第11話

夕方頃、ようやく授業が終わった。皆疲れて倒れ込んでいた。


「これで今日の授業を終わる。予習、復習を忘れなければ、いずれ君達も強くなれるからな。日々昇進しろよ。」


そういって、教師は下がっていった。後に残された生徒達も立ち上がって帰り支度を始める。フィリスも帰ろうとしたが、テッドとティファが話しかけてきた。


「やっぱり特別クラスなだけあって凄ぇな、フィリスは。」


「そうかな?父さんとの組み手は、もっとキツかったけど?」


「ハーヴィ様とやってるの!?」


「いや、本当の父さんとだから、10年前の話だよ。」


「…フィリスはさ、何歳から訓練してんだ?」


「物心ついた4歳から。」


「「はぁ!?」」


驚いて大きな声を出すテッドとティファ。他の生徒は疲れていて、その声に反応をしていなかったが、何人かは怪訝そうな目をチラッと向けていた。


「どんな親だよ!?」


「いくら何でも無茶苦茶よ…」


「そうかな?今も自主トレは続けているけど。」


「…なあ、この後家に行ってもいいか?」


「…?別に良いけど。」


「私も行ってみたい。」


そんな話をして、3人で家路につき、ハーヴィ家へと向かった。



フィリス達が家に着くと、玄関先でリースが待っていた。


「お帰りなさいませ、フィリス様。遅かったですね?」


「リースさん、ただいま。」


「そちらの方々は?」


「学校の同級生です。」


リースにフィリスは2人を紹介する。


「初めまして、オルステッド・ヴァーミリオンです。」


「ティファ・カルマです。」


「初めまして、オルステッド様、ティファ様。この屋敷のメイドのリースと申します。以後お見知りおきを。」


スカートの裾を上げて、リースは挨拶をした。


「リースさん、コールとネーナは?」


「コール様とネーナ様は、庭で素振りをしていると思いますよ?」


「そうなんだ。じゃあそっちに行こうか。」


フィリスは2人を連れて庭へと向かう。


庭の真ん中で、コールとネーナは互いに向き合い、剣での打ち合いをしていた。まだまだ遅いが、確実な動作で行っているのが見て取れた。


「はっ!」


「ふっ、えい!」


暫く様子を見ていたが、ふとネーナが3人に気が付いた。


「あっ、フィリス兄さん!」


「えっ?あ、兄さん、お帰りなさい。」


コールも手を止めて振り返り、2人で近付いてくる。


「2人とも、上達したね。」


フィリスは優しく2人の頭を撫でる。エヘヘッと笑う光景は、仲の良い本当の兄妹のように見えた。


「兄さん、そちらの方々は?」


「学校の同級生の…」


「初めまして、ティファよ。」


「オルステッドだ。テッドでいいよ。」


「初めまして、コール・ハーヴィです。」


「ネーナ・ハーヴィです。宜しくお願いします。」


それぞれ挨拶を交わす。と、テッドが疑問を口にする。


「2人も訓練を始めて長いのかい?」


「いえ。1週間前にフィリス兄さんから教えて貰ったばかりです。」


「…え?たった1週間であれほどの事が出来るようになったの!?」


「…?はい。フィリス兄さんの教え方が上手だからです。ね、コール兄さん。」


コールとネーナはお互い顔を見合わせながら笑顔でそう言った。それを聞いて、テッドとティファは唖然とした。


「それで、魔法の方はどうだい?」


フィリスが2人に聞くと、2人は同時に右手を前に出して、手のひらにそれぞれ炎と水の玉を出す。


「これって…無詠唱!?」


「そんな…しかも持続性のある魔法なんて!?」


テッドとティファは開いた口が塞がら無かった。


「うん。毎日続けているんだね。ご免ね、中々見てあげられなくて。」


「いえ、兄さんの教え方が上手だから、僕たちもここまで短時間で来れたんです。」


「フィリス兄さんみたいに、複数の魔法でこれが出来るように、早くなりたいです。」


「フィリス!」


兄妹3人のそんな光景を見て、テッドが大声を出した。


「何?」


「俺にも訓練をつけてくれ!」


そう言われて、フィリスは困惑した。しかし、


「私にも!」


ティファまでそんなことを言い出す。


「2人は学校でカリキュラムがあるじゃ無いか?」


「俺、いや俺達はもっと強くなりたいんだ。だから頼む!」


「この通り、お願い!」


2人が頭を下げる。それを見て、フィリスも2人が本気なのが解った。


「解ったよ。でも、かなりキツいから頑張ってついてきてね。」


「有難う、フィリス!」


「有難う!」


そうして話をしていると、屋敷の庭に面した窓が開く。


「何だ、騒々しいね。ん、君達は?」


5人がそちらを見ると、カーマインとマチルダが覗きに来ていた。


「あ…ハーヴィ騎士団長様だ!」


「凄い、本物よ!」


テッドとティファのテンションは爆上がりだ。


「あらあら、フィリス、そちらの方々は?」


マチルダに聞かれて、


「同級生のオルステッド・ヴァーミリオンとティファ・カルマです。」


「そう。早くも友達が出来たのね、良かったわ。仲良くしてあげてね、2人とも。」


優しい笑みを浮かべて、マチルダが2人に言った。


「はい!宜しくお願いします!」


「宜しくお願いします!」


元気よく2人も返事をした。


「まあ、なにも無いけど夕食を一緒にどうかな?私はもうお腹が空いているんだが?」


「まあ、あなたったら。」


カーマインの言葉に、ますます笑顔になるマチルダ。フィリスは内心不安があった。2人を許可無く連れてきて良かったのかと。しかし、この世界に生まれて育ち、友達が初めて出来たという喜びの方が大きかった。


(…前世では、家族も友達も皆死んでいなかったが…懐かしい。いいものだな、こういうのは。)


そんなことを考えていた。その後、訓練の約束をして、テッドとティファも交えて食事をし、夜になって2人は帰っていった。フィリスは色々あった一日を思い返しながら眠りについた。その夜は…とても楽しい夢を見た。


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