悪いことをしてしまった。済みませんでした。」
木々に向かって一礼をするフィリス。森には最早銃撃音はしない。再び静寂に包まれていた。
「クルゥ…」
と、ミロがフィリスに近づき、頭を擦りつける。
「ミロ、有難う。さぁ、帰ろう。」
再びミロに乗ってフィリスは空を飛び、家へと帰っていった。
次の日の朝、国中で夜中に凄まじい音が響いていたという話があがっていた。
「森の方から雷のような音がしていたんだよ。」
「しかし、森からここまでは結構距離があるぞ?」
コールがカーマインに説明をしていた。城門に囲まれている王国ではあるが、ハーヴィ家は城壁の近くに家がある。そして森にも国中で最も近い。
「おはようございます、カーマインさん、コール。」
フィリスが2人に挨拶をすると、2人はフィリスの方を見て、
「兄さんも聞きましたよね?昨日の雷のような音を。」
「え…いや、私は…聞いてないけど?」
「ふむ、魔物かモンスターが出たか…今日申告して、調査隊を出してみるから、コールは心配しなくていい。」
そう話をして、食堂へと向かう3人。
(まさか、かなり離れていたと思ったんだが…もう少し離れた場所で訓練はするようにしよう。…近所迷惑だし。)
内心そう考えるフィリスだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます