65 お母さんの夢

 お母さんの夢


 その日の夜、さなぎは夢を見た。

 その夢は緑色の草原の夢だった。

 見渡す限り一面が緑色に染まっている草原の上にさなぎはいる。

 さなぎはそこに立っていて、真っ青な(まるで海のようにも見える)空を見ていた。

 世界には風が吹いている。

 少し強い風だ。

 でも、柔らかくて、暖かい風。

 そんな気持ちのいい風が吹いている。

 その夢はさなぎが小さなときから、よく見ている夢だった。

 その夢の中でさなぎはよくお母さんと出会った。

 木登さやか。

 さなぎとみらいお姉ちゃんのお母さん。

 お母さんはその草原の上に立っていて、どこか遠い場所を眺めている。そんなさやかお母さんに向かってさなぎは「お母さん」と声をかける。

 すると、さやかお母さんはさなぎの声を聞いて、さなぎのほうを向いてくれる。(そして優しい顔で笑って「どうしたの、さなぎ」とさなぎに言ってくれるのだった)

 さやかお母さんはいつも花柄のワンピースを着ていた。

 ゆったりとしたワンピース。

 それに頭に花のついた帽子をかぶっていて、足元は麦で編んだサンダルだった。

 さなぎが世界を見渡すと、そこに一人の女性がいた。

 その女性を見て、さなぎはあ、お母さんだ、と思った。

 でも、よく見ると違った。

 そこにいたのはさなぎのお母さんではなかった。

 そこに立っていた後ろ姿の女性はいつもさやかお母さんが着ている服を着てなかった。

 その女性は、白いワンピースを着ていた。

 頭には白い帽子をかぶっている。

 長い黒髪は腰まで伸びている。(それはさやかお母さんと一緒だった)

 その女性の後ろ姿は明らかにさやかお母さんとは違う女の人の後ろ姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る