第12話
騎士学校にも1週間に1日だけ休みがある。フィリスがテッドとティファと仲良くなり、訓練すると伝えた翌日がまさにその日で、朝からテッドとティファはハーヴィ家に来ていた。
「おはよう御座います!」
門の前からテッドが大きな声で挨拶をすると、玄関が開き、フィリスが出て来た。
「おはよう、テッド、ティファ。」
「やあ、フィリス。」
「おはよう、フィリス。」
それぞれ挨拶をして、フィリスが門を開けて2人が入る。と、フィリスは玄関には戻らず、庭へと向かう。
「あれ?フィリス、家には入らないの?」
「うん。コール達ももう庭にいるからね。」
そう言って3人で庭に行くと、コールとネーナは椅子に座り、目を瞑って微動だにしていなかった。
「なあ、フィリス。何をやってるんだ?」
「精神集中。」
「…え?」
「今日やることを頭で想像して、それが実現可能な事なのかを自分自身に問う。そうすることで訓練がよりよいものになるんだ。」
「…あのさ、コールとネーナは何歳なんだ?」
「コールは7歳、ネーナは6歳だけど?」
「…とてもそうは思えない威圧感を感じるね。」
「まあ、今から2人にもやって貰うんだけどね。」
そう言うと、椅子を3つ、コール達の近くにおいて、フィリス達も座る。そして目を瞑り、実現可能な範囲で訓練を想像する。テッドとティファはまだ解っていなかったので、今日の晩ご飯の事を考えていたのは内緒である。30分程経って、フィリスが、
「よし、瞑想終わり。」
と、声をかけた。全員目を開けて、深く深呼吸をする。
「じゃあ始めるよ。コールとネーナは復習のために聞いておいて。」
「「はい!」」
2人は元気よく返事をした。そしてフィリスがテッドとティファに今日から行う訓練の説明をした。
それから3時間、みっちりとしごかれて、倒れ込んだテッドとティファの姿があった。
「テッドさん、大丈夫ですか?」
「ティファさん、水を飲んで下さい。」
コール達もそれなりに疲れているはずだが、テッド達を気遣う。ぜぇぜぇと、激しい呼吸を続けるテッドとティファ。
「有難う、2人とも。」
「助かったわ。」
何とか立ち上がり、椅子へと腰掛ける。
「あれ?フィリスは?」
フィリスがいないことに気付いてティファがネーナに聞く。
「さあ?フィリス兄さん、私達が訓練しているとき、不意にいなくなったりしますけど…」
「僕たちも知らないんですよね。」
「そうなのか。まあいいや。少し休憩したかったし。」
「まあそうだよな。昨日の授業の延長を、3時間ぶっ続けで行ったんだから。」
不意にフィリスが目の前に現れた。
「うぉっ!ど、何処から!?」
「近くにはいたよ?」
「兄さん、いつも何処に行っているんですか?」
コールがそう質問すると、フィリスは空を指差す。
「はぁ?意味がわかんねぇ…」
「まあそうだよね。でも、こうすれば解るかな?」
そうフィリスは言うと、魔法を発動させて、空に浮かんだ。
「…へ?」
「嘘…」
「これって…まさか…」
「飛行魔法!?」
4人が驚くが、フィリスは首を傾げて、
「え?普通に飛べるだろう?」
と言った。
「おいおい…どうやったんだよ…」
「そんな高度な魔法を…」
「子供の頃、風魔法を学んだ時に使えるようになってから、魔素を効率よく枯渇させるために空は普通に飛んでたよ?」
地面に降りながら、フィリスはそういう。この世界の魔法の中で、高度な魔法は4属性全てに存在する。炎と水は温度操作、雷は距離、風は宙を舞うことだった。しかし、フィリスは風の最大の難関である飛行魔法を実現していた。
「ねえフィリス、4属性何処まで使えるの?」
「そうだなぁ…炎は岩を溶かすぐらい、水は一瞬で氷を作れるくらい、雷は10キロの狙撃、風は今見せた位かな?」
「マジか…」
「宮廷魔術師でも不可能よ、そんなこと…」
「凄いです、兄さん!」
「そんな凄い人に教わっているんですね!」
驚愕の顔を浮かべるテッドとティファに対して、嬉しそうな顔をするコールとネーナ。
「まぁ、皆にもこれぐらいは出来るようになって貰うから。」
「…出来ると思うか?」
「努力次第かな。」
「解った、やるわ!」
4人はフィリスに追いつけるように頑張ろうと、決意を新たにした。
昼は魔法の訓練、兎に角魔素の最大値を増やすために魔法の持続をテッドとティファに説明し、5人で延々と魔法を使う。やはりテッドとティファは早くも魔素が切れてしまったが、それでもそこそこの魔素はあったらしく、1時間ほどは使い続けることが出来ていた。恐ろしいのはコールとネーナ。1週間前は10分も出来なかったはずなのに、今では3時間は余裕だと言う。フィリスはその様子をみて、
「コールとネーナは次の段階へと進めるけど、どうする?」
フィリスが2人に問う。するとコールとネーナは首を横に振り、
「テッドさんとティファさんが出来るようになってからで大丈夫です。」
と言った。フィリスは嬉しかった。他人を気遣える、そんな風に考えられる兄妹が出来たことが。
とことんまで体に負荷をかけて、自分達を追い込み、その日の訓練は終わりを迎えた。フィリスは最後に、
「テッド、ティファ。朝までゆっくり眠るんだよ?」
「…何で?」
「枯渇した体力、魔素はゆっくり寝ないと回復しないから。下手すると明日全く動けなくなるかもしれないからね。」
「明日、学校もあるしな。うん、家に帰ったらゆっくりするよ。」
「私も。まあ、もう限界なんだけどね…」
そう告げて、テッドとティファは家路についた。それを見送るフィリス達。
「兄さん、テッドさん達凄いですね。」
「…うん?」
「だって、私達と変わらない運動や魔法の使用をしたんですよ。それでも動けるんですから。」
コールとネーナは賛辞を送る。
「まあ、根性はあるね。そのうち、私の実力も追い抜かれるかもしれない。」
「え?」
「フィリス兄さん、それはないと思いますよ?」
そう言われて、フィリスは首を横に振る。
「コール達だって、私を追い抜けるよ。必ずね。」
「そんな冗談、兄さんに似合いませんよ。」
コールとネーナは笑って、家の中へと入っていった。
「…体術では負けないとは思うけど、純粋な魔法では…私より皆の方が上だと思うよ。」
空を見上げて、フィリスはそう口にした。そして、ゆっくりと家の中へと入っていった。
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