ドードーの木
涛内 和邇丸
ドードーの木
ドードーはひとりぼっち…。
きれいな海と砂浜に囲まれた、色とりどりの花々がたくさん咲いている美しい島で、ドードーとその家族や仲間たちは、仲良くしあわせにくらしていました。
ドードーは、仲間たちとあそぶことも大好きでしたが、美しい島をひとりで探検することが大好きでした。
ある日ドードーは、島全体を見わたせる山の中腹にある森で、何とも言えない甘い匂いに誘われて、森の奥深くまで入ってしまいました。
その森の奥でドードーは、赤く大きな果実をつけた、一本の木をみつけました
その木のまわりには、熟しきった赤い果実がたくさん落ちていて、甘い匂いはその果実からしていました。
くだものが大好きなドードーは、うれしくなってその果実をいくつもほおばりました。
しばらくすると、なんだかふわふわと気持ち良くなってきました。
熟しきった赤い果実は、発酵していたために、ドードーは酔っぱらったのでした。
そして、楽しい気分で歌ったり踊ったりしているうちに、眠りこんでしまいました。
目を覚ましたドードーは、またその赤い果実を食べ、酔っぱらっては眠り、また食べては酔っぱらって眠ることを続け、知らないうちに十日以上が過ぎていました。
ドードーが森に入った日、島には船で人間たちがやって来ていました。
ドードーの家族や仲間たちは、人間を見るのは初めてでしたが、好奇心がつよく、人なつっこい性格だったこともあり、怖がりもせずに近づきました。
ドードーが森からもどると、家族や仲間たちの姿がありません。
ドードーは、みんなを一生懸命探しましたが、見つけることができませんでした。
ドードーが途方に暮れていると、おしゃべりでうわさ好きな小鳥たちが、ドードーの家族や仲間たちはみんな、人間の船にのせられて、どこかに連れていかれたことを、たのしそうに教えてくれました。
それを聞いたドードーは、家族や仲間たちを探す旅に出ることにしました。
丸太にまたがって、やっとのことで海を渡り、いろいろな場所を探しまわりました。
見たこともない大きな動物、見上げるほどの背の高い動物、いろいろな動物たちと出会いました。
でも誰も、ドードーの仲間のことは知りませんでした。
ただ…、どの動物も人間のことを好きではありませんでした。
そしてみんな、口をそろえて人間につかまらないように気をつけろ、と言うのでした。
緑の草が広がる丘で、人間と暮らす動物たちにも出会いました。
緑の草が広がる丘は、なぜか板で囲まれていて、中にはもこもこした、白い動物たちがたくさんいました。
もこもこした白い動物たちは、ワンワンとうるさい、一匹のいばった動物に、追いまわされていました。
(ここのみんなは楽しいのかな?)
ドードーはそう思いました。
ドードーは一度だけ、人間が住む場所で、仲間を見つけたことがありました。
森の中を歩いていたドードーの前に、緑の丘でみかけたいばった動物によく似た、年老いた動物が現れました。
「ん?おまえ、動けたのか?」
急に声をかけられて、ドードーは驚きました。
「まぁいい、帰るぞ。」
そう言って歩きだした、年老いた動物のあとを、わけもわからないまま、ドードーはついて行きました。
そこには、石を積み上げて作った、見上げるほど大きな、人間の家がありました。
ためらうそぶりも見せずに、年老いた動物が、人間の家に入って行ったので、ドードーも不安な気持ちを抑えて、中に入りました。
「ん?」
年老いた動物は、小さくつぶやいて振り返り、不思議そうにドードーを見ました。
そしてドードーは、年老いた動物の向こうに、それを見つけたのです。
木で出来た台の上に立つ、自分とそっくりな仲間の姿を。
(やっと、仲間に会えた!)
うれしくなったドードーは、その台に近づくと、仲間に話しかけました。
でもドードーが、どんなに大きな声で話しかけても、その仲間は、ずっと同じ姿のまま動きません。
変に思ったドードーは、その仲間を目を見つめ、気がついたのでした。
そこにはもう、仲間の魂がいないことに。
その時初めて、ドードーは人間がこわくなりました…。
ドードーは、泣きながらその部屋から飛び出すと、息があがって動けなくなるまで、必死で人間の家から離れました。
旅に出て何度目かの冬、湖で出会った事情つうの渡り鳥から、
「人間に連れていかれた、キミの仲間たちは、みんなもういなくなったらしいよ…。」
そう聞かされてもドードーは、仲間に会えると信じて、旅を続けました。
しかし、渡り鳥の言葉どおり、ひとりの仲間にも会えないまま、長い年月だけが流れてしまいました…。
そして、ドードーもすっかり年を取り、その旅も終わろうとしていました。
海辺を歩いていたドードーは、甘い香りに引き寄せられて、砂浜に流れついた果物を見つけました。
それは、伝説の島にあるといわれる、数十年に一度しか実を付けない、食べると願いが叶う幻の木の果実でした。
その幻の木の果実を食べて、少しだけ元気になったドードーは、小高い丘をのぼって腰を下ろすと、しばらくの間、遠い目をしながら海の彼方を眺めていました。
そして、ひとすじの涙を流すと、しずかに横たわるように倒れこみ、その命の旅を終わらせたのでした…。
ドードーは大地に還り、そこから一本の新しい命が芽吹きました。
その新しい命は、ドードーが旅をした長い歳月より、長い時間をかけて成長し、立派な大きな木になりました。
そして、たくさんの花を咲かせると、たくさんの実をつけました。
大きく育って熟した実は、ひとつまたひとつと地面に落ちると、中からちいさなこどものドードーたちが生まれてきました。
すると不思議なことに、その大きな木は、今度は栄養のある、こぶりな実を枝いっぱいに実らせて、ちいさなこどものドードーたちが、自分で食べものを探すことができるようになるまで、与え続けました。
成長したこどものドードーたちは、誰に教わった訳でもないのに、ドードーとその家族や仲間たちが、しあわせに暮らしていた美しい島を目指して、旅立っていきました。
こどもたちは、途中で人間につかまることもなく、一羽もかけずに島にたどりつき、
美しい島は、ふたたびドードーたちで、にぎわいはじめました。
そして…、
こどもたちの成長と旅立ちを見とどけて、その役目を終えたドードーの木は、二度と実をつけることはなく、ふたたび眠りについたのでした。
(人間に見つからずに、また仲間たちといっしょに、仲良くしあわせにくらしたい。)
幻の果実を食べたドードーの、それが最後の願いでした。
ドードーの木の実から生まれた、ドードーのこどもたちの姿は、なぜか、人間にだけは見ることができません。
あの美しい島ではきっと今日も、ドードーたちが、仲良くしあわせに暮らしていることでしょう。
おしまい。
ドードーの木 涛内 和邇丸 @aaron103
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます