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「私、今よりもずっと小さなころにね、すごく嫌なことがあって、お母さんから『幸せになる方法』を教えてもらったことがあるんだ」

 夏の気持ちのいい風の中で、縁側の上に横になっているのはらが天井を見ながらさなぎに言った。

「幸せになる方法、ですか?」

 同じように縁側の床の上に横になりながら(のはらは足を縁側の外に出して、さなぎは体全部を縁側の床の上で丸くなるようにして)あまりにも気持ちよくて、思わず眠ってしまいそうになっていたさなぎがいう。

(妖精さんはそんなさなぎのお腹の上あたりにいる)

「うん。ねえ、お母さん。どうやったら私たちは幸せになれるのかなって、そう泣きながら聞いたの。今となっては私にとって一番の恥ずかしい思い出なんだけどね」とふふっと笑いながらのはらは言う。

「それはとてもシンプルなものだったの」

「シンプル?」さなぎはいう。

「とても簡単なことだったの。でも、すごく難しいことでもあった」

 顔を横に向けて、さなぎを見ながらのはらは言う。

「とても簡単なことだけど、でも、すごく難しいこと」

 そんなのはらの顔を正面から真っ直ぐに見つめるようにして、さなぎは言った。

「そう。それをさなぎちゃんに教えてあげるね」

 のはらは言う。

「え? 本当ですか?」

 目を大きくしたさなぎは思わずその体を跳ね上げるようにして、そう言った。

『きゃ!!』

 という声を出して妖精さんが縁側の床の上にころころと転がった。

「あ、ごめんなさい、妖精さん」

 と慌てた様子で、さなぎは言った。(そんなさなぎのことを、のはらは微笑ましい顔をしながら、じっと見つめていた)

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