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「今の曲はお母さんが作曲してくれた私のためのピアノ曲なの」

 と恥ずかしそうな顔のままでのはらは言った。

「のぞみさんが作曲した曲なんですか?」

 ととても驚いた顔をしてさなぎはのぞみさんを見る。

「ええ。そうよ」のぞみさんは言う。

「すごい、のぞみさん、すごいです!」

 その大きな目をきらきらとさせながらさなぎはいう。

「ふふ。本当にどうもありがとう、さなぎちゃん。でも、そんなにすごくはないのよ。こののはらを探してと言う曲は、もちろん愛情をこめて、しっかりと考えて、私がのはらのために作曲をした、私たち家族にとっては本当に大切にしている曲なんだけど、技術的なこととか、新しさとか、難しさとか、人を感動させる力とか、そう言った意味においては、それほどすごい曲じゃないの。正直な話ね。ピアノを習ったことのある人なら、たぶん誰でも作曲しようと思えばできるような、そんな簡単で素直な曲なの」

 ピアノの椅子に座り直しながらのぞみさんはそう言った。

「そうなんですか? 全然そんなふうには思えませんでした。私、すごく感動しました」とさなぎは言った。

「そうかな? でも、さなぎちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな。少し自信がついたかも」

 ふふっと笑ってのぞみさんは言う。

 さなぎは先ほど聞いたのはらを探してと言う曲を頭の中でできるだけ正確に音階を理解しながら繰り返していく。

 すると、やっぱりさなぎの心は感動した。

 ……うん。すごい。

 やっぱり、すごい。

 すごいです、のぞみさん。

 そんなことを目をつぶって、ピアノの曲を頭の中で奏でているさなぎは思う。

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