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のぞみさんは「少しコーヒーが飲みたい気分かな?」と言って、一度部屋をでて台所でコーヒーを淹れて、自分の部屋に戻ってきた。
その間、のはらは自分の部屋に置きっぱなしにしていた、自分のぶんのミルクコーヒーとさなぎのミルクコーヒーをおぼんにのせて、のぞみさんの部屋まで持ってきてくれた。
その間、さなぎは妖精さんと一緒にのぞみさんの部屋で二人が帰ってくるのを待っていた。(その時間、さなぎはずっと誰も演奏していないぴかぴかの大きなグランドピアノを見ていた)
「お待たせ」と言って、のぞみさんとのはらが部屋の中に戻ってきた。
三人は一口だけコーヒーを飲んで(のぞみさんのコーヒーだけブラックコーヒーだった)それから「美味しい」とのぞみさんが言った。
「最初はね、このピアノの曲は『のはら』というのはらの名前だけの曲だったの。題名も曲と同じように簡単で素直なほうがいいと思ったの。でも途中で今の題名に変えようと思ったんだ」
「どうしてですか?」さなぎはいう。
「だって、のはら。すぐにどっかにいっちゃうんだもん。すごく元気で、おてんばで、じっとしていることがすごく苦手て、いつも走り回っていて、目をはなすとすぐに私のそばからいなくなってしまう。だから私はいつものはら、のはら、どこに行ったの? と言って、慌てながらのはらのことを探し回っていたの。そんなことをしていたら、ある日ふと、私の頭の中で、ああ、あの曲の題名は、のはら、じゃなくて、きっと、のはらを探して、なんだな、と自然とそんなふうに思えるようになってきてね、そう思ってしまうと、もう、あのピアノ曲の題名は絶対に『のはらを探して』だな、って、そう思ってしまうようになったの。それでのはらを探して、と言う題名にしたんだ。それは今でもそれで良かったと思っている。のはらって、とても簡単に、素直に名前だけのほうがのはらに私の愛情を感じたり、受け取ってもらえるかな? って思うこともあるんだけどね。でも、やっぱり違う。あの曲はのはらを探して、だね。のはら、じゃない」
と、うんうんと自分でうなずきながらのぞみさんは言った。
(それからのぞみさんはコーヒーをまた一口だけ飲んだ)
「へー、そうなんですか」
興味しんしんと言った様子で、さなぎはいう。
「もう、二人とも、その話はもういいでしょ? 私、その話苦手なの、恥ずかしくなっちゃうから。その話はもうここで終わり。いいね」と怒った顔をしている、のはらがいう。(顔は真っ赤なままだったけど)
「えー、もっと聞きたいです」
不満そうな顔をしてさなぎは言う。
「だめ」
とソファーの上にあった真っ白なクッションで、自分の顔を隠しながらのはらがいう。
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